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ゴルフは悪者なのか?コロナ禍でゴルフは「OK」か、「NG」かを考えてみた

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
米国では「乗用カートは1台に1人」なら「ゴルフは感染リスクが低い」と言われている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で米プロゴルフ界は男女とも動きが止まっている。そんな中、米男子ツアー(PGAツアー)は6月11日からの早々の再開予定をすでに発表しているが、一方で米女子ツアー(LPGA)は男子ツアーより1か月以上も先の7月15日からの再開予定を発表した。

 同じ米国のプロゴルフツアーでありながら、男子ツアーと女子ツアーで再開予定の時期がなぜ1か月も異なっているのか。

 米男子ツアーのジェイ・モナハン会長は、観客を入れずに試合を開催するのであれば、「ゴルフはソーシャル・ディスタンスが保てる数少ないスポーツの1つである」として、その特性をフル活用すべきという姿勢を見せている。

 さらに、モナハン会長は、コロナ禍における社会や経済の混乱によって沈みがちになっている人々の心を開いたり励ましたりという意味で「スポーツは人々の心を1つにしてくれる究極の存在」であり、そのためにも「まず、我がPGAツアーを再開させたい」と早期再開に積極姿勢を見せている。

 しかし、米女子ツアーのマイケル・ワン会長は「新型コロナウイルスに対しては、ツアーをいつから再開なら安全という具合に確固とした時期を明示できるものは何もない」と前置きした上で、モナハン会長とは、ほぼ正反対の慎重姿勢を口にした。

「(米スポーツ界において)まずゴルフが最初に再開すべきかどうか?正直なところ、それは私たちLPGAのゴールではない。選手をはじめ大会会場入りする人々の移動や旅の問題、ウイルス感染の有無を調べる検査の問題などを考慮し、できる限りの安全策を検討した上で、今、得ている私たちの結論が、7月中旬の再開なのです」

 観客を入れるかどうかに対しても、米男子ツアーは「無観客で再開」をすでに決め、ギャラリーの有無より「まず再開」を最優先している。だが、米女子ツアーは「無観客でも再開するかどうかは、再開予定日の45日前、つまり6月上旬に決めたい」と、その判断にも慎重姿勢を見せている。

 男女両ツアーの姿勢の違いは、各々のリーダーの人柄や性格なども反映されていると思われる。そして、同じ米国の、同じプロゴルフのツアー再開に対して、ほぼ正反対の姿勢が見られることは、このコロナ禍における諸々の判断がそれほど難しいことを物語っている。

逆に言えば、受け取り方や解釈の仕方次第で、ものごとが「OK」にも「NG」にもなりうることが多々あるということであろう。

【米国発の報告は米国流が前提】

 ここ数日、日本では、緊急事態宣言下であるにも関わらず、「今日もたくさんの人々が集まっていた」という例としてパチンコとゴルフが続けざまに槍玉に上げられていた。

 来場者の車がずらりと並んでいるゴルフ場の駐車場。屋外のゴルフ練習場の打席では、ゴルファーたちがぎっしり並び、クラブを振る様子がネットやテレビのニュースで映し出された。そんな「絵柄」を目にした人々の中には、ゴルフやゴルファーに対する嫌悪感を抱いた人も少なくなかったはずである。

 このコロナ禍で、果たしてゴルフは悪者なのか。果たして今、ゴルフをしてもいいのか、悪いのか。その判断は、米国の男女両ツアーの再開時期に向けた判断や姿勢が大きく異なるのと同様に、ある人は「OK」と考え、別のある人は「NG」と考えてもおかしくはない。新型コロナウイルスが人類にとって初めてのウイルスであり、感染防止や感染リスク等々に関しても、まだまだわからないことだらけなのだから、絶体的な答えが「わからない」「出せない」以上、何かに対する判断がまちまちになるのは当然だ。

