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大谷翔平はメジャーリーグの二刀流のドアを開けたのか。取材メモより(1)

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 あと、1週間ほどでメジャーリーグのスプリングトレーニングが始まる。

 昨年の今ごろは、大谷翔平の二刀流がメジャーでも通用するのか。投打ともにどのような成績を残すのかに注目が集まっていた。

 大谷は6月に右肘を故障するまで、打っても、投げても、素晴らしいメジャーリーガーであることを見せつけた。右肘の怪我で投げられなくなってからも、恐ろしい打者であることを知らしめた。

 このオフには、複数のメジャーリーガーとマイナーリーガーが二刀流に挑戦することを明らかにしている。昨シーズンの大谷の活躍がフロントと選手に影響を及ぼしたのだろう。次に名前を挙げる選手たちは二刀流希望か、すでに二刀流をしている選手たちだ。

 ケイレブ・コワート 右投げ両打ちの26歳。このオフにエンゼルスからウェーバーにかけられマリナーズに移籍し、さらにタイガースへ移籍。高校時代は投手でもあったが、プロ入り後に野手に専念。

 マット・デービッドソン 右投げ右打ちの27歳。昨季までホワイトソックス。昨年はDH、一塁、三塁を守る一方で、中継ぎ投手として3試合に登板。2月1日にレンジャーズとマイナー契約。レンジャーズでも内野を守りながら、投手もする二刀流の可能性を求め続けることになった。

 JD・デービス 右投げ右打ちの26歳。このオフにアストロズからメッツに移籍。2018年は内外野を守りながら、中継ぎで1試合に登板。公式ホームページによると、メッツは、デービスがスプリングトレーニングでブルペンに入る予定を立てているという。

 マイケル・ロレンゼン 右投げ右打ちの27歳。

 レッズですでに二刀流を実行。昨シーズンは投手、代打、右翼手として出場し、34打席に立ち、4本塁打、10打点、打率2割9分。 投手としては45試合に登板し、4勝2敗1セーブ、防御率3.11。

 ブレンダン・マッケイ 左投げ左打ちの23歳。

 メジャーデビューはしていないが、レイズのトッププロスペクト。2017年のドラフト指名時から二刀流として育成。2018年のマイナーでの成績は打者として75試合に出場し、打率2割1分4厘、6本塁打、39打点。投手としては19試合に先発し、5勝2敗、防御率2.41。昨シーズン終盤に故障で離脱した。

 大谷以外にも二刀流を希望する選手は出てきたし、球団もその希望を聞き入れるようになった。しかし、「二刀流は難しい」という米国の認識が覆されたわけではない。

 昨年6月にマイナー1Aでマッケイのスケジュール管理をしていたブライアン・リース投手コーチに話を聞いた。

 「大谷やマッケイの登場により、プロのレベルでも二刀流選手が増えてくるか」と質問したところ、次のような答えが返ってきた。

 「二刀流をやるにはすば抜けた才能が必要。それほどたくさんの選手がいるとは思えない。だから、彼らはユニークな存在なんだ。ブレンダン(マッケイ)も信じられないくらいの才能を持っている。将来的に多くの二刀流の選手が出てくるかどうかは分からないけれど、もし、そのような才能のある選手がいたら、可能性はある。でも、そういった才能は稀なものだと思う」

 昨年6月に同じ質問をタイガースのアル・アビラGMにもぶつけた。

 アビラGMは二刀流の選手がどんどんと出てくることには懐疑的で「マイナーで(二刀流を)はじめると、うまくいかず、どちらかを選んできた」と話した。

 この2人の発言は、メジャーリーガーのなかでも大谷が特別な才能を持っていることを示すものだ。大谷のような二刀流選手は、たとえメジャー球団が二刀流のスカウトに力を入れ、育成しようとしても、毎年のように輩出できる選手ではない。

 コワート、デービッドソン、デービスは、大谷が開けた二刀流のドアを活用して、違う道を歩もうとしている。

 彼らにとって「エースで4番」は現実味のある目標ではない。エンゼルスは大谷らを中心にチーム編成や作戦を立てるだろう。コワート、デービッドソン、デービスを中心に編成をするチームはない。しかし、彼らは野手でありながら、投手もできることで、スター選手を中心に編成されたチームの穴を何通りかの方法で埋めることのできる選手になり得る。

 近年、メジャーリーグでは何でもこなせるユーティリティー選手の存在価値が高まっている。コワート、デービッドソン、デービスは大谷の開けたドアを、ユーティリティープレーヤーへの追い風で突破しようとしている。彼らは、内外野をこなすだけでなく、投手もできるという新しいタイプの選手を目指しているはずだ。つづく

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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