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「死にたい気持ち、話したっていいんだ」 自殺対策動画コンテスト 学生たちが同世代に届けたいメッセージ

山寺香一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」広報室長
齋藤さん(左上)、木下さん(右上)、愛純さん(左下)、山下さん・下出さん(右下)

9月10日から16日は、自殺予防週間です。筆者が勤務する一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」(JSCP)は今年初めて、学生を対象とした「いのち支える動画コンテスト 2023」を開催し、自殺予防週間に合わせて優秀賞4作品を公開しました。コンテストの目的は、子ども・若者の自殺が深刻化する中で、若い世代に自殺問題を「自分ごと」化してもらい、大人目線ではなく若者目線のメッセージを届けること。受賞者たちに、動画に込めた思いや、動画を制作する前後での気持ちの変化などについて聞きました。

本コンテスト(JSCP主催、厚生労働省・文部科学省・こども家庭庁・全国大学生活協同組合連合会後援、Yahoo!ニュース協力)は、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現へ ~いまあなたが伝えたいこと~」をテーマに、4月~6月に絵コンテによるショートムービーのアイデアを募集。計138作品の応募があり、審査の結果、4作品が入選しました。その後入選した絵コンテは、学生自身の手で映像化されました。

映像制作にあたっては、自殺対策に関するコンテンツを作成する際の留意点に関するJSCPからのレクチャーの他、Yahoo!ニュースなどの協力で動画制作講座が提供されました。また、JSCPスタッフが各チームに伴走して絵コンテの映像化をサポートしました。

■コンテストの詳細は、こちら

優秀賞を受賞したのは、以下の4作品です。

~自分のこころを守る~「セルフケア・SOS部門」

『相談はうまく話せなくても大丈夫』(齋藤 真衣子 筑波大学 大学院生)

『伝わるよ。』(木下 望有 多摩美術大学 2年生)

~死にたい気持ちを抱えた友達を支える~「ゲートキーパー部門」

『あなたの勇気で支えてほしい』(愛純 百葉 佐賀県・高校1年生)

『笑顔の裏には…』(山下 真愛・下出 遥華 金沢工業大学 大学院生)

9月9日に行われた表彰式の後に、受賞者たちに話を聞きました。

Q.受賞の感想と、作品に込めた思いは?

齋藤真衣子さん (『相談はうまく話せなくても大丈夫』)

将来は自殺対策に関わりたいと思っており、大学院で学んでいる。コンテストを通し、自殺対策に取り組みたい学生が私以外にもたくさんいることを知り、胸が熱くなった。作品を作るにあたり、つらい時の対処法として「相談しよう」と提示されることが多い。でも、相談することで気持ちが軽くなったり問題解決に繋がる一方で、自分の状況や気持ちを言葉にするのがなかなか難しく、相談できずに抱え込んでしまう人もいるのではないかと考えた。観た人が、「うまく話せなくても、誰かに打ち明けてみよう」という1歩を踏み出せる作品にしたいと思って作った。

木下望有さん (『伝わるよ。』)

美術大学に通っており、普段からアニメーションを作ることもある。コンテストを通し、アニメーションの面でもたくさんの気づきがあり、これから「もっとこういう作品を作ってみたい」というビジョンも見えたので、挑戦してみてよかった。

私自身が悩みが絶えない学生であり、自分の内の思いを動画を作ることで昇華させたい思いがあった。作った映像が悩んでいる人の目に入った時のことを想像し、寄り添っている感じをどう表現するかについて、目いっぱい考えた。「悩みを誰かに共有し、良い方向に向かってほしい」という思いを込めた。

愛純百葉さん (『あなたの勇気で支えてほしい』)

もともと短編映画の監督をしていて、実力を発揮できる機会にできればと応募した。こうした大きな賞をいただけて、うれしく思っている。自殺を考えたりつらい気持ちを抱えたりしながら生きている子が、つらくならない作品をどう作れるかを考えながら作った。自殺で亡くなる子が一人でも減るよう、この作品が誰かの勇気につながってほしいという思いを込めた。

山下真愛さん (『笑顔の裏には…』)

大学院で心理学を学んでおり、本格的な映像制作は初挑戦。私たちは自殺願望を抱えたことがある2人なので、実体験を映像にできないかと思い応募した。笑顔の裏で、しんどい思いをしている人がいるかもしれないことを分かってもらえれば、一つ一つの声かけが変わるかもしれない。そういうことを伝えたいと思って作った。

下出遥華さん

受賞には大きな驚きがあったが、実体験が形になって多くの方に見てもらえることで、私たちが作品に込めたメッセージが伝わるとうれしい。私たちのように普段は「明るい」と言われがちな二人でも、つらい思いを抱えていたり、周囲に迷惑を掛けたくない気持ちから無理に笑っていることがある。そういう「裏側があるかもしれない」というメッセージを込めた。

Q.動画制作でこだわったことや、難しかったことは?

