遺族は霊安室で驚愕した…北朝鮮「病院の猟奇事件」公開処刑で幕
北朝鮮はかつて、犯罪の少ない国と言われていた。一部の特権層を除き、皆が平等に貧しいものの、完備された配給システムで食糧や生活必需品を得られるという社会体制のおかげだと言われている。
ところが、配給システムが崩壊、食糧難が頂点に達した1990年代後半には犯罪が多発した。平壌郊外の新興住宅地では、殺人、自殺、餓死かは不明だが、毎日のように遺体が発見され、中にはバラバラにされたものもあったという。
食糧難が深刻さを増す前の1990年、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の新浦(シンポ)では、40代男性が、肝臓病に効果があるとの占い師の言葉を真に受けて、10〜20代の12人を殺害、肝臓を取り出して食べる事件が起きている。犯人には翌年死刑判決が下された。
それから30年。新浦から遠く離れた開城(ケソン)で、また猟奇的な事件が起きた。その経緯を現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
今年5月のこと。家族を病気で亡くしたある市民が、開城市人民病院の霊安室から運び出された家族の遺体を見て驚愕した。患っていた部位とは全く異なる、頭部に大きな傷があったのだ。遺族は病院側に抗議すると同時に、安全部(警察署)に通報した。捜査に乗り出した安全部が逮捕したのは、開城市人民病院で救急課長として務めていたAだった。
3ヶ月に及ぶ予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)でAは、犯行を認め、その詳細を供述した。
病名は詳らかでないが、Aの妻は長年、急な頭痛を伴う持病に苦しめられてきた。Aは医療情報や医薬品にアクセスしやすい立場だけあり、ありとあらゆる手を尽くして妻を救おうとしたことは想像に難くない。しかし、いずれも効果がなかったのだろう。
よほど追い詰められたのかAは、医療関係者としてあるまじき行為に及んだ。「骨髄や脳みそを食べれば頭痛が治る」というとんでもない俗説を信じてしまったのだ。
そして、Aは病院の霊安室に向かい、安置された遺体の頭蓋骨を割り、脳みそを取り出して医学的な措置を行った後で、妻に食べさせた。Aは、5年間に渡り同様の犯行を続け、確認されただけでも4体の遺体を損壊していた。
事件の全貌が明らかになり、病院は大騒ぎとなった。やがて、この話は市民の間にも広がり、元脱北者の密入国事件で完全封鎖措置が下されるなど、ただでさえギスギスした雰囲気だった開城に衝撃が走った。
3ヶ月の取り調べで罪を告白したAは、先月中旬に開城駅から少し離れた空き地で公開処刑された。多くの市民が見守る中、3人の狙撃手が柱に縛り付けられたAに30発の弾を撃ち込んだ。大きな銃声に驚いた市民は耳をふさぎ、恐怖におののいた。
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公開処刑が頻繁に行われてきた北朝鮮だが、実は開城で行われるのは初めてだったという。その理由は定かではないが、軍事境界線に近いだけに韓国に察知されやすいからかもしれない。公開処刑を見ることを強いられた開城市民は、次のように語ったという。
「死んで当然の罪を犯したが、人が人を殺すのを見るのを見てゾッとした」
北朝鮮において誰よりも多く猟奇的な殺人――公開処刑を行っているのは政府だということを、開城の人々は知らなかったのだろうか。