ソニー反撃の狼煙。「One Sony」を具体化した一連の商品を発表
ソニーはドイツ・ベルリンで開催されるエレクトロニクス商品の展示会「IFA」に先立って、新型スマートフォン「Xperia Z1」およびスマートフォンと組み合わせて使うことを前提にした新型デジタルカメラを発表した。
それぞれの商品も興味深い特徴を持つが、昨年、ソニー社長兼CEOに就任した平井一夫体制における「One Sony」というコンセプトの元に企画された第一世代製品という意味でも注目される。簡単に各製品を紹介した上で、ソニーが意図する「One Sony」コンセプトについてお伝えしたい。
”ソニーだけの”を実現するためのOne Sony
一連の新商品を見て感じたことがある。それはソニーだけの独自性をグループ全体の力を集約させ、どう商品に活かすのか。その考え方を徹底して見直す。そうした一連の考え方が浸透し、製品の中に一端を垣間見えるようになってきたことだ。
ベルリンで開催中のIFAで発表された商品の中で、もっとも力が入っているのはAndroidスマートフォンの「Xperia Z1」と、スマートフォンと連動するデジタルカメラ「CyberShot QXシリーズ」だ。両者ともソニー・モバイル・コミュニケーションのグローバルサイトにニュースリリースが掲載されている。
また、やや時間をおいてXperia Z1のニュースリリースについては、日本語抄訳もこちらに掲載されるので、英語が不得手な方はこちらをチェックして欲しい。(9月5日0時ぐらいには掲載される見込みだ)
Xperia Z1
Xperia Z1は日本での発売も予定されているグローバル仕様のスマートフォンで、アルミ削り出しのフレームとガラスを組み合わせた外装となっている。Xperia Zを踏襲する概観であるが、外周部はつなぎ目のない一体化されたアルミフレームとなっており、ガラスの前面、背面とも相まって高い質感を実現している。カラーはブラック、ホワイト、パープルでXperia Zを踏襲している。
また防水性能を向上させつつ(IPX5/8、IPX5Xに対応)、イヤホン出力端子がそのまま外に露出する設計となっている点にも注目したい。防水性とイヤホン出力端子の使い勝手の両立は、これまでのスマートフォンにはなかった特徴だ。
2.2GHzのクアッドコアプロセッサを持つクァルコムのSnapdragon 800の採用、Android 4.2.2搭載なども魅力だが、こうした最新部品はいずれ他メーカーも採用する。より進んだソニー独自のエンターテインメント系アプリや、それらアプリと組み合わせるソニーユニークのデバイス、ソフトウェアの組み合わせといった、”ハードウェア設計とソフトウェアが交錯する部分”に、より力が入れられている。
サイズに関しては数値を見てほしいが、3000mAhという大容量バッテリと単体のコンパクトデジタルカメラでも使われる1/2.3インチ裏面照射CMOSイメージセンサーを搭載することで大きくなった。しかし、”サイズ感”としてはXperia Zがそのまま縦に伸びた感覚で、筐体下面から液晶画面までの距離が揃えられているため、Xperia Zからそのまま持ち替えても違和感なく使えた。
さて、このXperia Z1。最大の特徴は前述した1/2.3インチの裏面照射CMOSイメージセンサーとF2.0と明るく、35ミリフィルム換算で27ミリと広角なソニーGレンズ(かつてαとともにミノルタから受け継いだ高品位レンズブランド)である。総画素は2070万画素にも達する。
このセンサーにはサイズが大きいこと以外にも特徴がある。昨年、発表されていた映像処理回路を積層したCMOSセンサーとなっており、この中に映像処理回路が組み込まれている。センサーの総画素は約2000万だが、センサー組み込みの映像処理回路を通すことで記録画素数は800万に留める。処理はセンサー組み込みのものとAndroid内のソフトウェアによる実装の組み合わせで実装されている。この結果、ISO6400まで上がる高感度性能をスマートフォンで実現した。
単に高感度にするだけならば、画素数を減らせばいいのでは?と考えるかもしれない。しかし、薄型のスマートフォンでズームレンズを組み込むわけにはいかない。とりわけZ1は27ミリ相当の広角レンズ(iPhoneは33ミリ相当)のため、高いズーム性能が求められる。約2000万の画素は電子ズームで利用されており、ズーム位置によって切り出す画素範囲を動的に変え、さらに超解像技術を組み合わせることで高品位な3倍ズームを実現した。
これらカメラ機能は、Xperia開発部隊がソニー本体と合流したことで実現されており、Z1のカメラ部に関してもCyberShotの開発から移籍したエンジニアが担当するなど、相互のノウハウを活かす形で作られている。
