子どもの貧困率が減った! 何がどう変わったのか
子どもの貧困が「6人に1人」から「7人に1人」に
6月27日、厚生労働省が最新の貧困率(相対的貧困率)を発表した。
それによれば、今回(2015年段階)は、前回(2012年段階)に比べて、
全体で0.5ポイント(16.1%→15.6%)
子どもで2.4ポイント(16.3%→13.9%)
削減された。
(厚労省「平成27年国民生活基礎調査の概況」)(以下出典はすべて同じ)
相対的貧困率が減少したのは2003年以来12年ぶりで、特に子どもの削減幅は2.4ポイントと、とても大きい。
17歳以下人口は約2000万人だから、約48万人の子どもたちが、この3年間で貧困状態から脱却できたことになる。
48万人と言えば、1学年3クラス100人の小学校で800校分、静岡県や広島県の17歳以下人口を上回る数の子どもたちが、一気に貧困状態から脱した計算だ。
すばらしいことだ。
12年ぶり、実質的にははじめて
前回の減少は2003年段階だったので12年ぶりということになるが、実は当時、日本政府は貧困率を発表していなかった。
というか「日本に貧困がある」ということを認めていなかった。
1985年以来のデータは、2009年になってさかのぼって認めたものだ。
だから「以前も貧困はあったことになったのが2009年」というのが正確な表現で、もちろん2003年の減少など、当時はほとんど誰も話題にしていない。私も当時は知らなかった。
その意味では、これだけの社会的注目の中で減少が確認されるのは、実質上はじめてと言っていい。
本当に喜ばしいことだ。
すべての指標で改善
では、具体的にどこかどう改善したのか。
まず、全体や子どもだけでなく、すべての指標で改善している。
子どもがいる現役世帯(世帯主が18歳以上65歳未満で子どもがいる世帯):
2.2ポイント(15.1%→12.9%)
そのうち大人が一人の世帯(ひとり親世帯):
3.8ポイント(54.6%→50.8%)
そのうち大人が二人以上の世帯:
1.7ポイント(12.4%→10.7%)
相対的貧困率は、所得だけを見て、資産を見ない。これらの数字は、親たちの所得が増えた可能性を示している。
所得が変わらなくても、税や社会保険料が減った場合にもやはり貧困率は減少するが(「可処分所得」と言う)、この間、税や社会保険料は増えることはあっても減ることはなかったので、やはり所得が増えたと見るのが妥当だろう。
おおむね「手取り」と思えばいい。
ちなみに、子育て支援策として保育料などを減免する自治体が増えているが、保育料が減って自由に使えるお金が増えたとしても、貧困率には影響しない。
所得はどれくらい増えたのか
では、所得(正確には可処分所得)はどれくらい増えたのか。
上記「概況」では、次のように書かれている。
「子ども」(17歳以下)では60~140万円未満で低下し、200~360万未満で上昇している。「子どもがいる現役世帯で大人が一人」では60~100万円未満および120~140万未満で低下し、140~180万円未満で上昇している。
子ども自身に所得があるわけではないので、これは世帯全員の所得を一人あたりに割り戻す特殊な計算をほどこして算出している(「等価可処分所得」と言う)。
貧困率の出し方はOECD(経済協力開発機構)が共通の算出方法を使っており、それにしたがっている。そのため、各国比較ができる。
実際の世帯に復元して考えてみると、以下のようになる。
たとえば、両親に子ども1人の世帯では、年間所得103~242万円の世帯が減って、346~622万円の世帯が増えている。
母親に子ども2人の3人世帯では、103~173万円および207~242万円の世帯が減って、242~311万円の世帯が増えている。
母親に子ども1人の2人世帯だったら、84~141万円および169~197万円の世帯が減って、197~253万円で増えている。
両親に子ども1人で月収20万円以下というのは相当に厳しい生活だが、その層が減って、月収30~50万円程度の家庭が増えたことになる。
