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ゴルゴ13の日銀会合の描写に違和感

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

日本の債券市場関係者も注目していたとされるゴルゴ13の後編がビッグコミックの最新刊に掲載された。日本国債の暴落場面は、残念ながらほんのわずかであった。取材時の状況からみると本来はもう少し具体的なマーケットの様子があってもおかしくはなかったはずだが、ストーリーの流れからはその部分は省略されてしまったようである。

標的は予想したとおりに元スナイパーであり、大手債券ファンドの女性ファンドマネージャーであった。しかし、麻生さんに似た財務大臣は依頼はするが断られている。このあたりの状況について気になる方はぜひゴルゴ13を読んでいただきたいが、別なところで気になる描写があった。

ゴルゴ13の後編が収められたビッグコミックの発売日は10月10日であり、その数日前に日銀の金融政策決定会合が開催されていた。ゴルゴ13において、やはり金融政策決定会合が開催されている場面があり、日銀総裁が「追加の緩和策を議論したい」と発言していたのである。10月7日の本物の金融政策決定会合では一部に追加緩和期待があったことで、さすがゴルゴ13である。しかもゴルゴ13に描かれていたように結果としては現状維持であった。

このシーンで気になったのは、ゴルゴ13上では日銀総裁の提案について否定され、その提案を引っ込める格好となっていたことである。しかも、これは議事録に残さないとしていた点である。

もしかするとゴルゴ13での「議事録」というのは「議事要旨」の間違いであった可能性がある。「先ほどの議論を公表すれば、大きな混乱を招く恐れがあるため」との日銀総裁のセリフもあり、これは約1か月後に公表される議事要旨であったのかもしれない。日銀の金融政策決定会合の議事録の公表は10年後であり、10年後に混乱を招くことは考えづらい。

さらに現在の黒田総裁の決定会合でのスタイルは多少、過去と変わった可能性はあるものの、日銀の金融政策決定会合では、いきなり議長である総裁が金融政策の変更のための議論をしたいと申し出ることはないはずである。

もちろん政策変更時にはそれなりの事前準備もしているはずであり、多数決で決めるため、その票読みも重要となる。ただし、イングランド銀行などと異なり、日銀では議長提案が否決されることは考えづらい。日銀では、先に議長以外の全員の意見が出されて、ある程度の票が読めた段階で、取りまとめというかたちで議長提案がなされるためである。政策変更時にはこのあたりで阿吽の呼吸が働くようである。つまり、議長提案の前に副総裁などを中心として。ある程度の流れが形成される。もし賛成多数で可決されるとの読みがないと議長提案はなされないかたちになっている。それでも過去には4対4、5対4と、最終的には議長の一票でかろうじて決定されてケースもあったことは確かではあるが。

本来であれば、ゴルゴ13の国債暴落の状況を解説するつもりが、そのシーンがほとんどなかったため、今回は日銀の金融政策決定会合のシーン描写で「重箱の隅をつつく」格好となってしまった。結果としては、10月7日の日銀金融政策決定会合でも、賛成多数で現状維持となったが、ゴルゴ13に描かれていたように議事要旨に残さないかたちで、追加緩和が議論されたことは考えづらい。もちろんまったくなかったと断じるわけにはいかないが、そのあたりは10月13日に公表された9月の会合の議事要旨あたりからも行間を探ってみる必要がありそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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