安倍昭恵氏のフェイスブックでの釈明文の分析と証拠価値
昨日の森友学園の籠池氏の国会証人喚問は、なかなか、衝撃的な証言が多かったですね。筆者も久米宏氏、筑紫哲也氏が健在だった頃以来おそらく初めてニュースステーションとニュース23のハシゴをしました。
ところで、籠池氏の証人喚問での証言に対しては、安倍昭恵氏がなぜかフェイスブックで釈明文を発表する、という予想外の展開となっております。筆者は、この昭恵氏のエントリは良くできた“霞ヶ関文学”だと思ったので、以下、逐次引用して、分析しようと思います。なお、使用できる文字の都合上、丸数字をアラビア数字に変換してあります。
本日の国会における籠池さんの証言に関して、私からコメントさせていただきます。
1 寄付金と講演料について
私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております。
まず一見して感じるのは、これはよく練られた文章だなあ、ということです。一見して、隙がありません。ただ、「100万円の寄付金をお渡ししたことはありません。」「講演料を頂いたこともありません。」と言い切って終わりにすれば済むはずの文章を「この点について、」とわざわざ続け、紛争化した後に籠池氏の妻からメールで指摘がなかったことと「記憶がないことをはっきりとお伝えしております。」と言い換えており、結局、「ありません。」という言い切りの言葉を、問題顕在化後のメールでのやり取りの問題と、今年2月の時点での昭恵氏の記憶の問題に置き換えているようにも読めます。よく練られています。
本日、籠池さんは、平成27年9月5日に塚本幼稚園を訪問した際、私が、秘書に「席を外すように言った」とおっしゃいました。しかしながら、私は、講演などの際に、秘書に席を外してほしいというようなことは言いませんし、そのようなことは行いません。この日も、そのようなことを行っていない旨、秘書2名にも確認しました。
この文章も本当によくできています。“霞ヶ関文学”の華と言ってもよいでしょう。第二文の「しかしながら~」で始まる文章は、一般論として「講演などの際に」秘書にそのようなことは言わないと言っているだけで、平成27年9月5日に昭恵氏がどうしたかは書いていません。「この日」(すなわち平成27年9月5日)のことについては、そのようなことを行っていない旨、秘書に確認した、というだけで、昭恵氏の一人称で、「私はこの日そのようなことを行っていません。」とは一言も言っていないのです。よく練られています。
また、「講演の控室として利用していた園長室」とのお話がありましたが、その控室は「玉座の間」であったと思います。内装がとても特徴的でしたので、控室としてこの部屋を利用させていただいたことは、秘書も記憶しており、事実と異なります。
玉座の間・・・。「終点が玉座の間とは、上出来じゃないか。」という某大佐のセリフが思い出されますが、森友学園の塚本幼稚園にはそういうものがあったんですね。しかし、この文章も平成27年9月5日のこととは特定していません。また、ここでも言い切りの言葉はなく、「思います。」と主観を述べているだけです。昭恵氏は3回、塚本幼稚園に行っているそうなので、記憶が特定できないのでしょうか。
2 携帯への電話について
次に、籠池さんから、定期借地契約について何らか、私の「携帯へ電話」をいただき、「留守電だったのでメッセージを残した」とのお話がありました。籠池さんから何度か短いメッセージをいただいた記憶はありますが、土地の契約に関して、10年かどうかといった具体的な内容については、まったくお聞きしていません。
借地期間の10年云々については、内閣総理大臣夫人付の職員から籠池氏に宛てたFAXには書かれていることなので、「それは職員が回答したことで私は聞いていません。」という意味にも取れます。ただ、職員がFAXに書いた借地の期間以外の他の点がどうだったのかについて、昭恵氏が聞いていたのかどうか、昭恵氏は明らかにしていません。また、籠池氏は昭恵氏の電話の留守電にメッセージを残した旨、証言したので、この点の両者の認識は一致していることになります。