月収20万円の人がいきなり30万、50万円を稼ぐようになったわけではなく、20の家が25になり、25の家が30になり…というように、全体が押しあがった結果だと見るのが無難だろう。
他方、一人当たり140~200万円(3人世帯だと242~346万円)の層は減っていないので、均等に所得が増えているとも言い切れない。
依然として厳しいひとり親世帯
依然として厳しいのはひとり親世帯で、増えたとはいえ、2人世帯で月収16~20万円、3人世帯で月収20~25万円程度が増えただけだから、「余裕が出てきた」とは到底言えない。
ギリギリの度合いが若干和らいだという程度だし、生活実感があるかと言えば、おそらく「ない」と答える人が多数ではないだろうか。貧困ラインを若干上回っただけのギリギリのところに、依然として位置している。
ひとり親世帯の貧困率は、減ったとはいえ、依然として過半数(50.8%)。しかも貧困ラインギリギリのところに多数がへばりついている。子どものためにも、引き続き対応が検討されていく必要がある。
貧困を減らすことは可能だ
すでに多くの指摘があるように、OECD36か国の子どもの貧困率の平均は13.3%(2013年)で、日本の13.9%は依然としてそれを上回っている。「もう大丈夫」と言える数字ではない。
他方、ともすると「資本主義の社会では、貧富の差が出るのは仕方ない」とあきらめ顔で言われることが多いのを思えば、「貧困を減らすことができる、可能だ」というのは、多くの人を元気づけるメッセージにもなりえるだろう。
結果ではなく、スタート
2015年と言えば、13年に子どもの貧困対策推進法ができて、14年に政府の大綱ができ、15年に各都道府県の大綱ができたというその段階。つまり、ほとんどの対策はまだ本格的に動き出していなかった時期だ。
子どもの貧困問題に対する社会的注目も、ちょうどこのあたりから高まってきたと言えるような時期だと思う。
ひとり親世帯向けの児童扶養手当の増額がなされ、学習支援やこども食堂が広がってきたのは、すべてそれ以降の話(※注)。
その意味では、2015年というのは、子どもの貧困対策の結果を出た年というよりも、スタートを切った年というほうがふさわしい。「幸先のよいスタートが切れてよかった」というのが率直な感想だ。
依然として280万人
減ったとはいえ、13.9%といえば、依然として約280万人の子どもたちが貧困状態で暮らしていることになる。これは、東京都と千葉県の17歳以下人口すべてを足した数にほぼ相当する。
気を抜かず、しかし「やればできる」の精神で、官民こぞっての対策を進めていきたい。
※注:相対的貧困率の「限界」
無料の学習支援やこども食堂がどれだけ広がって、どれだけ充実しても、短期的には貧困率には影響しない。そこで現金を受け取るわけではないからだ。
それは、それらの対策が無意味だということを示しているのではなく、「相対的貧困率」という指標の限界を示している。
子どもの育ちに必要なのはお金だけではない。体験や時間や生活支援(トラブル対応)が等しく重要なのは、以前も指摘した(「子どもの貧困 『居場所』とは何か? 居場所が提供するもの、そして問うもの」)。
その意味で、相対的貧困率の増減は、子どもたちが健康で幸せに育っているかを全的には説明してくれない。
無料塾やこども食堂の効果が本当の意味で貧困率になって表れるのは、10年後20年後30年後、社会人になった彼ら彼女らの活躍や、その次の世代に対する接し方としてだろう(「貧困の連鎖を断ち切る」)。
長期的には大きく効いてくるが、短期的にすぐ効くわけではない。
そしてそれが「王道」だ。
相対的貧困率という指標は、経年変化(数年前に比べて増えたか減ったか)、および国際比較(他国と比べて高いか低いか)を見るのに有効な指標だ。決して無視していいわけではない。同時に、それが現実の子どもたちの姿や笑顔の意味をすべて教えてくれるわけではない。
子どもの貧困対策は、教育と同じく「国家百年の計」として取り組んでいくべき課題だ。その大前提をしっかりと押さえた上で、毎回(3年ごと)の貧困率の発表に一喜一憂したい。