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ホテル【鉄道コンセプトルーム】のリアル/愛媛・松山の“伊予鉄ルーム”が本気過ぎる件

瀧澤信秋ホテル評論家
レフ松山市駅に登場した伊予鉄ルーム(筆者撮影)

ホテルとコンセプトルーム

ホテルの「コンセプトルーム」がブームになって久しい。コンセプトルームとは、アニメとコラボしキャラクターのデザインや小物など配する客室、高級家具ブランドや著名なデザイナーとのコラボでインテリア性を極めるケース、通販会社とのコラボでは客室にカタログ掲載商品を用い実際にその場から注文できる客室など、いずれにしても内装のリニューアルや特徴的な調度品などから、何らかの特異なコンセプトを表現した客室のことだ。

ホテル側にとって、コンセプトルームはホテルそのものが注目されることに加え、コラボするキャラクターなどへの興味から新規客を宿泊へ誘引といった具合に、話題性を高めることで新たな顧客獲得という狙いもある。また、コンセプトルームはいわば〝特別室〟であり、一般客室とは異なる料金体系で提供できるというのもメリットといえる。コラボする企業側としては話題性も然ることながら、相当な経費を掛けずしてショールーム代わりという形で自社アピールできる点も魅力だろう。

本気度?増すコンセプトルーム

スーペリアコックピットルーム(羽田エクセルホテル東急/筆者撮影)
スーペリアコックピットルーム(羽田エクセルホテル東急/筆者撮影)

以前はコンセプトルームといえば、趣味の延長線上というイメージであったが、昨今ではより本気度”が増している。本気度といえば、飛行機や鉄道といった乗り物系のコンセプトルームも花盛り。たとえば、羽田エクセルホテル東急では、ボーイング737-800型機を模したフライトシミュレーターを設置、飛行機の操縦体験ができる「スーペリアコックピットルーム」なる客室が話題になった。

乗り物系でいえば、鉄道のコンセプトルームは鉄道ファンの筆者としても気になるカテゴリー。秋葉原ワシントンホテルの「クハネ1304」ルームは、本格的な鉄道ジオラマが設置された鉄道コンセプトルームの火付け役ともいえる客室である。とはいえ限られた客室面積ゆえに、コンセプトの落とし込みにも苦労があるようだ。

愛媛・松山に誕生した“伊予鉄ルーム”

ハイフロア客室の窓から望む路面電車と松山城の贅沢ロケーション(筆者撮影)
ハイフロア客室の窓から望む路面電車と松山城の贅沢ロケーション(筆者撮影)

12月1日に開業する「レフ松山市駅 by ベッセルホテルズ」(愛媛県松山市)に2室設けられたのが「伊予鉄ルーム」。ホテルのコンセプトそのものが「The Station」というだけあり、ホテルは松山市屈指のターミナル駅である伊予鉄松山市駅に隣接、伊予鉄道株式会社とのタッグのもとに開業するホテルだ。ホテルの客室からは眼下に伊予鉄路面電車のターミナルを望み、窓外は路面電車の走行シーンも望めるなどトレインビュールームとしてのポテンシャルも高い。

伊予鉄ルーム(筆者撮影)
伊予鉄ルーム(筆者撮影)

伊予鉄ルームはその名の通り伊予鉄道をテーマにしたコンセプトルームで、伊予鉄道の協力のもとに誕生した。客室には、約60年間にわたり活躍してきた引退車両のパーツをリユース、車両の解体・移設がなされた。実際の運転席、床材、つり革、パネルなどの実物を使用、伊予鉄のNゲージも配されており走らすこともできる。制服の貸し出しも行う予定という。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

伊予鉄ルームをはじめ、ホテル全体のクリエイティブディレクションを担当したUDS株式会社の中原典人氏によると「車両のオリジナルサイズではもちろん客室に入らないので、実際のパーツをふんだんに用いつつ縮尺させることに苦労した」という。

丸ごと松山を感じられるのも魅力(筆者撮影)
丸ごと松山を感じられるのも魅力(筆者撮影)

とはいえ、運転台に着座した位置から、伊予鉄の映像を映せる可動式大型テレビが眼前に来るポジションにもってくるなど、鉄道ファンのこころをくすぐるアイディア詰まったコンセプトルームだ。

運転台から報道関係者へ説明する中原氏(筆者撮影)
運転台から報道関係者へ説明する中原氏(筆者撮影)

ホテルとご当地フィーチャー

一般的にコンセプトルームはホテル全体のごく一部となるが、宿泊特化型ホテル一般の傾向としては、大浴場やサウナといった付帯設備がトレンドになっており、こちらのホテルでも当然のように設置された。また、ロビーの無料コーヒーなども当然のサービスとして定着しつつある中、今回、レフ松山市駅のロビーで驚いたのがソフトクリームの無料サービスだ。しかもスタンダードなバニラに加え愛媛県産温州みかんソフトまである本格派。

ロビーのソフトクリーム無料サービス(筆者撮影)
ロビーのソフトクリーム無料サービス(筆者撮影)

このようなご当地フィーチャーは、近年の宿泊特化型ホテルの傾向として散見されるが、レフ松山市駅にも、各客室にあしらわれた「伊予絣(いよかすり)」や地元の陶芸作家が製作した「砥部焼(とべやき)」の花器や食器など、伊予鉄ばかりではなくホテル全体として愛媛・松山を体現する。

ブッフェで生食鯛とは贅沢(筆者撮影)
ブッフェで生食鯛とは贅沢(筆者撮影)

また、朝食でも地産食材のメニューなど宿泊特化型ホテルではデフォルト化しつつあるが、レフ松山市駅においても生食鯛を用いた宇和島の鯛めし、柑橘王国愛媛ならではのジュースのみ比べなどふんだんに採り入れられている。そんなご当地フィーチャーブームともいえる宿泊特化型ホテルであるが、加えてご当地で愛される鉄道までも登場するとは・・・“地域とホテル”に着目するという新たなフェースを見るようだ。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

ホテル評論家の辛口取材裏現場

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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