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神戸を1年で退団した世界最優秀選手のサヴェア。「(再び)オールブラックスに選ばれたらベストを尽くす」

斉藤健仁スポーツライター
予定通り1シーズンで退団した神戸Sのオールブラックスのサヴェア(撮影:斉藤健仁)

 日本でプレーした8人目のラグビー世界最優秀選手はピッチ内外で大きなインパクトを残した。 

 今週末から「NTTジャパンラグビーリーグワン」はいよいよ、上位4チームによるプレーオフトーナメントに突入する。その一方で、ニュージーランド(NZ)人の名将デイブ・レニーが就任し、コベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)は昨季の9位から5位と順位を上げたが惜しくもプレーオフに進出できなかった。総得点はリーグ2位の647点を記録したが、勝負所の失点が響き、あと勝点4が足らずシーズンを終えた。

◇予定通り、1シーズンでの退団となった

 今シーズン、最も注目された選手の一人が、神戸Sに加わったNZ代表キャップ81を誇るFL/NO8アーディー・サヴェアだった。2大会連続ワールドカップ(W杯)に出場し、2023年の世界最優秀選手賞に選ばれた〝現役バリバリ〟のオールブラックスだった。

 ただNZ協会と2027年W杯まで契約を結んでいた中で、特例として〝サバティカル(本来は長期休暇の意)〟で、1シーズン限定で日本でのプレーを選択。5月10日に会見を開いたが、予定通り、今季での退団となった。

オールブラックスの同僚だったLOレタリックとともに今季、加入。オフロードパスを見せるサヴェア(撮影:斉藤健仁)
オールブラックスの同僚だったLOレタリックとともに今季、加入。オフロードパスを見せるサヴェア(撮影:斉藤健仁)

◇日本で「自分もチャレンジしたい!」

 もともとサヴェアが日本のリーグワン、そして神戸Sに来た理由は「(元オールブラックスで神戸Sに在籍するCTBナニ・)ラウマペに『スティーラーズに来られるんだったら来いよ!』と言われて、巡り合わせがあって、日本でプレーする機会をもらった。いろいろな刺激が加わって、日本の競技レベルもどんどん上がっているので自分もチャレンジしたい。

 また、高い環境の中で、一貫して自分の求められるものを出して、神戸をトップに連れていく一部になれればいい。アタック、ディフェンスどちらでも激しさが強みです。また、ラグビーの中でIQにも注目してほしい」」と意気込んでいた。

 その言葉通り、サヴェアは開幕から8試合で7トライを挙げるなど気を吐いた。後半戦はやや精彩を欠いたが15試合に出場し8トライを記録してチームに貢献し続けた。しかし神戸は勝負試合で勝つことができず、惜しくも5位でトップ4に導くことはできなかった。

 退団会見で、1年間、神戸でプレーした印象を聞かれてサヴェアは「オンフィールドのハイライトは、日本、神戸のファンに触れることができたことです。NZとはまったく違う、神戸のファンは熱狂的な雰囲気はあちらでは味わいがたい。フィールドの外では奥さんと子どもが来日し、何より家族が日本を楽しんでくれたのが印象に残っています。日本人のリスペクトに触れられたのも素晴らしい経験でした」と振り返った。

 日本ラグビーへのアジャストは難しかったのか、という質問には「違う文化、言葉でラグビーをしていく上で、最初にあたった壁は言葉だった。日本の兄弟たちが教えてくれて、使える言葉が増えていって、面白いフレーズも教えてもらって楽しかった。

試合に関しては、日本のラグビー、スピードが段違いと感じた。それに加えてチョップタックルの低さはNZでは経験できないものでした。自分自身が身を投じて学んでいかないといけない、変えていかないといけない、成長していかないといけない部分で、とてもいい学びになった。間違いなくNZに戻った後、フィールドで存在感を発揮する、いいプレーヤーになるためには財産になるような経験ができた」と話した。

16試合中15試合に出場したサヴェア(撮影:斉藤健仁)
16試合中15試合に出場したサヴェア(撮影:斉藤健仁)

◇神戸Sに向けて「絆を一番大切にしてほしい」

 神戸Sが来季、今季の5位以上の成績を残すためには何が必要か?と聞かれて、サヴェアは「めちゃくちゃいい質問ですね!」と言った後、しばらく考えてこう答えた。

賢人の知恵というか、自分なりに賢い人のふりをして言うなら、そもそも自信を持ってほしい。それがプレーにつながる。信じるのは自分だけでなくゲームプラン、チームとしてあれをしよう、これをしようと決めたことに対してしっかり信じてやってほしい