籠池さん側から、秘書に対して書面でお問い合わせいただいた件については、それについて回答する旨、当該秘書から報告をもらったことは覚えています。その時、籠池さん側に対し、要望に「沿うことはできない」と、お断りの回答をする内容であったと記憶しています。その内容について、私は関与しておりません。
以上、コメントさせて頂きます。
これは記憶違いというか、印象操作ではないでしょうか。総理夫人付の職員から籠池氏に宛てた2度目のFAXとされる文章(毎日新聞参照)では、財務省国有財産審理室長の田村嘉啓氏からの回答として「4) 工事費用の立て替え払いの予算化について」と題した上、「一般には工事終了時に清算払いが基本であるが、学校法人森友学園と国土交通省航空局との協議にあたり、「予算措置がつき次第返金する」旨の了解であったと承知している。平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中。」と便宜供与とも取れる内容をあけすけに記載しています。
そして、実際、近畿財務局(財務省)、大阪航空局(国交省)、森友学園は、平成28年度予算が成立した平成28年3月29日の翌日に「有益費」の「返還」に関する合意書を締結し、国の会計年度が平成28年度になった直後の同年4月6日に、約1億3200万円を森友学園に「返還」と称して支払っています。もちろん、税金です。今日から見れば、国が「有益費」の名目で、税金で「工事費用の立て替え払い」をしたとも取れる内容になっているのです。実はこのことは、報道が激しくなる前に朝日新聞が2月14日の記事「学園「ごみ撤去1億円」 国は8億円見積り 国有地購入」に財務省のコメントとして掲載した「理事長は『撤去費の額は他の工事と一体になっているので分からない』と答えている」とも合致しているようにも思えます。この頃は、政府の情報コントロールも行き渡っていなかった可能性があり、この件に関する初期の財務省の説明と、総理夫人付職員のものとされる文章の内容が合致しているように思えるのは興味深いところです。なお、森友学園が大阪府の私学審議会に提出した資料では、平成27年度に1億3000万円の「国庫補助金」があったことになっています(3月11日しんぶん赤旗)。合意書の日付を基準とすればこうなるのでしょう。
むしろ、このFAXは籠池氏の言う「神風」の起点となっている可能性はないでしょうか。そして、国から森友学園に対する約1億3200万円の「有益費」の「返還」は、実質的には計算根拠も法的根拠もない補助金だった可能性はないでしょうか。
まとめ
このように、昭恵氏の釈明文は大変高度な“霞ヶ関文学”であるため、本人の肉声が聞こえてこない内容になっています。残念ながら、偽証罪の制裁の下で証言をした籠池氏の証言の信用性には到底及ばないでしょう。裁判所で証人尋問をする場合は、問題となるやり取りがあったとされる双方を証人として尋問するのが普通です。双方の証言を聞き比べて、どちらが信用できるか考えるのです。昭恵氏は、フェイスブックでここまでのことをするのであれば、国会で証人として証言すればいいのではないでしょうか。
官僚の「参考人招致」の不可思議
また、国会では、今日、迫田英典国税庁長官と武内良樹財務省国際局長を参院予算委員会に参考人として招致することになったようですが、これについても、証人喚問ではないため、極端なことを言えば、虚偽答弁をしたり、回答拒否をしても、それ自体には何の制裁もないのです。
実際、この間、矢面に立っている財務省の現・佐川理財局長の答弁の中には、ごみ撤去費用の見積を専門業者にさせず、大阪航空局がした理由について「撤去に時間がかかり、小学校が開校できないと損害賠償訴訟を起こされる恐れがあった」「国が費用を見積もり、学校建設を遅滞なく進ませようとした」(3月6日読売)などという、明確な嘘ではないものの、限りなく虚偽に近いものもあります。なぜ、森友学園の「強い要望」により、原則を曲げて土地を貸してあげた国の側が損害賠償請求を受けるのでしょうか。
また、この間、佐川理財局長は野党からの質問に対して回答拒否や不誠実な回答を連発しています。
なぜ、民間人の籠池氏は証人喚問で、国民の財産を預かる責任者の官僚は、責任を問われない参考人招致なのでしょうか。今日の籠池氏の証人喚問では、この二人の官僚だけでなく、平成28年3月に籠池氏と面談したと思われる財務省の官僚の名前も出てきました。これらの人々も証人喚問すべきでしょう。