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タイガー・ウッズ復帰に寄せる「さまざまな期待」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
腰の具合、ゴルフの調子、用具、集客力。ウッズ復帰に際して期待は膨らむ一方だ(写真:ロイター/アフロ)

タイガー・ウッズの復帰戦が発表された途端、ほんの2、3時間のうちにゴルフ界はウッズ一色になった。

昨年8月のウインダム選手権を最後に試合から遠ざかり、2度に渡る腰の手術からのリハビリに励んできたウッズ。今季は1試合にも出場できず、戦いの場に姿のない日々が1年以上も続いてきたが、復帰の報が駆け巡るスピードとその規模の大きさは“タイガー・ウッズ効果”が今なお健在である証だ。

【ステップを踏まえた復帰予定】

復帰戦のニュースはウッズ自身の公式HP上で9月7日(米国時間)に伝えられた。

予定されている出場試合は、とりあえず3試合。まず米ツアーの新シーズン(2016-2017シーズン)開幕戦、セイフウエイオープン(カリフォルニア州ナパ)で14か月ぶりの復帰戦を迎え、続いて欧州ツアーのトルコ航空オープン(11月3日~6日)、そしてウッズ財団がバハマで開催するヒーロー・ワールド・チャレンジ(12月1日~4日)に臨む心積りだそうだ。

なぜ、この3試合を選んだのか。その背景には、いろんな事情がある。

インド系企業ヒーローとの契約を発表した2014年ヒーロー・ワールド・チャレンジ。
インド系企業ヒーローとの契約を発表した2014年ヒーロー・ワールド・チャレンジ。

セイフウエイオープンは元々は米ツアーのフォールシリーズに位置付けられ、シーズン開幕時期が10月に変更されてからは新シーズン開幕戦となった大会。なかなか注目度が上がらないこの大会をなんとかして盛り上げたい一心で、米ツアー側が「この試合に出れば、他のツアーの大会にも“ある程度”出ていいよ」という条件付きで、数年前からウッズに出場を依頼してきたと言われている。

そしてウッズは2011年に同大会に出場して30位になり、昨年も本来は出場予定だったが、腰の手術後の回復が叶わず、欠場することになった。

今回、そのセイフウエイオープンを復帰戦に選んだのは、シーズン開幕戦という区切りの良さもさることながら、そんな裏事情とウッズなりの米ツアーへの義理立てもあると考えられる。

だが、そのおかげもあって欧州ツアーのトルコ航空オープンには堂々と出かけることができる。セイフウエイオープンでまずは米国ファンへ、次は欧州と世界のファンへ復帰した元気な姿をお披露目し、その次に自らが大会ホストを務めるヒーロー・ワールド・チャレンジで世界のトッププロたちと同舞台で久しぶりにプレーする。

今回発表された3試合への出場は、そんなステップを踏まえた復帰スケジュールだ。

【楽しみだが「こわごわ」待つ米メディア】

セイフウエイオープンの会場となるカリフォルニア州ナパのシルベラードCCには、練習日から2万人超のファンが押し寄せるだろうと早くも囁かれ始めている。

周辺のホテルはわずか3時間で一気に予約が埋まり、空室だった部屋の値段はいきなり1.5倍から2倍、いやいや、それ以上へ跳ね上がっている。

ウッズのプレーを楽しみにしているファンのみならず、ウッズがもたらす経済効果を期待するビジネスにとっても彼の復帰はそんな具合に朗報なのだ。

しかし、ウッズ番記者を長く務めてきた米メディアたちの表情は決して満面の笑顔ではない。腰の状態はさておき、ウッズのゴルフの状態が世間にお披露目できるレベルまで戻っているのかどうか。彼らの最大の関心は、そこにある。

そもそも、昨秋の2度の手術の後、腰の状態が順調に回復していることは、ウッズが何度か世間に姿を見せた機会を通して既知の事実となっていた。

今年3月にはウッズ自身が設計監修したゴルフコースの開場イベントに登場。4月のマスターズでは出場はしなかったものの開幕前のチャンピオンズディナーに出席し、大会後はオーガスタ近郊で開かれたジュニアのイベントに突然現れ、その練習場で300ヤード超のビッグドライブを連発して、その場に居合わせたジュニアやその親たちを沸かせた。

その場でパワフルなドライビングを見せたことで、「ウッズの腰は、もうすっかり治っている」と報じられ、ウッズ復帰戦は「メモリアルか?」「全米オープンか?」「自らが主宰するクイッケンローンズか?」と周囲は浮き足立った。

だが、そのクイッケンローンズのメディアデイで“事件”が起きた。招待したメディアや大勢の関係者が笑顔で見守る中、ウッズは池越えの短いパー3で、いくら打っても池を越えられず、その場の空気がすっかり凍りついてしまった。

それ以来、ウッズがなかなか復帰しないのは、腰そのものの問題ではなく、ゴルフの調子の問題で、しかもその「調子」は、再び勝てるかどうかという高いレベルではなく、普通に球が打てるかどうかという根本的で基本的なレベルを指していると思われてきた。

とはいえ、こうして復帰を決めたのだから、当然ウッズはその根本レベルの問題をクリアし、ある程度「戦える」という感触と自信を得ていると考えていいだろう。

「大事な試合を休み続けるのは辛かった。でも僕は、慌てず、賢く、リカバリーに励んできた。そして今こそは復帰の時期だと思った。楽しい秋になりそうだ」

そう言ったウッズの言葉が現実になってくれたらいい。だが、ウッズと親しい一部の米メディアは彼の復帰を「とても楽しみだけど、結構こわごわでもある」と複雑な想いで待ち受けている。

【Hope(復帰したい)という期待】

昨夏ごろから、ジェイソン・デイとウッズの仲は急速に親しくなっている。ウッズと頻繁に交わす携帯のテキストメッセージがデイにとって大きな支えになり、ウッズからの助言がデイを全米プロ覇者へ、世界一へと押し上げたとも言われている。

昨今、ウッズの「声」を最も多く聞いていたのはゴルフ界ではデイだった。だが、そんなデイでさえ「セイフウエイで復帰することは、僕もまったく聞いていなかった」と驚いている。

「タイガーが戻ってくることは、誰にとってもグッドニュース。僕にとっても寝耳に水のサプライズだったけど、タイガーが『秋には会おう』と何度も言っていたから、それが復帰を意味していたのかな」

デイは笑顔でそう言いながらも、スター選手どうしとして、ウッズへの気遣いも見せた。

「長く試合から離れてできた“錆び(サビ)”を落とすのは大変なこと。以前のような鋭さを取り戻すのは本当に難しいと思う。それに『タイガーが戻ってきさえすれば大きなことが起こる』と最初から過度の期待をされる中で復帰するのが一番大変なこと。僕は期待しすぎないであげようと思っている」

ファンはこんな強いウッズの復帰、復活を心の底から期待している
ファンはこんな強いウッズの復帰、復活を心の底から期待している

そうは言っても、人々はウッズに期待を寄せるからこそ、彼の復帰はビッグニュースになる。

契約先のナイキが用具市場から撤退を決めたことで、ウッズは今後、どんなクラブとボールを使うのか。そこにも大きな興味と関心が寄せられている。

ウッズ見たさにセイフウエイオープンには果たして何万人が押し寄せるのか。果たしてウッズの調子は戻るのか、戦えるのか。ツアー通算80勝目、メジャー15勝目を期待できる未来は到来するのかどうか。

期待はどんどん膨らんでいる。けれど、セイフウエイオープンで復帰することは、あくまでも「hope(復帰したい)」というウッズ自身の希望的な「期待」であることも、一応、頭に置いておきたい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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