「密輸防止設備」を密輸で取り寄せる、金正恩政策の大いなる矛盾
北朝鮮は、1400キロに及ぶ中国との国境の多くに、コンクリート壁を建設した。コンクリート製の柱に鉄条網をはわせて、そこに高圧電流を流す形のものだ。脱北と密輸を防ぐのが目的だ。
だが、それらの多くは、今年7月末の水害により大きく破損してしまった。当局は再建を指示したが、資材が不足していると、平安北道(平安北道)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
当局は先月初め、平安北道に駐屯する国境警備隊に対して、水害で被害を受けた警備哨所(監視塔)とコンクリート製の柱、鉄条網の復旧作業に人員を総動員せよとの指示を下した。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
今月9日の朝鮮民主主義人民共和国創建日(建国節)までに1次復旧を終え、来月10日の朝鮮労働党創建日までに完全復旧を終えよというものだ。
国境警備隊はまず、倒れてしまった警備哨所を元通りにし、コンクリートの柱、鉄条網を復旧させ、その次に監視カメラや通信ケーブルなどを設置し直す計画を立てた。
しかし、作業は遅々として進んでいないようだ。
まず、再構築を行うには鉄条網が必要となるが、これが手に入らないのだという。当局は復旧を指示するだけで、実際には資材の提供を全く行っていない。頭を抱えた国境警備隊が飛びついたのは、なんと密輸業者だった。
密輸を防ぐための設備の復旧に必要な資材の調達に、密輸業者の手を借りるという笑えない冗談のような状況となったのだ。情報筋も呆れ果てている。
「国は、国境警備隊と密輸業者の癒着関係を根絶せよと叫び統制を強化しているが、復旧には密輸業者の手助けが必要だ。こんな状況で癒着関係の根絶など可能なのか」
復旧工事のみならず、様々な物資調達において密輸業者の手助けがなくてはどうしようもない状況において、国境警備隊は、彼らの密輸を見て見ぬふりをするしかない。ただ、密輸を取り締まっているのは、国境警備隊だけではない。
運良く密輸に成功し、国境警備の設備の復旧が期日までに終えれれば、国境警備隊は褒められるが、もし失敗すれば、密輸に加担したとして処罰は免れない。そのリスクはわかっていても、これ以外に方法がないのだ。
当局は、国境地域に国防省725指揮組を派遣した。国境警備がきちんと行われ、脱北、密輸が適切に阻止できているかを管理、監督、調査し、朝鮮労働党に報告する役割を担っている。さらには、コロナ前のように国境警備隊が密輸や脱北に加担したり、彼ら自らが密輸を行ったりしていた状況に後戻りすることがないように、監視システムを構築する役割も同時に行っている。
中朝双方の国境に鉄条網も何もなく、国境沿いの中国側の堤防のそばに密輸品が積まれていたような、かつての状況に戻ることはないだろう。
しかし、国境警備隊と密輸業者は、持ちつ持たれつの関係を築き、私腹を肥やすにとどまらず、北朝鮮の商品経済を豊かにし、全国津々浦々の市場に加工食品、生活必需品、電化製品を届ける役割を果たしてきた。
金正恩総書記は、そのようなシステムを解体しようとしている。国が主導して必要な資材に限って輸入し、それを使って国内の工場で生産を行い、その製品を国境地帯を含めた全国に流通させるような経済システムの復活を目論んでいるようだ。
だが、商品価格に無駄な物流費が上乗せされ、高くてデザインや質の悪い国産品が製造され、それすら足りておらず、物不足が深刻な状況だ。
このような効率的でないシステムが続くのか、なし崩し的に元の状況へと戻るのか、今のところはわからない。