介護のために離職してしまう前に知っておきたい介護負担を減らす制度8選~弁護士が解説
介護離職とは?
今や、65歳以上の高齢者人口の割合が4人に1人となり、さらに2035年までにはその割合は3人に1人になると言われ、様々な課題が議論され続けています。
そんな高齢化社会において、介護離職が問題となっています。
介護離職とは、身近な人の介護を行うために現在の仕事を辞めてしまうことを言いますが、日本での介護離職者は年間10万人、さらに介護離職の予備軍も含めると40万人にも上ると言われています。
これは、社会全体で言えば、ただでさえ、高齢者に対する働き手の割合が少なくなっていくのに、限られた労働力がさらに失われてしまうという経済損失となっています。
また、離職者個人としても、本来自分が望むライフスタイルが制限されてしまうという問題があります。
特に介護離職者の8割が女性で、介護負担が女性にばかり偏っているというのも大きな問題です。
いずれにしても、介護離職の問題は社会全体で克服すべき大きな課題と言えます。
そこで、安倍政権においても、「一億総活躍社会の実現」のために、昨年から新三本の矢の一つとして「安心につながる社会保障」の中で「介護離職ゼロ」という目標を掲げてきました。
これを受けて、仕事と介護を両立させやすくするため、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、略して「育児介護休業法」といいます。)がさらに利用しやすいものになるように改正され、平成29年1月1日から改正法が施行されることとなりました。
しかし、現状では、育児介護休業法を利用した介護休業の取得率はわずか3%程度に留まっており(ちなみに育児休業の取得率は70~80%以上)、しかも介護休業を取得しない理由の最たるものが、そもそも制度があることを知らなかったという人が多数となっているため、今回は啓蒙活動の意味を込めて、育児介護休業法について改正点を中心におさらいしてみたいと思います。
育児介護休業法の適用対象になる労働者は?
育児介護休業法の適用労働者は、要介護状態にある家族(内縁を含む配偶者、親、子、祖父母、孫、兄弟など)を介護する労働者のうち、正社員はもちろん、日雇いではないパート、派遣、契約社員等の有期雇用の労働者も、1.雇用期間が1年以上、2.所定の期間内に労働契約が終了することが明らかではない等といった要件を満たせば、この法律を利用することができます(来年から適用労働者の範囲が拡大します。)。
介護負担を減らす制度8選
それでは、以下、介護離職を決める前に知ってもらいたい介護負担を少しでも減らすための8つの制度についてご説明します。
1.介護休業の取得(育児介護休業法11条)
介護対象の家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割で介護休業を取得できます(2週間前までに書面、FAX等で申請が必要です)。
現行法では原則1回で93日までなのですが、介護の実態として、介護の始まりや終わりの時期に特に負担が大きいという実情を踏まえて、来年から、3回に分割して取得が可能になります。
なお、介護休業期間中の給料については、法律上の支払い義務はありませんので、社内規定次第となっています。*ただし、介護休業給付金が支給されることがあるので後述しています。
2.介護休暇の取得(育児介護休業法16条の5)
1年に5日(対象家族が2人以上なら10日)まで、半日単位で介護休暇を取得できます(原則口頭で可能です。)。
介護休業がひとまとまりにとる休暇であるのに対して、介護休暇は通院や買い物の付き添いのような単発の休暇のための制度です。
現行法では1日単位の取得しか認められていませんが、来年から、より日常的なニーズに対応できるように半日単位の取得が可能になります。
3.介護のための所定外労働の免除(新設)
現行法では一定の法定時間外労働の制限(1月24時間、1年150時間以内に制限)や深夜業の制限(午後10時から午前5時までの労働禁止)が規定されているだけでしたが、来年から、介護の期間が終了するまで所定外労働の免除を請求できるようになります。
4.介護のための短時間勤務制度の措置(育児介護休業法23条3項)
事業主は、労働者について、所定労働時間の短縮等により、就業しつつ家族の介護をしやすくするために、所定労働時間の短縮措置、フレックスタイム制度の導入、始業・就業時刻の繰り上げ・繰り下げ、介護サービス費用の助成等といったもの中から選択して措置を講じなければならないとされています。
現行法ではこういった措置について、労働者は介護休業と通算し93日の範囲内でのみ利用可能となっていますが、来年から、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となります。
5.転勤に対する配慮(育児介護休業法26条)
事業主は、労働者の就業場所の変更を行う場合には介護の状況に配慮しなければならないとされています。もし会社から転勤を打診されたら、この規定を元に配慮をお願いしてみるといいかもしれません。
6.不利益取扱いの禁止(育児介護休業法16条、10条等)
事業主は、介護休業等の制度の申出や取得を理由として、不利益な取扱いをしてはならないとされています(さらに来年からは、事業主には、職場内で介護休業等を理由とする就業環境を害する行為がされないような防止措置を講じる義務が課せられます)。
7.介護休業給付金の支給
雇用保険の一般被保険者で、所定の要件を満たす労働者は、賃金の67%を上限として、介護休業給付金が支給されます(平成28年7月31日までに介護休業を開始した場合は40%)。
しかも、介護給付金は非課税で、また、介護休業期間中に給与が支払われていなければ雇用保険料の負担もありません。
8.さらにお得情報!!
介護に要した費用について、一定の要件を満たす費用は医療費控除の対象になります。あまり知られていませんので、要チェックです。
さらに、例えば航空会社では介護帰省の利用には割引サービスを実施している等、民間でも介護負担を減らす取り組みをしていることがあります。
以上、育児介護休業法や介護給付金等について、少しでも介護負担を減らし、仕事と介護を両立させられるような仕組みについて解説させていただきました。
今後、要介護の高齢者が増えるにつれて、施設介護の限界から在宅介護が増えていくと思われますが、そうなればますます介護離職者が増えてしまうのではないかと思います。個人のためにも社会全体のためにも、少しでも介護離職を防げる社会になっていって欲しいですよね。
※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。