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北朝鮮の頭が良すぎる学生たち「禁断の発言」で処刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

「マルパンドン」とは「言葉の反動分子」という意味合いの北朝鮮の用語だが、反政府的な言動を指し、厳しく取り締まられている。

 だからといって北朝鮮の人々は、何も言わずにおとなしく従っているわけではない。問題のなさそうな相手を選んだ上で、お上に対する文句をぶちまける。だが、運が悪ければ命取りになりかねない。

 デイリーNKの内部情報筋が伝えたのは、北朝鮮最高の理系大学、金策(キムチェク)工業大学の秀才組が口を滑らせたことで招いた悲惨な末路についてだ。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

 事件の発端は先月初め。学内で親友どうしの間柄だった3人は、映画文献学習と感想発表会、要するに思想学習の集まりに参加した。寄宿舎に戻った彼らは、その内容について話し合っていた。情報筋によると、概ねこのような内容だった。

「今日、わが国(北朝鮮)が東方の核強国と宣伝していたが、わが国では核強国ではなく会議強国だ」

 金正恩総書記は、若者に対する思想教育を強化するように指示を下している。そのせいで、専攻の学習に集中すべき学生が政治学習ばかりさせられ、会議に次ぐ会議で学習の時間を奪われていることを皮肉った、他愛もない冗談だ。

 この会話に、病気で寝ていたルームメイトが聞き耳を立てていた。彼は常日頃、「秀才組の学生も、一般学生と同じように会議に参加しなければならないのか」と、一般の学生をバカにするような発言をしていた3人に反感を抱いており、この機会に懲らしめてやろうと大学の保衛部(秘密警察)に密告したのだ。

 3人は保衛部の取り調べを受けることになった。ところがエリート意識からか、あるいは若者の反抗心からか、「会議強国という発言がどれほど危険かわかっているのか」という保衛員の問いかけに、「なぜ会議が1日に2回、3回もあるのか。外部の研究所を訪ねていて会議に参加できなければ、反動分子扱いされるのではないか」などと口答えしてしまったのだ。

 それだけではない。「会議強国と言ったのは間違いだった」としつつも、「秀才組は課題は多いというのに、一般の学生と同じように会議に参加せよというのは間違い」などと、火に油を注ぐような発言を繰り返したのだった。

 この事案は、学内の朝鮮労働党の委員会を通じて、国家保衛省(秘密警察)に報告された。そして先月中旬、大型教室に皆が集まる中、3人は逮捕、連行された。

 国家保衛省での取り調べで、彼ら3人にある共通点が見つかった。子どものころから外国の映像、映画、歌、踊りを好み、何度も問題になっていた。しかし学習成績が極めて良いとの理由で、大学推薦評定書(内申書)には過去に起こした問題が書き込まれていなかったのだ。

「思想の根本から問題がある」と判断した国家保衛省は、「秀才だからと黙認すれば、外国に行って思想的動揺を引き起こし、亡命したり越南(脱北)したりしかねない。目は摘んで置かなければならない」として、中央の批准を受けた上で、今月4日に「全教職員学生参加公開闘争会議」、要するに吊し上げを行うとの通知を行った。

「外国に行った留学生の中で逃げたやつ共はすべて組織生活を嫌う、思想的動揺分子だった」という内容で、3人を舞台に上げて、入れ代わり立ち代わり批判を浴びせかける予定だった。しかし、吊し上げはドタキャンとなった。「『党が最も信じる大学』というイメージが乱される」との理由からだった。

 そして翌5日、事態は急変し、3人は秘密裏に処刑された。17日の金正日総書記が亡くなってから10年の命日には、公開処刑、裁判は控えよという党の支持に基づいたものだということだ。

 3人の家族は、「子どもを強い信念と思想の強者として育てられなかった罪」として、平安北道(ピョンアンブクト)北倉(プクチャン)にある18号管理所(政治犯収容所)に送られた。子どもを最高学府に送ったと鼻高々であったろう3人の家族は、一瞬のうちにして奈落の底に叩き落されてしまった。

 事件後、教職員や学生の間では「いくら勉強ができても、舌を滑らせては一家が滅ぶ」「今年が(金正恩)総書記同志の党領導(政権就任)の10年になる年だけあって、厳しく扱った」などの見方が語られているという。

 さて、この件を密告した学生だが、青くなっているかもしれない。少し懲らしめてやろうと思っての密告だったかもしれないが、その結果は3人の処刑。

 処刑されたのが同じルームメートであったことから、状況的に彼が密告者であることはすぐにバレてしまうだろう。そうなれば、自分も密告されるかもしれないと恐れた人々から徹底的に避けられ、日本で言うところの「村八分」にされてしまうことだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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