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「見返してやる」将軍様に捧げられた花輪に放火した北朝鮮男性の最期

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮の首都・平壌の万寿台(マンスデ)にそびえ立つ金日成主席、金正日総書記の銅像。訪れる人は必ず花輪を捧げる。花が溢れているのは銅像に限らず、両氏に関連した施設ならどこでも見られる風景だ。

 そんな花輪に放火した男性が逮捕される事件が起きた。それも、16日の光明星節(金正日氏の生誕記念日)の当日だ。詳細をデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 事件が起きたのは、黄海南道(ファンヘナムド)新院(シノン)郡の革命史跡地だ。そこに捧げられていた花輪に火が付けられる事件が起きた。秘密警察の黄海南道保衛局と新院郡保衛部は非常捜査班を立ち上げ、郡内に住む40代のチェ氏を緊急逮捕した。

 情報筋によると、チェ氏は普段から現体制に対する不満を抱えていたという。国家科学院の科学者だった父親が1980年代、反党・反革命宗派分子(分派主義者)とされ、新院郡に追放され、チェ氏は子どものころから「お前の父親は反動だ」と言われながら育った。

 高級中学校(高校)卒業後に軍に入ろうとしたが、土台(身分)に問題があるとして、軍に入れず、大学入学推薦も受けられなかった。見返してやるという一念で就職し、熱心に働いたものの、労働党に入ることも結局認められなかった。

 万民が平等であるはずの北朝鮮だが、国際人権条約で禁止されている身分制度が存在し、多くの人々が「村八分」状態に置かれているのだ。

 そんな身分制度の犠牲者であるチェ氏は、軍、大学、朝鮮労働党のいずれにも入れず、挫折感と怒りを内に秘めて生きてきた。

 そんな彼は、光明星節80周年に合わせて行動を起こしたわけだ。最高尊厳(最高指導者)の威信に関わる問題とあって、チェ氏はもちろん、家族全員が保衛部に連行された。一家に対する具体的な処分について情報筋は言及していないが、死刑か、管理所(政治犯収容所)送りになるのは間違いないだろう。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 黄海南道保衛局は、道内の要監視対象者の思想動向を全面的に再調査し、監視を今まで以上に強化するだろうと情報筋は見ている。また、事件のことが広がれば社会的な動揺が広がりかねないとして、事件のことを極秘扱いしている。

 親子といえども全く別の人格であるのに、「蛙の子は蛙」と言わんばかりに、親の罪を子々孫々になすりつける北朝鮮の身分制度が生んだ悲劇的事件と言えよう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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