いつ「それ」がやってくるのかを私たちは知ることができない
2017年10月は「国難」を理由に総選挙が行なわれ、民進党分裂という副産物を生みましたが、予定調和的に与党が圧勝し安倍「長期」政権がつづくことになりました。国難である北朝鮮の核ミサイル開発は脅威ですが、度重なるJアラートにひとびとは慣れてしまい、地下などに避難したのは5%台とのことです。年末の話題はあいかわらず大相撲の「日馬富士事件」で、振り返ってみれば大過なく日々は過ぎていきました。
これは日本だけのことではありません。奇矯な言動を繰り返すトランプ大統領の就任で「(第三次世界大戦のような)とんでもない災厄」の恐怖が蔓延しましたが、米国と中国・ロシアとの関係はそれなりに安定しており、北朝鮮とのあいだで戦争が起きる気配もありません。エルサレムをイスラエルの首都と認定したことはイスラーム圏で強い抗議を引き起こしましたが、それがすぐに内戦や動乱につながるわけでもなさそうです。
ヨーロッパではイギリスのEU離脱交渉が始まりましたが、残留派が危惧したような株価や通貨の暴落が起こるわけでもなく、離脱派が主張したようなイギリス経済復活の兆しもありません。EUとのあいだで事務的な交渉がだらだらとつづいているだけです。
39歳の若さでフランス大統領に当選したマクロンは、当初の勢いはなくなったものの「ネオリベ的改革」を着々と進めています。盤石だと思われていたドイツのメルケル政権は総選挙での辛勝で安定多数を維持できなくなりましたが、おそらくは大連立の復活でこの騒ぎも収拾するでしょう。
ヨーロッパでの「極右」台頭の最大の要因となっている移民問題も、トルコの協力を得て流入を抑え、移民の認定をきびしくすることで小康状態を保っています。IS(イスラム国)が壊滅したことでテロの拡散が不安視されていますが、幸いなことに大きな事件には至っていません。
こうした状況を反映して株価も上昇しています。
2017年11月6日にニューヨーク株価が史上最高値を更新すると、翌7日に日経平均株価がバブル崩壊後の最高値である2万2666円(96年6月26日)を上回りました。トランプノミクスやアベノミクスの効果かどうかは議論が分かれるでしょうが、株式市場が現在の経済環境を好意的に受け止めているのは間違いありません。「“鎖国政策”によってグローバル市場が崩壊する」というのは杞憂だったようです。
だとしたら、2018年も同じように大過なく過ぎていくのでしょうか。これは、「たぶんそうだけど、そうでないかもしれない」としかいえません。
過去の経済予測を調べると、もっともよく当たるのは「去年と同じ」です。「車は急に止まれない」のと同様に、市場には強い粘性があるので、ものごとは急には変わりません。
しかし、ここにはちょっとした問題があります。ほぼすべての専門家が、リーマンショックのような超弩級の出来事の予測に失敗しているのです。
核攻撃からハイパーインフレまで、不安の種はいくらでもあります。運命と同じく、いつ「それ」がやってくるのかを私たちは知ることができないようです。
『週刊プレイボーイ』2017年12月25日発売号 禁・無断転