北朝鮮で「覆面の武装集団」が大暴れ…治安悪化、金正恩も警戒
2020年1月のコロナ鎖国以降、北朝鮮国内では食糧や生活必需品の不足が深刻化している。人々は生き抜くために、勤め先の工場や行政機関などの備品、設備などを盗んで売り払い、食べ物に換えている。
「物資と設備の泥棒が増えて社会が混乱している」と述べた平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、最近起きた窃盗事件について伝えた。
道内の平原(ピョンウォン)郡の水産事業所に所属する船長は、不足する網といかだを手に入れるために、他の水産事業所に忍び込み、網と大型のいかだ28艘を盗み出した。被害総額は2700万北朝鮮ウォン(約64万8000円)。それを自分の船に積み込み、残りは売り払って酒と肉を買い込んだが、結局は逮捕され、法的処罰を受けた。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
ただし、具体的にどのような処罰を受けたのかはわかっていない。ちなみに北朝鮮の刑法91条は、国家および社会協同団体の財産を盗んだ場合は1年から9年以下の労働鍛練刑(懲役刑)に処すと定めている。
今回の事例は、個人が食べていくために勤め先の財産に手を付けたのではなく、勤め先のノルマを達成するためのもので、この手の犯罪も多発している。国から得られるはずの備品が得られず、ノルマを達成せよとプレッシャーばかりかけられるからだ。
情報筋は「最近、他の船からエンジンを盗み出す事件も発生した」として、「盗賊が(1990年代の大飢饉の)苦難の行軍を彷彿とさせるほど多い」と嘆いた。
一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)も、今年2月以降、北朝鮮で強盗や強姦などの凶悪犯罪が増えていると伝えている。
咸鏡北道の情報筋はRFAに対し、「家財を何から何まで盗んでいく空巣や、夜道で自転車に乗っている人を押し倒し、自転車を盗む強盗事件がたびたび起きている。人々は外出もできず、夜間に自転車に乗ることも怖がっている」と述べている。
RFAによれば、北朝鮮では近年、覆面の武装集団が金持ちの家を襲撃する事件も発生しているという。北朝鮮当局は先月、「一部の前科者とヤクザ者が良からぬ考えから党幹部や行政幹部、安全・保衛要員を襲撃して殺人行為に至った事例」が増えているとして、凶悪犯罪を防ぐため「犯罪前科者」「ヤクザ者」に対する取り締まりを強化するための指示を関係各機関に下した。
金正恩体制が、徒党を組む犯罪者たちを強く警戒していることがうかがえる。
北朝鮮がコロナ鎖国を解く予兆は見えているが、以前並みに国境が開かれるまでには相当な時間がかかりそうだ。その間、北朝鮮の治安は悪化の一途をたどる可能性がある。