ティーパーティは“似非リバタリアン”
連邦債務上限引き上げをめぐる混乱で政府機関閉鎖という異常事態に陥ったアメリカは、ようやく民主・共和両党の合意が成立し、来年2月までの上限引き上げが決まりました。この混乱は、オバマケアと呼ばれる医療保険制度改革に反対する共和党強硬派が「米国債のデフォルト」を人質にとる危険な賭けに打って出たためで、この無謀な戦略は米国内でも厳しい批判を浴びました。
アメリカには国民皆保険制度がなく、自営業者や失業者など約5000万人が医療保険に加入していません。健康保険は主に企業を通じて加入するため、リストラなどで職を失ってしまうとたちまち医療費の支払いに窮するようになり、破産や家庭崩壊という悲劇を招くことがずっと問題視されてきました。
オバマケアは国民皆保険の導入を断念する代わりに民間保険会社に肩代わりさせるもので、今後はすべての国民に保険加入を義務付けると同時に、保険会社は持病を抱えているひとの加入申請を断わることができず、1年間の医療費の自己負担にも上限が定められました。制度改革に必要なコストは、製薬会社など医療関連業界への課税と保険料の引き上げによって賄われることになっています。
共和党がオバマケアに反対するのは、「アメリカ建国の理念は自助自立で、国民皆年金も国民皆保険も不要」という政治理念を掲げているからです。これがアメリカの保守思想ですが、もっとも強硬なティーパーティのひとたちは「リバタリアン」とも呼ばれています。
ティーパーティの名は独立戦争のきっかけをつくったボストン茶会事件に由来し、「建国の理念に帰れ」という主張を象徴しています。リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、国家(連邦政府)は個人の生き方や地域社会にいっさい介入すべきではないという、かなり極端な政治的立場をいいます。
ティーパーティは草の根的な政治運動で、参加者の多くは白人の中産階級です。彼らは貧しいひとたちに国家が施しを与えることで、自分たちの負担が増えることに激しく反発しています。彼らが既得権を守ろうとする保守(現状維持)派であることは間違いありませんが、果たしてリバタリアンなのでしょうか。
本来のリバタリアンは「原理主義者」なので、国家の介入を否定すると同時にすべての自由を熱烈に擁護します。リバタリアンからすれば、同性愛は個人の自由で、中絶は女性の基本的な権利です。しかしティーパーティのなかで、こうした政治的主張に共感するひとはごく少数でしょう。
同様にリバタリアンは、移民の自由を全面的に認めます。とはいえ、中南米やアジア、アフリカ諸国からよりよい生活を求めて膨大な移民がアメリカに押し寄せてくると、国家が彼らに年金や健康保険、生活保護などの社会保障を提供することは不可能になります。だからこそ「リバタリアン国家」は、すべての社会保障を廃止しなければならないのです。
ティーパーティも共和党保守派も、移民規制の強化を声高に主張しています。このことだけで、彼らが“似非リバタリアン”であることがわかるのです。
『週刊プレイボーイ』2013年10月28日発売号
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