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女子プロ団体10年を支えた“太もも”

藤村幸代フリーライター
タッグマッチで強烈な蹴りを放つ里村明衣子(C)水田雅彦

「太ももの太さに感心しました」

私が声をかけると、「そう言っていただけると嬉しいです」と彼女は答えた。

これが体型を気にする女性との会話なら、私はかなりデリカシーのない人間になるが、「彼女」こと里村明衣子(36)は女子プロレスラー、しかもキャリア20年を誇る女子プロ界のトップレスラーの一人だ。

11月9日、東京・後楽園ホールで里村率いる女子プロ団体、『センダイガールズプロレスリング(以下、仙女)』が10周年記念大会を開催した。

セミファイナルに登場した里村は浜田文子(WAVE・35)とタッグを組み、アジャ・コング(OZアカデミー・46)、松本浩代(フリー・31)組に快勝。157センチと小柄ながら風格漂う佇まい、パワフルな蹴りやエルボーも印象深かったが、何より目に焼きついたのが彼女の太ももだった。

「最近ボディビルをやって少し細くなった」という太もも。それでも太い(C)水田雅彦
「最近ボディビルをやって少し細くなった」という太もも。それでも太い(C)水田雅彦

筋肉質の分厚い上半身を支える太もも周りは、おそらく一般女性の平均的なウエストサイズを優に超えている。それで思わず、試合後に声をかけたのだった。

「今も相当な練習量をこなしているのですか」と私が尋ねると、彼女は言った。

「はい、年齢と共にトレーニングの質は変えていますが。自分自身、現役をまだまだやりたいのだったら5年先、10年先を見据えた練習をしておくべきだと思いますし、それは新人時代からずっとやってきたことですし」

常に全力のプレースタイルが見る者を惹き込む(C)水田雅彦
常に全力のプレースタイルが見る者を惹き込む(C)水田雅彦

“里村明衣子の太い太もも”は今に始まったことではない。

95年4月、長与千種が設立した女子プロ団体『GAEA JAPAN(ガイアジャパン)』で、15歳の史上最年少レスラー(当時)としてデビューした時、里村を含めた新人たちは試合内容と共にその見事に鍛え上げられた肉体でも話題をさらった。同団体に所属していた当時の北斗晶も、「どれだけ練習しているかは、あの太ももを見れば分かる」と語っていたという。

女子プロレスラーとしての転機は、GAEA解散翌年の2006年。宮城県仙台を拠点に新たな女子プロ団体設立の動きがあり、オファーを受けた里村もエース兼コーチとして参画することとなった。

新潟県出身の彼女に仙台の地縁血縁は皆無。しかも所属選手は里村以外、プロレス未経験の少女たち。正真正銘「ゼロからの出発」だった。

4人の新人に対し、里村が何より重要視したのは、やはり“練習”だったという。

「最初の2、3年で徹底的に鍛えた体や技が、プロレスラーとしてのすべてのベースになる。そこを怠ってしまうと、いくら長く続けたとしても飛躍的な成長はありません。自分の経験からもそれが分かっていたので、旗揚げ当時はシゴキに近いくらい新人たちに練習させていたと思います」

70Kg超えの松本浩代を担ぎ上げ、ジャンプしてマットに叩きつける(C)水田雅彦
70Kg超えの松本浩代を担ぎ上げ、ジャンプしてマットに叩きつける(C)水田雅彦

里村は旗揚げ当初から「仙女を野球やサッカー、バレーボールなどと並ぶ仙台のプロスポーツにしたい」と公言してきた。地元のスポーツファンや企業、自治体の理解を得るべく、所属選手たちはアスリートとしての肉体をキープし、常に質の高い試合を提供してきた。

2011年3月の東日本大震災では活動停止を余儀なくされ、団体解散が頭をよぎったこともある。だが、「あなたが頑張れば宮城の人たちも頑張ろうと思えるのよ」という地元の人々の声に、再開を決意した。

「震災以降の数年間は退団者や引退する選手も出たりして、一番もがいていた時期。でも、立ち止まっていたら何も動かないと思って、スカウト活動に積極的に取り組みました。この5年を乗り越えられたからこそ、今、明るい未来が見えるようになったのだと思います」

10周年のメインは橋本(右)vs宮城という若手同士のタイトルマッチ(C)水田雅彦
10周年のメインは橋本(右)vs宮城という若手同士のタイトルマッチ(C)水田雅彦

仙女一期生のDASH・チサコ(28)を筆頭に、ビジュアル系の白姫美叶(20)、シュールなヒール、カサンドラ宮城(23)、レスリングエリートからプロ転向し話題の橋本千紘(24)。個性はバラバラだが、彼女たちの体つき、太ももを見れば、里村の薫陶を受けていることがよく分かる。

「でも、最近は特に練習しろとは言わないんです。トレーニングが心から好きという姿を見せるだけでいいかなと思って」

名門日大レスリング部出身の橋本(左)はデビュー1年で団体王者に君臨(C)水田雅彦
名門日大レスリング部出身の橋本(左)はデビュー1年で団体王者に君臨(C)水田雅彦

仙女所属は練習生を含めても6名。団体が成り立つギリギリの人数だ。「今後の最大の課題は選手を増やすことですか」。最後にそう尋ねると、里村は一瞬、大きな目をさらに見開き、それから首を振った。

「よく考えたら、ももクロ(ももいろクローバーZ)だって5人で何万人もの人を動かしているじゃないですか。同じように考えれば、私たちだっていくらでもやりようはある。今、このメンバーならそれができる気がするんですよ」

太ももにばかり気を取られていたが、そういえばこの意表を突く発想も、壮大な夢をサラリと口にし実行に移す胆気も、15歳の頃から何ら変わっていない。もしかしたら、まさにこれこそが仙女の10年を支えてきた里村明衣子の最大の強みかもしれない。

センダイガールズプロレスリング 試合予定

【2016年】

11月23日(水・祝)福岡・博多スターレーン 13:00~

12月3日(土)宮城・宮城野区文化センター 18:00~

【2017年】

1月9日(月・祝)東京・新宿FACE 18:30~

1月15日(日)宮城・宮城野区文化センター 14:00~

1月28日(土))大阪・大阪港区民センター 18:00~

フリーライター

神奈川ニュース映画協会、サムライTV、映像制作会社でディレクターを務め、2002年よりフリーライターに。格闘技、スポーツ、フィットネス、生き方などを取材・執筆。【著書】『ママダス!闘う娘と語る母』(情報センター出版局)、【構成】『私は居場所を見つけたい~ファイティングウーマン ライカの挑戦~』(新潮社)『負けないで!』(創出版)『走れ!助産師ボクサー』(NTT出版)『Smile!田中理恵自伝』『光と影 誰も知らない本当の武尊』『下剋上トレーナー』(以上、ベースボール・マガジン社)『へやトレ』(主婦の友社)他。横須賀市出身、三浦市在住。

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