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障がい者の作る商品は安い?「常識」を変えるモノづくりに挑む女性

工美里ビデオグラファー

12月3日~12月9日は障がい者週間。障がい者の支援や障害について理解を深めることを目的としている。石川県金沢市には、障がい者が生き生きと働いている施設がある。
廃棄物を原材料にアクセサリーなどを開発・販売しているのはカエルデザインだ。商品をつくっているのは、県内6つの就労支援施設の障がいを持つ仲間たち。同社は、どんな障がいがある人でも適正賃金を得られるような商品開発に取り組んでいる。その中心となっているのが、アクセサリー作家の川﨑朱美子さん(53)だ。2019年に社長に声をかけられたのをきっかけに事業に参加。いまでは病気療養中の社長に代わって商品開発から販売までの主な仕事を担っている。障がいのある人たちの作るものは、安くしか売れない――。そんな「常識」をなんとかして変えていきたいと、障がい者とともに商品づくりにかける川﨑さんに思いを聞いた。

■大量の海洋プラスチックを原材料に
日本海に面した石川県の沿岸には、大量のごみが漂着する。その量は年間で約865トン(2022年、石川県調べ)。2023年4月のある日、金沢市内の砂浜で川﨑さんは、ザルを片手に流れ着いた海洋プラスチックごみを拾っていた。「ものの数分で、こんなに拾えるんですよ」。このプラスチックが、世界で一つだけのカラフルなアクセサリーに生まれ変わる。

カエルデザインの事務所には、海洋プラスチックごみが全国から届けられる。どこで集められたかが分かるように地名が書かれた段ボールに仕分けされ、市内の就労支援施設へと送られる。ここで障がいのある仲間たちの手仕事によって、アクセサリーに生まれ変わるのだ。できあがった色とりどりの商品は、カエルデザインのオンラインショップや全国各地のポップアップストアなどで販売される。川﨑さんは、アクセサリーの発送作業をする時に、お気に入りの模様を探すのが好きだという。「『これが一番いい!』と思っても、何個もあるんですよね、いいのが」

■時給233円で働く障がい者たち
障がいを持ちながら働きたい人の多くが利用しているサービスに、「就労継続支援B型」がある。事業所と雇用契約を結ばずに、軽作業などの就労訓練を受けられる。障がいや体調に合わせて自分のペースで働けるが、最低賃金は適用されない。B型事業所の利用者が受け取る工賃(賃金)の全国平均の時給はわずか233円だ(2021年度。厚生労働省調べ)。賃金が低いのは、企業から依頼される下請けや製品の一部の工程だけを担う内職作業が多いためだ。石川県では箱折、袋詰め、部品組立、検品などの下請けや内職作業をしている施設が多い。「健常者の方でも同じですが、内職作業はひとつ1円から5円。一部の工程だけしかやらないと、どうしても単価が低くなってしまう」 と川﨑さんは説明する。

これに対し、カエルデザインの海洋プラスチックアクセサリーづくりでは、石川県の最低賃金である時給933円を下回らないようにしている。製品が完成するまでの工程を細切れに請け負うのではなく、原材料の洗浄から完成までのすべての工程を障がい者に丸ごと任せることで、時給アップを実現させている。

■完成まで作ってもらえる簡単な作業工程を
金沢市内の「鳴和(なるわ)の里」も、そうした事業所のひとつだ。ここではまず、届いた海洋プラスチックごみを洗浄し、はさみで細かくするカットする。それをアイロンで溶かして板状にし、形をととのえてコーティング。それらを組み上げて完成品に仕上げている。川﨑さんは、一つひとつの工程を簡単にして、障がいのある人たちでも完成形まで作れるように工程を考えた。

施設の利用者には、身体障がいや知的障がい、精神障がいなどさまざまな人がいる。川﨑さんは商品開発と同時に、適正な時給を支払うためにいかに工程をはしょって簡単に作ってもらえるかを考えながら、何度も試作を重ねた。「内職のような同じ作業だけじゃなくて、少し考えながら、自分の思いも乗せて完成形まで作っていける作業もあったら、ある程度の時給もお支払い出来る。それがいいのかなと思って考えました」と振り返る。海洋プラスチックアクセサリーの特徴であるきれいな模様は、施設の利用者たちが選んだ色の組み合わせでできている。自分たちの思いを乗せた作業が、世界でふたつとないアクセサリーを生み出している。

