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ワクチンの安全とは?~「前後関係」と「因果関係」のよくある誤解

紙谷聡小児感染症専門医、ワクチン学研究者
(写真:アフロ)

このシリーズは、新型コロナウイルスワクチンの日本への導入にあたり、読者の方がワクチンの安全性や副反応についての正しい基本的知識を身につけていただくことを目的としています。一口にワクチンの安全性といっても、その安全性を理解するためにはいくつかの基本的な用語や考え方を知っておくとことが大切です。そうすることで、メディアから日々報道されるワクチンの安全に関するニュースに対してご自身でより良く判断できるようになります。(※この記事は私の個人ブログ(2020年12月5日)より転載かつ編集したものです。)

事実:ワクチンの後に起こったことすべてが副反応ではありません

当たり前かと思われるかもしれませんが、これは極めて重要な知識なので、最初に説明します。

例え話です。誰かがガンにかかってしまったとき、あれこれとガンにかかった原因を考えました。そして、がんになる前にずっと食べたものが原因じゃないかと考え、以前から好きでずっと食べていたブロッコリが原因じゃないかと考えました。しかし誰でも分かるように、そんなわけないですよね。がんになるまえにずっと食べていたからといってすべてがんの原因になるわけではありません。つまり、前後関係がある(がんになる前に食べていた)からといって因果関係(原因と結果の関係)になるわけではないのです。そのため、正式な研究を行って、たばこやお酒ががんのリスクだということを突き止める必要がありました。

同じことがワクチンでもいえます。例えば、ワクチンを打って2日後に交通事故で死亡したとします。これはワクチンが原因でしょうか? 普通はそう考えないですよね。交通事故の前にワクチンを打っていますので前後関係はあります。しかし、それがそのまま因果関係にはつながりません。もしこの方が実は飲酒運転をしていたとしたら、ワクチンよりも飲酒が直接の原因でしょうと誰もが思うでしょう。この場合はワクチンとの因果関係はないことが言えます。一方で、ちょっと無理がありますが、例えばワクチンによって腕がパンパンに腫れあがり、手が動かなくなって運転しづらいためにハンドル操作を誤って事故を起こしてしまったとしたら、それは因果関係になり得るかもしれません。

より判断が複雑な例を挙げます。例えば、インフルエンザワクチンを打った方がいます。接種直後はなんともなかったのですが接種4日後に、高熱、ひどい咳、頭痛を発症しました。そして病院で検査した結果、インフルエンザが陽性とわかりました。この方は、インフルエンザワクチン打った”後”にインフルエンザになってしまったとひどく怒り、もうインフルエンザワクチンなんてもう打つものかとネットに書き込みました。しかし実は、この方がインフルエンザワクチンを打った前日に一緒に飲みに行った友人も同時期にインフルエンザを発症して数日寝込んでいたことがわかりました。インフルエンザワクチンの効果がでるまでには2週間ほどかかることを考えても、この方は残念ながらワクチンの効果がでるまでに本物のインフルエンザにかかってしまったのですね。つまり、ワクチンの後にインフルエンザになった(前後関係がある)からといって、ワクチンのせいではない(因果関係はない)ということです。

しかし、もしこの方が友人もインフルエンザになったことを知らずに、これはひどい副作用だといって国に報告したらどうなるでしょう?

例えば、さらに運悪く本物のインフルエンザによる脳の病気になったとして、それをワクチンのせいだと国に報告したらどうなるでしょう?

それはまず有害事象として報告に記載されることになるのです(この有害事象という言葉は次回説明します)。

まず一番大事な知識として、テレビや新聞、インターネットなどで「ワクチン打った後に〇〇〇を発症!!!」といった記事がでてきたときに、まず冷静になることが大切で「前後関係はそのまま因果関係にはつながらず」、因果関係を証明するためには「個々の事例の詳細を専門家が検討して、さらに研究や調査を進めることが必須である」ということを念頭に置いたうえで、慎重に記事などを読むことがとても重要です。

この基本知識をふまえて、次の記事で極めて重要な「有害事象」と「副反応」の用語の違いについて説明していきます。

小児感染症専門医、ワクチン学研究者

エモリー大学小児感染症科助教授。日本・米国小児科専門医。米国小児感染症専門医。富山大学医学部を卒業後、立川相互病院、国立成育医療研究センターなどを経て渡米。現在、小児感染症診療に携わる傍ら、米国立アレルギー感染症研究所が主導するワクチン治療評価部門共同研究者として新型コロナウイルスワクチンなどの臨床試験や安全性評価に従事。さらに米国疾病予防管理センター(CDC)とも連携して認可後のワクチンの安全性評価も行っている。※記事は個人としての発信であり組織を代表するものではありません。

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