米国にゴルフ留学中のウクライナ出身女子ゴルファー、母国の家族を想いつつ、見出した自分なりの「戦い方」
ウクライナの家族と離れ、米国のカリフォルニア大学デービス校にゴルフ留学している女子大生のエルさんが、母国にいる家族を想いながら、今、直面している現実を米ゴルフウィーク誌が報じていた。彼女の現実を日本のみなさんにも知っていただきたく、同誌の記事から一部抜粋してお伝えしようと思う。
7歳でゴルフを始めたエルさんは、ウクライナのゴルフシーズンが年間5か月ほどと短いにも関わらず、めきめき腕を上げ、ウクライナのトップ女子ゴルファーになり、カリフォルニア大学デービス校へゴルフ留学している1年生だ。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからというもの、母国の家族のことが心配で居ても立っても居られない日々を過ごしているという。
エルさんの家族が暮らしていたのは首都キエフの街。しかし、エルさんの父親は今は自身の両親を連れて、少しでも安全と思われる場所へと避難している。
エルさんの母親と2人の妹は母親の両親の家へ避難。その家の中にある大きな本棚の中身をすべて出して空っぽにして、棚をシェルター代わりにして身を潜めている。
14歳と10歳の妹は、米国にいるエルさんに時折りスマホでメッセージを送ってくる。その文面は「怖いよ」「爆発音が聞こえる」「すぐ近くに爆弾が投げ込まれた」といったものばかり。エルさんが母親と電話で話していると、その背後で妹たちがすすり泣く声や音が聞こえてくるのだそうだ。
今すぐウクライナへ飛んで帰りたい。両親や妹たちと一緒にいたい。そうした思いがエルさんの胸の中で膨らんでいる。だが、彼女は必死に思いとどまり、ゴルフ部のコーチも仲間も、そんなエルさんを見守っている。
ゴルフ部コーチはウクライナの戦況に関する情報を可能な限り収集し、エルさんから何を聞かれても答えられるよう、相談に応じられるよう、懸命に準備している。
チームメイトたちは、エルさんと一緒に食事をしたり、練習に誘い出したり、一緒に授業に出たりという具合に、エルさんを決して一人にしないよう努めているのだそうだ。
エルさんは、そんなコーチやチームメイトの気遣いに感謝し、ウクライナのことをしばし忘れてゴルフに集中しようと努め、練習場やコースに行った。
しかし、練習場で練習ボールが機械から出てくる際の「ガラガラガラ」という大きな音は、エルさんには爆撃音に聞こえ、本来なら「きれい」と感じるはずの赤い夕陽や夕焼けも、エルさんには燃え上がる戦火のように見えてしまう。
「ウクライナの家族に万が一のことが起こったら、私はたった一人、この世に取り残される。そのことを、どうしても考えてしまう」
しかし、彼女は、こうも言った。ウクライナで幼少時代からゴルフを教えてもらった恩師であるコーチは「今、武器を手にして戦っている。そんなコーチを私は誇りに思います」。
ウクライナで避難生活をしている友人知人たちは「自分たちの家の中にある自分たちの大事な家具に自分たちで火を付け、家具を燃やして暖を取り、寒さと必死に戦っている。でも、多くの人々は生活費が足りなくなってきている」。
母国の人々が戦地や避難場所で必死に戦っているのだから、自分自身も何かしたいと考えるようになったエルさんは、クラウドファンディングを立ち上げ、ウクライナへの支援金の寄付を呼びかけ始めた。
「みんなが力を合わせ、1つになっている。それが真実です」
エルさんと家族が会って抱き合える日、エルさんがゴルフクラブをのびのび振れる日が早く訪れてほしい。そう願わずにはいられない。