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橋下サンと壇蜜とAKB……不可解な引力の正体

齋藤薫美容ジャーナリスト・エッセイスト

AKB人気の肝は、極限状態のスピーチ

まず、人は人の喜怒哀楽に吸い寄せられる。たとえば、AKBの“総選挙”にもそれは明らかで、前田敦子は“哀”で、指原莉乃は正反対の“楽”で1位を獲った。

そもそも、AKBの“不可解”とも言われる人気の秘密は、“しゃべり”にある。ビジュアルや歌や踊りよりもむしろ、あのスピーチに人を惹き込む魔力があるのだ。

おそらく“オーディション”では、支離滅裂でも何でも人前でしゃべれる女の子かどうか、そこを絶対の審査基準にしているのだろう。そして何かにつけて、一人一人にマイクを持たせ、極限の状態でスピーチさせて人の心を掴むという戦略が功を奏し、AKBは、というか“秋元さん”は天下を獲ったのだ。

とりわけ、日本中が抵抗しながらも結果を気にせざるを得なかった“総選挙後のスピーチ”は、もう投票は終わっているのに、本物の選挙運動最終日の絶叫を彷彿させるほど切実極まるスピーチをこれでもかと見せるのが、AKBが支持をかき集める必勝パターンなのである。

ともかくみんなマイクを持つと魔法にかかったように必ず泣き出し、なぜだか感動に打ち震える。ニッコリするゆとりを持つのは、もう笑うしかない“順位を落とした人”だけだ。

中でも、泣きの絶叫スピーチで、ひと幕の舞台のように“観客”を惹き込んだのが、言うまでもなく前田敦子で、逆に何だか笑えてしまう新しい快感を引き出したのが指原莉乃だったから、この二人は“社会現象”にすらなりそうな不気味な人気を集めることになったのだ。

ちなみにスピーチに初めて“怒り”を持ち込んだ篠田麻里子は順位の変動を乗り切ったが、逆に板野友美が不思議に支持を得られないのは、おそらくいちばん喜怒哀楽を出さないタイプだからなのだろう。

橋下市長の引力は怒ってこそ

一方、親密だった石原慎太郎に「終わったね」と断罪された橋下市長も、基本的に“怒りのスピーチ”で支持を集めてきた人。怒るたびに注目を集め、物議を醸し、賛否両論を生んでそれを支持と反発に変えてきた人。

けれども、この人の怒りには、横暴に包まれた正義感がのぞき、毒に隠れた真実がのぞく。だから激高しても、それが時に小気味よく、耳障りよく聞こえたりもする。きっちり弁のたつ人が理路整然と怒ると、人は快感を覚えるのだ。言うまでもなく、有吉弘行の異様な人気も同じ理由。

人の本音を突く怒りのしゃべりは、一種のカタルシスを生み、聞いている人を精神的にラクにするのだ。ましてや彼らの激高は、自信に満ちた冷静なもので、特に橋下さんは確信を持ってキレている。あとで、激怒した理由をいくらでも説明できるようなキレ方をする。感情は密かにコントロールされているから、人をシラケさせたり、ましてや飽きさせるような怒り方には絶対ならないのだ。その結果、怒りはそっくり“人を惹きつける引力”に変わるのである。

従って、例の慰安婦問題においては、言ったことの是非は別として、“言い訳”に転じた途端にこの人は、一切の引力を失った。あの主張は、さすがにどう理論立てても破綻する。だから怒りきれなかった。同じ怒りの人、石原さんにすらノーを言わせたのは、じつのところ拳を中途半端に下したから?

さて大切なのはここ。この喜怒哀楽を含んだしゃべりは、じつはそのまま色気に変わる。前田敦子も指原莉乃も、橋下市長も有吉弘行も、だからみな隠れセクシー。その秘めたる色気で、人を惹きつけているのである。

壇蜜の顔には、喜怒哀楽のすべてが潜む

じゃあ、壇蜜の場合はどうなのか? あの人にはむしろ、喜怒哀楽がない。どんなことが起きようと何を言われようと、あまり表情を変えない。しかしながら、板野友美の場合とはまったく逆。喜怒哀楽を出さないのに、この人の顔には喜怒哀楽のすべてがある。顔の中に4つの感情が潜んでる。つまりあの、能面の“小面”の顔なのだ。

言うまでもなく、ひとつの顔で喜怒哀楽の感情をすべて現す能の面。見る角度により、光の当たり方により、喜怒哀楽が次々に現れるというアレである。あの顔とまさにうりふたつ……。

あの面と同じように、この人は怒っているのか、笑っているのか、はたまた哀しいのか、よくわからない。おそらくは意図的に曖昧にしていて相手をつねに自分に惹きつけ、戸惑わせているのだろう。その上、この人もまた弁がたつ。受け答えのひとつひとつに毒があり、エスプリがあり、エロもあり。ひとりでいくつもの引力を持ってしまうという、類希れな存在なのだ。

もちろん表情がないわけでなく、いつもまったりした目と、半開きならぬ2割開きくらいの絶妙な口の開け方で、あえて作為的に色気をつくってはいるが、喜怒哀楽のすべてが潜んだしゃべりのうまさだけでも充分にセクシー、人を惹きつけてしまう。

かくしてAKBと橋下市長と壇蜜は、まったく同じ理由で、不可解なほどの支持を得てきたのである。

そのまま私生活に応用するのは危険すぎるが、スパイスとして取り入れると、きっと面白いように人を惹きつけられる。いつか試そう。

美容ジャーナリスト・エッセイスト

女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストへ。女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』』(講談社)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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