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左右の”コピー戦略”で自民党は消滅する?

橘玲作家
(写真:ロイター/アフロ)

*10月6日執筆10月16日発売号に掲載された記事を、選挙結果を受けて若干加筆しました。

1週間ほど海外にいたら、民進党(衆院)が希望の党に吸収され、「選別」から落ちた議員が立憲民主党を設立して、日本の政治の景色はすっかり変わってしまいました。国内は大騒ぎですが、CNNやBBCなど海外メディアではまったく報じられていませんでした。もはや日本の政治は、国際的なニュースにはならないのでしょう。

以前、このコラムで「自民党支配を終わらせるのは小池東京都知事の“保守vs保守”戦略」と書きましたが、その小池氏が希望の党を立ち上げたことで、民進党の前原党首は、選挙での確実な敗北か、希望の党に救済してもらうかの究極の選択に立たされました。いまは強い批判にさらされていますが、あのまま民進党で選挙に挑んでもなんの可能性もなかったのですから、これは合理的な判断でしょう。

小池都知事が都議会選で自民党を圧倒したのは、安倍政権の「右」に軸足を置き、政策のちがいをほとんどなくし、「よりましな保守」をアピールしたからでした。大都市の有権者は、どちらを選んでもたいしたちがいがないのなら、自民党に投票しようとは思わないのです。

同じ戦略を今回の総選挙でも使う以上、小池都知事が民進党の“リベラル系”議員を排除したのは当然です。その結果、枝野氏を中心にリベラル政党が誕生し、民主党=民進党を悩ませてきた保守系とリベラル系の対立が解消されました。どこまで想定していたのかはわかりませんが、後世、前原氏の決断は、日本の政治地図をすっきり整理させたとして評価されるかもしれません。

希望の党の本質は「ネオリベ右派」で日本維新の会と同じですから、早晩、両者は合併することになるでしょう。小池都知事が今回の選挙に出馬しない以上、その戦略は自民党を過半数以下に追い込み、選挙後の混乱に乗じて党内の反安倍勢力と連立・合併することだったと思われます。

それでは、分裂効果で民進党時代を上回る勢いを獲得した立憲民主党はどのようなポジションをとればいいのでしょうか。

ひとつの道は、共産党と共闘する「左派ポピュリズム」路線ですが、北朝鮮からミサイルが次々と飛んでくるなかで「平和憲法護持」を唱え、きれいごとのばらまきを約束するだけなら、政権交代など夢のまた夢です。

もうひとつの道は、安倍政権の安全保障政策を踏襲し、「女性が活躍できる社会」「一億総活躍」「人づくり革命」などリベラルな政策を徹底させることです。これはいわば、希望の党とは逆に、軸足を自民党のすこし「左」に置いたコピー戦略です。

ここでのポイントは、内閣府の調査で「現在の生活に満足」とこたえたひとが7割を超え過去最高になったという事実です。ひとびとは長期政権にうんざりしていても、現状を大きく変えたいとは思っていないのです。

立憲民主党が“左からのコピー戦略”を採用すれば、日本の政治は「ネオリベ右派」と「愛国リベラル」で二分され、その中間に“イデオロギーなき”自民党が位置することになります。今回は圧勝した自民党ですが、この近未来が現実のものとなれば左右のイデオロギー政党に吸収され、いずれは消滅するとの予想を(当たらぬも八卦で)書いておきましょう。

『週刊プレイボーイ』2017年10月16日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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