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コロナと戦う医療最前線を支援する99歳元英国陸軍将校にエールを送るプロゴルファー、みんなヒーローだ!

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
自宅の庭を歩行器で歩き、100周したムーア氏。優しさとチャレンジ精神が素晴らしい(写真:ロイター/アフロ)

 2013年全米オープン覇者で2016年リオ五輪で金メダルを獲得した英国人プロゴルファー、ジャスティン・ローズがツイッターで「彼がついに達成した!」と、ある人物のすばらしきチャレンジを笑顔で讃えていた。

「99歳のキャプテンが『庭を100周』を達成したこと。それを見守り、サポートした英国の大勢の人々。信じられないほど素晴らしいストーリーだ。キャプテンは僕たちみんなを奮い立たせてくれた」

 ローズの発信で、この99歳キャプテンの『庭を100周』のビッグ・チャレンジは、英国のみならず米ツアー選手や関係者、ゴルフファンにも知れ渡り、すでに16億円超の寄付が集まっているという。

【歩行器で歩いて100歳までに100周】

 これは、新型コロナウイルス感染が拡大し、パンデミックの真っ只中にある英国で起こった実話。99歳の元英国陸軍将校の心温まる武勇伝だ。

 4月30日に100歳のバースデーを控えているトム・ムーア氏は、命懸けでコロナと戦い続けている医療最前線の人々への寄付を募るため、何ができるだろうかと思案し、考え出したのは、自宅の広い庭を100周することだった。

 すでに99歳の高齢で足が悪いムーア氏は、歩行器無しでは歩けず、歩くスピードも当然ながらとてもスローだ。そんなムーア氏にとって、広大な庭を100周することは、大きなチャレンジとなる。

 だが、1日10周、10日で100周を目指し、「100歳のバースデーまでに100周しますから、是非とも寄付してください」と記したチャリティ・ファンドをネット上に創設した。

 4月10日にファンドを開設してからというもの、瞬く間に寄付が増え始め、24時間以内に目標額だった1000ポンド(約13万円)を上回った。数日後には1億円を超え、今では16億円以上の寄付金が寄せられているという。

【本当のヒーローを支援したい】

 そんな人々の温かい反応と応援によって、ムーア氏自身にもパワーが漲ったのだろう。1日10周より格段に早いペースで庭を周回したムーア氏は、開始から6日目の16日、ついに100周を達成した。

 さらに素晴らしいことに、達成の瞬間を英国TV局のBBCが国民へ向けてしっかりと報じた。英国陸軍は現役の兵士数名をムーア氏の庭へ派兵し、ムーア氏の「栄誉警護」も行なった。

 自宅の庭を歩くとはいえ、英国の元軍人、そして英国紳士らしく、濃紺のジャケットをきちんと羽織り、左胸には数々の勲章を付けて歩いた。そして、ついに100周目を達成したムーア氏は、少しばかり息切れしながら、マイクに向かって喜びを語った。

「みなさんのたくさんのサポート、ありがとう。感謝の言葉がありません」

 かつてムーア氏はエンジニアとして英国陸軍に所属し、第2次世界大戦を経験。インドやインドネシアにも駐留し、最前線で戦う経験を味わった。その意味、その厳しさを身を持って知っているからこそ、今、目に見えないウイルスと戦う医療最前線の人々の役になんとかして立ちたいと願い、居ても立ってもいられなくなったのだそうだ。

「今、すべてのお金は医療最前線で戦っているドクターやナースの支援に向けるべきです。彼らはそれに値する。彼らこそが、本当のヒーローなのだから」

 ムーア氏のチャリティ・ファンドに寄せられた寄付金は、英国のNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)へ贈られる。

「寄付金をさらに募る必要があれば、私はもう1度、庭を100周します」

 ムーア氏は家族にそう語っているという。

 感染拡大防止のため、今はチャリティ活動も制約されてしまいがちだが、そんな中、ムーア氏のチャレンジは、人と人とが接触することなく、しかも「stay home」で、しかも短期間で16億円超の巨額を集めることができた。

「トム・ムーアは、僕たちみんなを奮い立たせてくれた」

 ローズはムーア氏に感謝と尊敬を込めて、そんなツイートを発信し、米ゴルフ界にムーアの功績を報告していた。ローズも、日ごろから愛妻ケイトとともに、自宅のあるフロリダ州のコミュニティの貧困家庭や子どもたちに救いの手を差し延べ続けているチャリティ精神溢れる選手である。

 そのローズが、一早くムーア氏の活動をキャッチし、米国で広めようと動いたことで、米ツアー仲間や関係者、米国の人々もムーア氏のチャリティ・ファンドにたくさんの寄付をした。

 温かい心は温かい心とつながり、そして広がっていく。欧米社会では、ゴルフに携わる人々もその善意の輪の中に存在し、その一翼を担っている。ムーア氏が言う通り、医療最前線で戦っている人々こそは、「本当のヒーロー」であることは間違いない。

 だが、ドクターやナースを支援したい一心で、不自由な足で100周に挑み、寄付金を集めたムーア氏もヒーローではないだろか。そんなムーア氏のチャレンジを米国や世界へ広めたくて、メッセージ動画を配信してバックアップしたローズも、陰ながら頑張ってくれたヒーローだと私は思う。

 未曽有の世界危機の中、そういうヒーローたちがいてくれることが、とてもうれしく感じられ、日本のみなさんに是非とも知っていただきたくて、大急ぎでキーボードを叩いた。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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