 米国の医療専門家たちの間から「ゴルフは感染リスクが低い」という報告がなされ、USGA(全米ゴルフ協会)から感染を防止しながらゴルフをするためのガイドラインが出されたことは事実だ。米国内のゴルフ場が、すでにほぼ半数が稼働していることも事実だ。

 しかし、「ゴルフは感染リスクが低い」というのは、誰も彼もがいつでもどこでも「ゴルフをやっていい」というお墨付きや印籠ではない。そして、米国で出されている報告は、「米国流ゴルフ」「米国のゴルフ事情」が前提であることを忘れてはならない。

 もちろん日本でもUSGAのガイドラインに従って「ピンフラッグを抜かない、触らない」「バンカーレーキは撤去し、砂は足でならす」などを実践し、18ホールをスルーで回り、クラブハウスもレストランもロッカールームもお風呂も使用しないという具合に「米国式」を採り入れ、感染防止に努めているゴルフ場が多々あると聞いている。そうしたゴルフ場側の努力やゴルファー側の協力姿勢は実に素晴らしいと思う。

 しかし、この際、米国のゴルフ事情をもう少し詳しく知っていただきたい。たとえば、米国のゴルフメッカと言われる地域では、多くのゴルファーがゴルフ場のすぐそばやコース沿いの家に住み、自宅のガレージに常に停めてあるマイ・ゴルフカートに乗って、そのままゴルフ場へ乗り入れ、そのまま1番ティへ向かう。プレー料金をネット上であらかじめカードで支払うなどしておけば、誰とも接することなく、ティオフもラウンドも可能である。

 マイカートではないにせよ、USGAが推奨している「乗用カートは1台に1人」という規定も、そもそも2人乗りカートが一般的な米国のゴルフ場なら、さほど問題なく実現できている。駐車場でシューズを履き替え、バッグを自分で担いで動かして乗用カートに乗せることが一般的なスタイルゆえ、これなら人との接触は確かに避けられる。

【一人一人に委ねられる判断】

 そうした米国流ゴルフを前提として発せられた「ゴルフは感染リスクが低い」を、私たちは、どう受け止め、どう解釈するべきか。その判断は、日本のゴルファーの一人一人に委ねられている。

 米国で「ほぼ半数のゴルフ場が稼働」とはいえ、クローズしているゴルフ場はもちろんある。ロード・アイランド州のように、オープンしているゴルフ場は「我が州の住民に限定する」としている州もある。他州からの来場者に14日間の隔離を求めている州もある。それらはすべて「ゴルフが悪」かどうかではなく、「人の移動が悪」と考えているからこその強硬措置である。

 日本のゴルフ場やゴルフ練習場も、存在の善悪や意義が問われているわけではもちろんない。施設側が開けるか、閉めるか、あるいはゴルファー側が来場するか、しないか、その判断がすべて各々に委ねられている。

 だからこそ、慎重であってほしいし、工夫や思いやり、気遣いがあってほしいと願う。稼働を続けるゴルフ場やゴルフ練習場には、「密」にならないよう、予約制限や入場制限、間隔の取り方などに最大限の工夫をお願いしたいと思う。ゴルファーの側も、プレーにおける感染リスクのみならず、自身が都道府県の境を越えて移動することが自身にも周囲にも感染リスクを高める危険性、自分自身がすでに保菌しているという、信じたくはないものの起こりうる可能性を熟考した上で判断をしていただきたいと思う。

 「ゴルフは感染リスクが低い」というフレーズが独り歩きしすぎて、もしも「免罪符」のように思われてるとしたら、それはゴルフを愛する人々すべてにとって、残念な結果をもたらすことになりかねない。

 ゴルフというスポーツが、日本のゴルファーからも、日本の人々からも愛されるものであってほしいから、米国ゴルフを25年間、眺め続けてきたゴルフジャーナリストとして、心を鬼にして、あえてちょっぴり苦言をしたためさせていただいた。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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