■副次的な効果も
こうしたアクセサリーづくりに携わることで、施設の利用者には変化も見られるという。「鳴和の里」の施設長、藤谷幸造さんはこう話す。

「自分が何を作っているのか形が見えてくる達成感、自分の選んだ色がこんな風になったんだと分かって喜んでやっているようです。自分自身で出来を評価して続けている利用者さんもいます。感動を与えたり、次はもうちょっと工夫してとか想像力も出てきたりして、それで工賃もあがってくるという相乗効果がすごくあります」。

鳴和の里ではこれまで内職作業が多く、原材料を完成品にまで仕上げる依頼は初めてだった。海洋プラスチックアクセサリーづくりに参加した利用者の中には、やりがいを感じるようになったのか、休みがちだったのがすっかり休まなくなった人もいるという。川﨑さんも「利用者の中には、精神的にしんどいという方、明日のことを考えられない人もいる。明日の作業が楽しくなる、明日明後日のことを考えられる作業っていうのが作れたらいいなと思っている」と話す。「自分が作ることが好きだからかもしれないんですけど、完成して『出来た』っていう喜びも感じてほしいなって思っています」

■就労支援施設の課題と環境問題に同時に取り組む
カエルデザインは、環境問題に関心を持っていた社長の高柳豊さん(60)が、海岸で目の当たりにした大量のプラスチックごみを原料に、何かを作れないかと考えたことが始まりだ。高柳さんが川﨑さんとアートディレクターの井上和真さん (42)に声をかけ、3人のクリエイティブユニットとして2019年にスタートした。「社長がもともと就労支援施設で働いていて、『障がいのある人たちが作るものって、安くでしか売れない』とか、『売る方も買う方も安くて当たり前』みたいに思ってるところがあるっていう話を聞いていたんです。それをなんとかしたいっていう思いから、カエルデザインがはじまりました」という。

昔からモノづくりが好きだったという川﨑さんは、これまで自己流でさまざまなアクセサリー雑貨を作ってきた。「結婚して子育て中でも、疲れててもすぐ寝るというよりは、何か作ってリフレッシュしたいというのがあって。ストレス解消のためというか、夜中まで何か作ってました」と笑う。自分の手で作るだけでなく、小学生や高齢者にもワークショップでモノづくりを教えていた。「カエルデザインに入って、廃棄物をどう使うか、障がいのある人たちにどうやって簡単に作ってもらうかを考えるのがすごく楽しいです。小学生や高齢者にモノづくりを教えていた時の工程を考える経験が生きています」

■就労支援施設で作った商品が広がっていく
実店舗を持たないカエルデザインは、主にSNSで商品をPRしている。「こちらから営業して売り込むというより、当初はアップサイクルが珍しかったからか、SNSで見つけてくれた人からお声がかかることが多かったです」。SNSでは、海洋プラスチックアクセサリーが漂着ごみから生まれたこと、障がいのある仲間たちと作っていることを発信し続けた。そこに共感してくれる人たちが少しずつ増え、各地のポップアップストアでの販売や企業とのコラボレーションも実現。テレビ番組や雑誌にも取り上げられるようになった。カエルデザインはいま、アクセサリーだけでなく、コーヒー豆の麻袋から作るキッチンクロス、カーテンの切れ端から作るメガネケースなども販売している。

2023年夏には、東京国立博物館の特別展「古代メキシコ」ともコラボ。仲間たちと作ったヘアゴムやネックレス約500点が、グッズとして納品された。「自分ひとりで作っていたら、東京国立博物館になんて絶対行けなかった。皆さんのおかげ」と川﨑さん。

「就労支援施設で作ったものは、売る場所がないという課題もある。そういうのは私たちが後押しして、色んなところで販売してきたい。障がいのある方たちが作った商品がバザーじゃなくて東京のデパートとかに並んでいるのが、自己満足だけどすごくうれしい。『これ、あなたたちが作ったやつですよ』って、声を大にして言いたい」

作家として、ひとりでモノづくりを楽しんできた川﨑さん。いまは自分ひとりのためでなく、誰もが作れるモノづくりをめざし、新たな商品開発に取り組んでいる。

【この動画・記事は、Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリーの企画支援記事です。クリエイターが発案した企画について、編集チームが一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動はドキュメンタリー制作者をサポート・応援する目的で行っています。】

監督・撮影・編集
工 美里

プロデューサー
初鹿 友美

取材協力
カエルデザイン合同会社
就労継続支援B型事業所 鳴和の里

ビデオグラファー

1991年生まれ。石川県出身。Yahoo!ニュース エキスパートにてドキュメンタリー制作に挑戦中です。

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