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「胸触っていい?」「手縛っていい?」のあの人はサイコパス?

橘玲作家
(写真:アフロ)

森友問題で大揺れの財務省ですが、セクハラで事務次官が辞任するスキャンダルという追い打ちで信用失墜に歯止めがかからなくなりました。「胸触っていい?」「手縛っていい?」などの下品な発言がインターネットで公開され、連日ワイドショーで流されたことで安倍政権のイメージもさらに悪化しそうです。自業自得とはいえ、悲願の憲法改正はもちろん、9月の自民党総裁選での3選もあやしくなってきました。

セクハラ問題では、被害を受けた女性記者に名乗り出ることを求めた財務省の対応に批判が集まりました。とはいえ、当の事務次官が否定している以上、役所にできるのは両者の話を聞いて事実関係を調べることだけというのも確かです。

当初は風俗店の女性相手の会話ではないかとの憶測も流れましたが、テレビ局の女性記者が録音したものだということが明らかになって、事務次官が若い女性記者を頻繁にバーに呼び出し、1対1で「会話を楽しんでいた」実態が明らかになりました。「(事務次官の)人権はどうなる」とかばった麻生財務大臣の面目も丸つぶれです。

一連の経緯で不思議なのは事務次官の対応です。取材を受けた時点でなんのことかわかったはずなのに「女性記者との間でこのようなやりとりをしたことはない」と事実関係を否定したばかりか、辞任の時も「全体を見ればセクハラに該当しない」と強弁して火に油を注ぎました。

ある意味一貫したこの態度からわかるのは、「セクラハなどやっていない」と本心から思っていることと、自分の発言が世間からどのように受け取られるかをまったく理解できていないことです。これは共感能力の欠如したひとに特有の言動です。

欧米の研究では、大企業のCEOの多くはサイコパスだと指摘されています。しかしこれは犯罪者のことではなく、「知能が高く、共感能力が著しく低い」人格のことをいいます。

「賢いサイコパス」がなぜ出世するかというと、どんなときも常に合理的な決断ができるからです。大規模なリストラをしなければ会社がつぶれてしまうのに、解雇される従業員の家族の心配をしているようではまったく役に立ちません。多くの将兵の生死を預かる軍のトップと同様に、いまでは企業経営者にも極限状況での大胆さと冷酷さが求められるのです。

共感能力が欠落していれば他人の気持ちはまったくわかりませんが、「賢いサイコパス」はその高い知能を使って社会的な振る舞いを学習できます。自分の言動が相手にどのような影響を与えるかを冷静に分析すれば、組織のなかで「できる部下」や「頼りがいのある上司」を演じることは難しくないでしょう。女性との関係でも、「スケベだけど面白いおじさん」というキャラをつくることでナンパ成功率を挙げる戦略を編み出すかもしれません。

しかしこのタイプは、共感能力がないために、そのキャラを面白がる女性と、セクハラだと感じて嫌がる女性を区別できません。これでは、事態が公になってからも、何を批判されているか理解できなくても不思議はありません。

そう考えると、この奇妙な一貫性の背後にあるものが見えてくるかもしれません。

参考:ケヴィン・ダットン『サイコパス 秘められた能力』(NHK出版)

『週刊プレイボーイ』2018年5月1日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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