Yahoo!からの詐欺サイト誘導事件にみるメガポータルの公共性と責任論
2月19日、京都銀行のインターネットバンキングサービスを装ったフィッシングサイトを通じて不正に入手したIDやパスワードなどを用い不正送金が行われたというニュースがあった。一見すると「なんだ、またフィッシング被害か」と思うだけで、中には「気をつけない方が悪い」「フィッシングを知らないなんて」といった意見を持つ人もいるだろう。
しかし21日にYahoo! JAPANはマーケティングソリューションカンパニーの公式ブログで「京都銀行を装った偽サイトが確認されている件について」というタイトルの記事を掲載した。
つまり、上記のフィッシングサイトに誘導したのがYahoo! JAPANだったということだ。スポンサードサーチはいわゆる検索連動型広告で、関連するキーワードで利用者が検索した場合に、こちらのリンクはいかがですか?と、所定の位置にリンクを掲載する広告商品。Yahoo! JAPANが意図してフィッシングサイトへ誘導したわけではないが、結果的には詐欺の片棒を担いだ形である。
広く情報を知らしめる広告には、より強力な伝達手段であればあるほど”正しさ”が求められる。”正しくない”情報を広告として掲載することで、今回のように結果的に被害者を呼び込む手伝いをしてしまう可能性があるからだ。当然、スポンサードサーチのような検索連動型の広告商品も同じで、Yahoo! JAPANにも広告審査を行う部署はある。
Yahoo! JAPANの広告掲載基準は次のリンクで確認できるが、問題は単に広告審査が甘かったことだけには留まらない。筆者が問題と感じたのは、その後の対応を見るに、Yahoo! JAPANの広告審査に対する姿勢が問われているという真剣味が感じられないことだ。
Yahoo! JAPANのコメントを引用しよう。
とある。現時点ではYahoo! JAPANの検索連動広告が利用されたという事実が明らかになっているだけで、なぜ広告審査をすり抜けたのか、どんな広告文言だったのかなどはわかっていない。現時点での情報の出し方に間違いがないようにも思えるが、この重要な情報をYahoo!はこともあろうか、次のように案内していたのだ。
当初、本件を知らなかった筆者は「日本でもっとも規模が大きいインターネットポータルサイトから、フィッシング詐欺のサイトへの誘導があった」という内容がそこにあるとは思わなかった。同様のことはセキュリティの専門家・高木浩光氏も指摘している。
また本件に関する発表後、Yahoo! JAPAN CEOの宮坂学氏は、次のようにツイッターにメッセージを書き込んだ。このツイートに対し、一抹の不安を感じたのは筆者だけではないと思う。
「利便性や収益性と安心安全の両立を引き続きベストを尽くしてやっていきます。」とのコメントは耳当たりが良く感じられるかもしれないが、安心安全への取り組みは真剣に取り組むほどに利便性と収益性を損ねるものだ。”引き続きベストを”ではなく、安全安心を第一に、詐欺被害の拡大に利用されないよう抜本的に広告審査を見直すと、このタイミングでは案内すべきだろう。
本記事を投稿しているのもYahoo!ニュースの一部であるが、このYahoo!ニュースだけでも月間で40億以上のページビューがある(昨年8月の媒体資料での記述は44億9000万ページビュー)。日本の新聞社の中ではもっとも老舗のニュース配信サイトである朝日新聞デジタルでも月間総ページビューは5億〜5億4000万の間ぐらいと言えば、その影響力の大きさがわかるだろう。
今回は検索連動型広告の問題のためニュースほどのシェアがあるわけではないが、Yahoo! JAPANというウェブサイトの公共性は、もやはテレビや新聞などと同列に評価すべきであることは示していると思う。
もし民放テレビ局が詐欺会社のCMを放送したり、詐欺を働いている通信販売会社が制作するテレビショッピング番組を放送したら、一体どのような騒ぎになるだろうか。テレビショッピング番組の話は、なにも極端な例えではない。テレビCMからは直接、詐欺サイトなどに誘導することはできないが、インターネットサービスの場合、今回の事例のように(結果的にではあるが)”大手媒体が詐欺サイトを直接紹介する”ことになってしまうからだ。
しかも、広告審査といっても掲載主の本人確認すらしていなかったというのだからお粗末としか言えない。
揚げ足を取るようで恐縮だが、”誠に遺憾”とは”ほんとうに残念なことだと思っている”という意味だ。杜撰な広告審査の仕組みの改善はもちろんだが、自らのサービスが高い公共性を伴う規模に成長し、社会に対して大きな影響力を持っていることを自分たち自身で再確認することから始めるべきではないだろうか。
インターネットを使う上で、検索機能や情報を集約してくれるYahoo! JAPANのようなポータルサイトは必要不可欠な羅針盤、あるいはライフラインとも言えるサービスだ。読者が安心して、興味を持った広告をクリックできるような対応策が発表されることを期待したい。
最後にYahoo!ニュース個人という場に、Yahoo! JAPANに対する批判的コラムが掲載される自由が与えられていることに感謝したい。