齋藤真衣子さん (『相談はうまく話せなくても大丈夫』)

一つ一つの描写に思いを込めた。特にこだわったのは、影の動き。影を最初の場面から登場させ、最後に相談につながる場面で消えるようにした。それにより、主人公のつらい気持ちが誰かに相談することで軽くなったことを表現したいと考えた。

木下望有さん (『伝わるよ。』)

心の状態を音で表現することにこだわった。音楽は知り合いに依頼したが、相手の提案を基に二人のアイデアが重なり、動画の最初は雨の音で表現し、最後は小鳥のさえずりで晴れを表現した。また、ロトスコープという、実写を基にアニメーションを制作する技術を使った。自分の服にカメラを付けて自分の手元を映し、一人称の視点で撮影したが、それが思ったよりも難しいことに気づいた。

愛純百葉さん (『あなたの勇気で支えてほしい』)

30秒で気持ちを表現するのが難しかった。時間の経過を表現するため、夕焼け空の映像を挟んで1日経ったことを表現するなど工夫した。編集は兄に手伝ってもらいながら、音楽を入れるタイミングや、勇気を表現する色味などにこだわった。

表現の仕方によっては、観る人につらかった体験を思い出させてしまうことがある。私もそういう経験があり他人事ではないので、観る人が苦しくならないよう、「柔らかさ」を第一に考えて作った。

山下真愛さん(『笑顔の裏には…』)

演劇をやっている友人に主人公を演じてもらった。自分の体験に基づき、友達を見送ってすぐに真顔になる場面を撮りたかったが、友人にはそういう経験がなく、演技指導が難しかった。

下出遥華さん

動画を30秒に収めるのがとても難しかった。また、「つらい」「しんどい」という気持ちを心の声だけでどう表現するか、言い方やトーンなどを試行錯誤した。

Q.コンテストに参加する前後で、自分の中で変化したことはあるか?

齋藤真衣子さん (『相談はうまく話せなくても大丈夫』)

これまでは周りの人に「自殺」について話すことに抵抗を感じていたが、(絵コンテの審査を通過した後に他の受賞者やJSCP運営スタッフと)顔を合わせていく中で、死にたい気持ちや「自殺」という言葉を自然に口にする様子を見て、「誰かに話してもいいんだな」と思えた。それが、大きな変化だった。

木下望有さん (『伝わるよ。』)

自分の内にあるつらさを動画にしたが、予想外に温かいコメントもたくさんもらい、救われたような気持ちがした。自分がこういう作品を作っていることを周囲に伝えることで、友人がちょっとした悩みを打ち明けてくれたこともあった。美大ではみんなそれぞれに得意分野があり、「自分は何が得意なんだろう」と悩んでいたが、思い切って応募を決め自分だけで挑戦してみたら、意外とこの手法が自分に合っていることにも気づけた。

愛純百葉さん (『あなたの勇気で支えてほしい』)

自殺問題は他人事ではないと感じた。友達に悩みがあれば相談に乗りたいし、自分も抱え込まずにいろいろな人を頼りたいと思うようになった。同世代のみなさんにも、悩みがあれば相談して元気に生きていってほしいと思っている。

山下真愛さん(『笑顔の裏には…』)

相談に乗ってくれた友達や先生など、いろいろな人に支えられて作品を作れたと改めて実感している。また、自分により自信が持てるようになった。今までは、「死にたい」と思ったことがある私は就職活動に不利なんじゃないか? と思うこともあったが、(動画制作を通して知り合った人たちと)話しているうちに、「伝えたいことが明確にあることは、逆に強みになるのではないか」と思うようになった。「もう少し生きてみよう」と前向きに思えた。

下出遥華さん

動画制作を通し、たくさんの人に支えられていることや人の温かさを体感し、前向きな気持ちになれた。他の受賞者や一緒に作品を作った高校生や大学生など、同世代の方が頑張っていることを知り、自分も頑張っていこうという活力につながったのが大きい。

本コンテストのプロジェクトリーダーでJSCP子ども・若者自殺対策室長の半谷まゆみさんは「今回のコンテスト・受賞作品を通して、少しでも多くの方に自殺対策を『自分ごと』として捉えていただけたらと願っている」と話しています。

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記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法などを紹介しています。

「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/

            いのち支える自殺対策推進センター(イラスト・ 村本咲)
            いのち支える自殺対策推進センター(イラスト・ 村本咲)

つらい気持ちを相談できる場所があります。

<電話やSNSによる相談窓口>

・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/

・チャイルドライン(電話相談など)https://childline.or.jp/index.html

・生きづらびっと(SNS相談)https://yorisoi-chat.jp/

・あなたのいばしょ(SNS相談)https://talkme.jp/

・こころのほっとチャット(SNS相談)https://www.npo-tms.or.jp/service/sns.html

・10代20代の女の子専用LINE(SNS相談)https://page.line.me/ahl0608p?openQrModal=true

<相談窓口をまとめたページ>

・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」広報室長

厚生労働大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」広報室長として、自殺問題・自殺対策について広く知っていただくための情報発信に取り組む。元新聞記者。2003年に毎日新聞社入社、仙台支局、東京本社・夕刊編集部、同・生活報道部、さいたま支局、東京本社・くらし医療部にて自殺対策や子どもの貧困問題、児童虐待問題などを取材。2021年3月に退職し、同4月より現職。著書に、少年事件の背景にあった貧困・虐待問題に迫ったノンフィクション「誰もボクを見ていない~なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか~」(ポプラ文庫)。

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