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世界のゴルフ界が揺れる中、「しぶこブーム」を生んだ日本の女子ゴルフは羨望の的、その成功のカギとは?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
昨夏以降、日本の女子ゴルフは空前のブームへ。その下地はそれ以前から作られていた(写真:Motoo Naka/アフロ)

 米ゴルフ界が揺れ始めている。タイガー・ウッズのデビュー以来、この25年超の間、右肩上がりで成長してきた米PGAツアー(以下、米ツアー)の「ライバル出現か?」と、ゴルフ関係者の多くが半信半疑になっている。

 英国に拠点を置くワールド・ゴルフ・グループ(WGG)が年間15~20試合を擁する本格的な新ツアーを創設する草案を初めて発表したのは2018年5月だった。

 そのときは「机上の空論」と思われていた。だが、今年1月下旬に発表された具体案の内容は、具体的で詳細で、端々から自信めいたものさえ伝わってくる。だからこそ、大勢のゴルフ関係者が「これって現実的な話?」と感じ始めている。

 PGL(プレミアゴルフリーグ)と名付けられた新ツアーは年間18試合を開催予定で、そのうちの10試合は米国が舞台になるという。1試合の賞金総額は10ミリオン(約11億円)。つまり、昨秋に日本で開催されたZOZOチャンピオンシップ級の超高額大会ばかりが開催されることを示している。

 個人戦は3日間大会で予選カットはなし。チーム戦は世界のトッププレーヤー48名を集め、4人1組、合計12組が世界一を競い合うという構想。2022年から開始する予定とされている。

 ここまで具体的に発表され、さすがに米ツアーのジェイ・モナハン会長も何かしら言及せずにはいられない事態になった。

「我が米ツアーと直接的に対立するスケジュールと言える。こうした構想が現実になるとすれば、現在の選手たちは、我が米ツアーのメンバーであり続けるか、新ツアーでプレーするかを選ばなくてはならなくなる」

 新ツアー構想が現実になるかどうかは、まだわからない。だが、「強力なライバル出現か!?」と米ツアー関係者たちが気を引き締めている。モナハン会長が米ツアー選手たちに「両方のメンバーでいることはできない」旨を記したメモを回したという情報さえある。

 米ツアーが目覚ましい成長を遂げてきたからこそ、同じような成功を求める動きが出てきたということ。「二匹目のドジョウ」を狙う動きが起こることは、逆に言えば「一匹目」に羨望の眼差しが向けられ、追い抜こうと野望を抱く人々が出てきたことを示している。言い換えれば、それは米ツアーの成功の証でもあるのだが、そんな米ツアーでさえ、現在の成功にあぐらをかいてはいられないことが、今、現実的に示されている。

【日本の女子ツアー、羨望の的】

 日本のゴルフ界に目をやれば、近年の女子ゴルフの成長と成功は誰の目にも明らかだ。昨夏、渋野日向子が全英女子オープンを制し、日本人メジャーチャンピオンが42年ぶりに生まれたことで、女子ゴルフ人気はさらに高まり、「しぶこブーム」はとどまるところを知らない。

 だが、日本の女子ツアー(JLPGA)の拡大成長への歩みは、昨夏の渋野の全英優勝から突然始まったわけではない。もっと言えば、近年、JLPGAが自身のツアー・システムの改善改良に取り組み、選手たちにスピーディーに成長・飛躍できる環境を整えてきたからこそ、整備された舞台の上で渋野をはじめとする若き選手たちが次々に輝き始めたと言えるのだろう。

 米男子ツアーの眩しい成功を見て「二匹目のドジョウ」を狙う人々が出現しているように、日本の女子ツアーの現在の成功ぶりは、ツアー運営や人気獲得に苦戦中である欧米女子ゴルフ界、あるいはアジア諸国のゴルフ関係者からも羨望の眼差しを向けられている。「日本の女子ゴルフブームにあやかりたい」と感じている関係者は少なくないはずである。

 何が日本の女子ツアーをそれほど成長させたのか、どんな土壌が渋野をスピーディーにスターへと導いたのか。その答えは「ステップ・アップ・ツアー」だと私は思う。

【しぶこ生誕の場所!?】

 JLPGAの下部ツアーとして、ステップ・アップ・ツアーが創設されたのは1991年のこと。当初は大半が2日間競技で、ギャラリーはおらず、テレビ放送もなく、世界ランキングは対象外。「下部」という位置づけにありながら、実際には「上」へつながる道筋やサポートがあまり無い状態のまま、20年の歳月が過ぎ去っていった。

 しかし、小林浩美がLPGA会長に就任した2011年以降は、若い才能や力を効率的に伸ばし、生かすことを目指して、ステップ・アップ・ツアーが次々に改革されていった。3日間競技が増やされ、ギャラリーを受け入れ、2012年には「全大会CS生放送」が実現された。

 そして2017年には世界ランキングの対象となるための条件である「3日間競技を年間10試合以上」をついに満たし、「上」にそびえるJLPGAのレギュラーツアーや世界の舞台と数字(ランキング)の上で連結された。その年、年間試合数は21試合まで増加した。

 翌2018年、まだJLPGAの正式な会員ではなかった渋野は「単年登録者」というステータスでステップ・アップ・ツアーに挑み始め、途中7月にプロテストに合格してJLPGA入会。同年、彼女はステップ・アップ・ツアー16試合に挑み、ギャラリーやテレビカメラの前で順位や賞金を懸けて戦うことを存分に経験。賞金ランキング10位になり、世界ランキングでは559位という数字が付与された。

 そして渋野は2019年からレギュラーツアーで戦い始め、新人にして早々に2勝を挙げた後、全英女子オープンに初挑戦にして初優勝。さらには9月に4勝目を達成。スピーディーな歩みを可能ならしめた背景には、彼女がステップ・アップ・ツアーで積んだ経験があった。

 

 さらに言えば、渋野には故郷の岡山で開催されるステップ・アップ・ツアー「山陽レディースカップ」に中学1年から3年連続で出場したケイコンもある。ギャラリーの前でプレーする緊張感や醍醐味、興奮や楽しさを味わい、彼女はそのとき「プロを目指そうと思った」そうだ。

 その意味で、ステップ・アップ・ツアーは渋野のプロゴルファー魂が芽生え、土台が培われた場所であり、「スーパースターしぶこ生誕の場所」でもある。そして、渋野のみならず、黄金世代、プラチナ世代をはじめとする輝ける女子選手たちを生み出し、日本の女子ゴルフブームを日々盛り上げている。

 2018年にステップ・アップ・ツアーで賞金1位になった河本結は「ステップでの1年は本当に私を成長させてくれた」と今でも感謝している。「下部ツアーであっても試合に出ていることでプロゴルファーの価値を見い出せるようになった」と実感を込める選手もいる。逆に「上」のレギュラーツアーから落ちてきた選手は「ステップのレベルや環境が(以前と)明らかに変わっていてびっくり。以前は得ても意味が無いように思っていたが、レギュラーツアーに戻るために研鑽したい」

 男女を問わず、世界のゴルフ界が揺れ動く昨今、JLPGAのステップ・アップ・ツアーは、渋野をはじめとするスター選手を生み出し、さらなる未来のスターを生み出そうとしている。

 ツアーの成長と成功を望むなら「まず、下部ツアー改革から始めよ」――そんな声が聞こえてくる。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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