余命宣告を超えて~女子プロレスラー亜利弥’が4月の引退興行を決断~
「記者会見にお越しいただき、ありがとうございます……」
そこまで言うと、女子プロレスラー亜利弥`(43)は喉を詰まらせた。「再びリングに立ちたい、闘いたい」という切実な願いが、ついに形となる。その万感がふいに込み上げてきたのだろう。1月31日、川崎市内で行なわれた引退興行開催発表会見の、冒頭のあいさつでのことだ。
着席の非礼を詫びたあと、亜利弥’は引退興行を決断した経緯を語った。
「私は、プロレスラーは闘うことを通じて表現する仕事だと考えて、プロレスや格闘技に挑戦し続けてきました。今、闘っている相手は過去最強の対戦相手で、その名はがんです。
私ががんと闘い続けるなか、多くの方から勇気をもらったと、感謝の声が届きました。その声を聞いて、最後にもう一度試合がしたいという思いが湧いてきまして、どうしても区切りが必要だと自分で思いました」
亜利弥`が専門病院で乳がん、しかも進行の度合いがステーIVであることを告げられたのは、2015年2月のことだった。乳房温存手術の後、投薬やホルモン療法を継続するも、すでにリンパ節や肺に転移していたがんの進行を抑えることはできなかった。
絶望を希望に変えることができたのは、「病と闘う人たちを少しでも勇気づけられたら」という願い、そして、20年間立ち続け、愛してやまない「リング」に復帰したいという思いがあったからだ。
2016年1月、亜利弥`は医師の反対を押し切り、自主興行を開催した。
彼女の大会主旨に賛同し、大会には男女を問わず、キャリアを問わず、多数のプロレスラーが参戦した。仲間に見守られながら亜利弥`も約10分間、「胸いっぱいのプロレス」を闘った。
自主興行から1年が経ち、この1月、亜利弥`は最後のリングに上がることを決意した。どうしても「区切り」をつけたい理由があった。
「がんと共に時間を過ごすなかで、いろいろな声を聞き、いろいろな病気と闘っている方がいらっしゃることを知りました。そういう方々と共闘しながら、お互いにエールを交換しながら、何かを発信していきたいと考えています。今まではリングの上で闘ってきましたが、今度は違う場所で闘いたい。だから、このままダラダラいくのではなく、きちんと区切りをつけたいと思いました」
自主興行以来、治療経過の参考となる腫瘍マーカーの検査値は下がり続けている。とはいえ骨に7ヵ所の転移が見られるなど、決して楽観視できる状態ではなく、引退興行への出場に関してはドクターストップがかかっているという。
「骨は再生していても、頸椎に転移があるので、その転移が(衝撃で)少しでも動けば呼吸中枢に触れてしまう。あとは肺にも転移があるので、どれだけ自分が呼吸を保てるか。でも、アクシデントを起こさないのがプロであり、プロレスラーだと思っているので、今からしっかり準備期間を設けて、ちゃんと自分の二本足でリングを下りたいです」
最後のリングを4月7日、東京・新宿フェイと決め、現在はクラウドファンディングで協賛を募っている。
がん宣告を受けたとき、「次の年の桜は見られないだろう」と医師に告げられた。遠回しの言葉は「余命1年余り」を意味していた。その1年が過ぎ、満開の桜をしっかりと目に焼き付けることができた。
余命を超えた先に新たな目標と使命を見出し、亜利弥`は3年目の春をリングで迎えようとしている。
■桜の季節の終わりに~女子プロレスラー 乳がんステージIVからの挑戦~
亜利弥’引退興行 ALIYA’ THE FINAL
〈Thank’s a million…Lots of love〉
日時:2017年4月7日(金)開場18時 試合開始19時
会場:東京・新宿FACE
問い合わせ:亜利弥’ The Final 事務局
aliya.the.final@gmail.com
070-6408-5078