Yahoo!ニュース

J開幕は国立で甲府と鹿島を見た。

川端康生フリーライター

コクリツ、あと3ヶ月

開幕は国立競技場で迎えた。

大阪まで足を伸ばして長居の賑わい(フォルラン&柿谷とたぶん満員のスタンド)に身を置いてみたい誘惑もあったけれど(おまけにダブルヘッダーも可能だったし)、「コクリツ」への思慕が勝った。

最後の早明戦、最後の天皇杯、最後の選手権……と昨年終わりから「最後」がやたらと連呼されるせいで、妙に寂寥感が募ってしまって困っている。「初めてコクリツに行ったのはいつだっただろうか?」なんて自分史を遡ることもしばしば。

ちなみに僕にとって「初めてのコクリツ」は、たぶん20歳くらいだったと思う。大学生になって上京して少しした頃、よその短大に通う女の子とラグビーを見に来た。座ったのは電光掲示板の下(いわゆる「ゴール裏」の中腹あたり)。まだ長椅子(いまのように個席ではなくベンチ型)だったような気がするが、記憶違いかもしれない。

一緒に並んでみていたら、バックスが展開を始めた途端、彼女が「余ってる!」と叫んだのはよく覚えている。それもそのはず彼女は釜石出身だったから(だから当然ラグビー通だった)……なんて芋づる式に思い出していると、もうすぐ3年が経つのだなぁと東北方面に気持ちが飛んでしまったりする。

もうすぐお別れ、と告げられれば、思いは過去に、胸は感傷に向かってしまうのは対象がモノでも人でも同じ。とりわけ自分史の折々に「舞台」となった場所ならなおさらだ。

解体が始まるのは7月(6月から準備に入る)。今月末にはAKBがコンサートをやるらしいがそれはさておき、スポーツイベントとしての「最後」は5月25日のアジア5カ国対抗・日本×香港戦(ワールドカップ予選も兼ねたゲームです)。

どうやら僕にとってのコクリツは、ラグビーで始まり、ラグビーで終わることになりそうだ。

甲府名物、看板の波

代々木門から入って、取り壊し準備の白いフェンスの脇を抜けて、報道受付で取材ADを受け取る。報道受付の背後の壁には1991年「世界陸上」のレリーフが掲げられている。三段跳びでルイスとパウエルが名勝負を演じた、あの世界陸上だ。三段跳びと言えば、織田ポール……とコクリツ連想ゲームは続くけれど、今日はサッカー。それも今シーズンの開幕戦だ。記者会見場(兼報道控え室)でメンバー表を手に入れ、階段を昇る。聞こえてくるサポーターの歌声にいつものように足が早まる。

スタンドへ出てみれば、甲府名物、「看板の波」が、ここコクリツにも幾重もちゃんと寄せていた。

<ホントにヤバイ、甲府が消える>

そんな見出しで報じられたのは2000年の暮れ。しかし、解散目前だったクラブは見事に存続し、そればかりかJ2最下位だったチームは、今季もJ1で開幕を迎えている。

「地域密着薄利多売方式での経営再建」は多くのメディアによって報じられているので詳述不要だろう。僕自身も何度か甲府に足を運び、取材した。

だから、そんな「サバイバル・ストーリー」の象徴である看板の波(といっても大波ではない。波乗り的に言えば「モモ腰」くらい)が、コクリツのゴール裏に押し寄せているのを見て何だか嬉しかった。

昨季3度目のJ1昇格、そして残留。

同じような立場(クラブ経営的にもチーム成績的にも)の他クラブ社長が「甲府は一つ上のステージに登っていきそう」と先日うらやましそうに口にしていた通り、「エレベーターチーム」から抜け出してJ1定着クラブへの階段を……なんて若干のシンパシー(大波では海に入れない臆病なサーファーなので)とともに応援モードでキックオフを迎えたのだが……。

勝負のリアル

立ち上がりは決して一方的な展開ではなかった。

世代交代とエースの流出(大迫の移籍)で過渡期にある鹿島アントラーズと、身も蓋もない表現をしてしまえば、どっちもどっちな内容でゲームは立ち上がったのだ。

しかし、11分にコーナーキックからダヴィに決められると、26分にもコーナーキックの混戦から遠藤、0対2だけど、さあここからリスタート!と臨んだ後半2分(47分)にフリーキックから昌子、そしてロスタイムにやっぱりフリーキックからダヴィ。0対4。

セットプレーから4失点を喫したヴァンフォーレ甲府と、セットプレーからしか得点を決められなかった鹿島アントラーズ。

どちらも100%の失望も満足もしていないだろう。少なくともスコアほどの評価は、両監督とも下していないはずだ。

それでもツボできっちり加点したアントラーズと、ツボであっさり失点したヴァンフォーレの差は、勝負の世界においてはスコア通りに大きい。最初の失点の後、ヴァンフォーレにも何度かチャンスがあったことを思えば、なおさらである。

ヴァンフォーレが戦うのは今季も残留戦。

点差が離れていく中で、隣で観戦していた甲府出身サッカーマンが「やばい。鳥栖が3対0……4点目……」と他会場の結果を気にする姿に実感させられたのは、そんな現実だった。

J2からの昇格チームが、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸……という今シーズン。下3つから逃れるのは容易ではないのである。「看板の波」に感心しているようなナイーブさとは無関係に、勝負のリアルは突きつけられる。

もちろん経営にもリアルは容赦ない。開催地の変更に伴う経費は小耳にはさんだところでは1500万円かかったとか。

前日は小春日和な陽気だったというのに、また寒くなってしまったこの日は(おまけに雨もパラパラ)、観客も1万3809人。入場料収入での挽回どころではないだろう。大雪の影響はチームだけでなく、クラブにものしかかるのだ。

もちろん、創設当時のJリーグのようにコクリツ開催でウハウハ(下品ですみません)な時代はもはや昔話に属す。ウハウハに転ばず小さな駒場にこだわり続けた浦和レッズがビッグクラブとなり、ウハウハに甘え続けた×××が……なんて話もやっぱりちょっと昔の話になりつつある。

いずれにしても自分史の中のコクリツが、あの華やかな時代の記憶とともに刻まれている僕のような世代にとっては、なんだか寂しい開幕だったなぁ……なんて思いながら帰宅後、ビデオを見たら、長居で、華々しく、賑やかに2014年Jリーグが開幕!していた。

ちょっと別世界のように見えてしまって違和感がないでもなかったけれど、ワールドカップイヤー、そして最後のワンステージ。さて、どんなシーズンに――。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

誰がパスをつなぐのか

税込330円/月初月無料投稿頻度:隔週1回程度(不定期)

日本サッカーの「過去」を振り返り、「現在」を検証し、そして「未来」を模索します。フォーカスを当てるのは「ピッチの中」から「スタジアムの外」、さらには「経営」や「地域」「文化」まで。「日本サッカー」について共に考え、語り尽くしましょう。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

川端康生の最近の記事