 もう1つ、僕たちが何のためにプレーするか、何を背負っているかと考えたとき、会社の存在、チームの存在があり、そして仲間の存在がある。日本人と外国人が入り乱れているチームの中で、境目なく、しっかりオフフィールドでも絆を作り上げてほしい。そのオフフィールドでの絆がオンフィールドにもつながっていく。それがゲームの中で迎えた厳しい局面で手助けしてくれる。その絆を一番大事にしてほしい

 続いて日本ラグビーがもっとレベルアップするには?とたずねられると「10月末にオールブラックスが日本に来ますが、それを言ったら日本が強くなっちゃう!ということは置いておいて……知らないところから日本の中でラグビーを経験して、すごいなと思うところはありますし、間違いなく強くなっていい方向にいっていると思います。本当に今、それぞれのチーム、選手がやっていることを信じて突き詰めていけば強くなる。何かこれといった魔法の言葉はないです」と茶目っ気たっぷりに答えた。

キックを蹴るサヴェア。激しいプレーがウリだがスキルも高かった(撮影:斉藤健仁)
キックを蹴るサヴェア。激しいプレーがウリだがスキルも高かった(撮影:斉藤健仁)

◇「オールブラックスに選ばれたらベストを尽くしたい」

 NZでハリケーンズに所属していたサヴェアはまだ来季、所属するスーパーラグビーチームは「具体的には決まっていない。地元に戻ってまずはクラブラグビーからということになりそう」とのこと。当然、オールブラックスでのプレーは期待されており、スコット・ロバートソン新ヘッドコーチが率いる黒衣軍団のキャプテン候補の一人に挙げられている。

 「昨年スーパーラグビーが終わり、W杯があり、W杯が終わって日本に来て、リーグワンでプレーしていた。2年くらいラグビー漬けだった。まずはしっかり家族と時間を過ごしてリフレッシュしたい。

オールブラックスに選ばれるか選ばれないかは、NZに戻ったら答えが出る。選ばれたらベストを尽くしますが あまりにも家族と離れていたので 家族を大事にして、学校に子どもを送り迎えして、家の中でいい旦那、いいお父さんになることで時間を過ごしたい。オフフィールドではいい父、旦那になり、オールブラックスに選ばれたらそちらでもベストを尽くそうと思います

サヴェアはしばしのオフの後、再びオールブラックスでプレーすることになりそうだ(撮影:斉藤健仁)
サヴェアはしばしのオフの後、再びオールブラックスでプレーすることになりそうだ(撮影:斉藤健仁)

◇次のW杯後、再び、神戸でのプレーが見たい!

 2027年W杯が終わったらもう一度、神戸Sに戻って来たいか?と聞かれて、サヴェアは「もちろん、本当に神戸Sに帰ってきたい。神戸で過ごした時間は、とても愛おしくて忘れがたい。もう1回チャンスがあれば、日本に戻ってきたい気持ちは今でもその気持ちもありますし、その時も持っていると思います。帰ってくるチャンスがあれば、神戸Sに連絡して、何とかここでチャンスをもらえないかと聞いてみたい」と語気を強めた。

 サヴェアと言えば、プレーぶりだけでなく、SNSでおにぎり、唐揚げ、サンドイッチ、チキン、コーヒーなど日本のコンビニフードを紹介する動画が人気を博した。

 最後にマイクを握ったサヴェアは「(メディアに対して)優しく迎えてくれて。とても親切にインタビューしていただいて、(試合後に)痛い気が紛れるような質問をしてくれたりして、日本を楽しむことができた。(コンビニの)ローソンの話はとても思い出深いものとなった。神戸に来られて誇らしいし、あらためてここを去る前に御礼をいいたい」とコメントを残して会見が終了した。

 神戸SのFL/NO8サヴェアは惜しくも1年間での退団となったが早くて10月末に、オールブラックスの一員として日本でのプレーを見られそうだ。ただ2027年W杯以降、再び、神戸でのプレーが見られる日を心待ちにしたい。

23年W杯決勝でプレーするサヴェア。新キャプテン候補にも挙げられている
23年W杯決勝でプレーするサヴェア。新キャプテン候補にも挙げられている写真:REX/アフロ

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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