それは、たとえば「おまかせオート」や、手ぶれを防ぐ被写体の動き検出機能(移動体に対してはシャッタースピードを上げるなど)など、カメラアプリの機能にも反映されている。Z1では、このカメラ性能を活かすために、Facebookへの動画生中継が行える「Social live」、動画撮影を静止画のパッケージとして保存する「Timeshift burst(レリーズ前後の30枚を含む一連のフレームを保存する静止画撮影機能)」などの派生機能にも反映されている。
さらに、テレビ技術からはトリルミナスが取り入れられた。これはLEDバックライト採用液晶の色純度を高めるためのデバイス技術で、ブラビアの上位モデルですでに採用されているものだ。これに超解像技術のX-Realityをモバイル向けにチューニングすることで、高品位な映像表示を可能にしている。
モバイル系デバイスの場合、こうした広色域ディスプレイがきちんと使いこなされていないものが多く、単に派手なだけで写真や映像を愉しむには向いていないものも多いが、本機のディスプレイはきちんと絵作りが行われていた。
個人的には、ここにS-Master MXやデジタルノイズキャンセリングなど、Walkmanで培ったパーソナルオーディオ機能も盛り込んで欲しかったが、そこまで第一世代で求めるのは少々酷だろうか。とはいえ、ソニーという大企業に内在するさまざまな壁を打ち破って作られていることを実感する製品にはなっている。
Z1が発表された現地では、実際の製品サンプルも用意されていたため、実際のカメラ画質などに関しては、別途レポートすることにしたいが、9月14日まで待てば、銀座ソニービル8階OPUSにて「Xperia Z1 Japan Premiere」が開催され、Z1とその周辺デバイスのタッチ&トライイベントが開催される予定だ。
CyberShot QXシリーズ
CyberShot QXシリーズは、スマートフォンと組み合わせて使うことを前提とした、新しいスタイルのデジタルカメラだ。
スマートフォンとはWiFiで接続(ペアリング時にはNFCを活用することもできる)。新バージョンのPlay Memoriesアプリ(AndroidとiOSに対応)がQXシリーズのファインダー&ユーザーインターフェイス代わりにして撮影できるという製品だ。スマートフォンに取り付けるためのユニバーサルアタッチメントでスマートフォンと一体化できる他、Xperia Z、Z1にはQXシリーズを取り付ける溝が切られた専用ケースも発売される。
撮影した電子写真は、そのまま内蔵メモリスロットの媒体(Micro SDカードとメモリスティック・マイクロの両互換スロット)に記録されると同時に、スマートフォンにも転送される。サイズ無変換で転送することも可能だが、デフォルトではカメラ内で200万画素まで縮小して転送される。
上位モデルのDSC-QX100は、高級コンパクトカメラとして人気のDSC-RX100 IIと同一センサー、同一映像処理、同一レンズユニットを採用しており、基本的な画質は同じと考えていい。1インチ2020万画素に、ツァイス銘の28-100ミリ相当の光学手ぶれ補正付きズームレンズの組み合わせは定評のあるところ。詳細はニュースリリースをご覧になってほしいが、RX100シリーズの特徴であるコントロールリングなども装備している。
下位モデルのDSC-QX10は1/2.3インチ裏面照射CMOSセンサー採用。Z1と同じサイズだが、こちらは1810万画素に光学手ぶれ補正付き10倍ズーム(25-250ミリ相当)を組み合わせつつ、薄型・軽量を実現した。
レンズのみを切り出したようなデザインが特徴だが、実のところ内蔵ストロボやファインダー機能を除くと、すべて本体内で完結するように設計されている。ズームレバー、レリーズボタン、電源スイッチなどが配置されており、そのまま電源をオンにしてレリーズすれば写真撮影することも可能だ。
それぞれのカメラとしての画質・性能はベースとなっている最新のCyberShotとほぼ同一だが、機能的な面ではWiFi接続のスマホ連動であるが故の制約もある。連写、ピクチャーエフェクト、ビューティーエフェクト、パノラマ撮影、電子水準器などの機能は、QXシリーズでは提供されない。
実際に使って見ると、カメラの電源を入れ、NFCで相互を認識してアプリが起動され、WiFiで接続されるまでに若干の時間がかかること。接続後のファインダー像が乱れることがある、などの気になる部分もあったが、本機の特徴、良さを理解して使うのであれば、かなり面白い素材だと感じた。
より詳細な使い勝手に関しては、こちらも追ってお伝えしたい。なお、無線LANを活用したカメラ連携のAPIは公開され、自由にアプリとして実装できる。他のソニー製のカメラとも同じ手順が共有される。
”間に合う?”、”間に合わない?”、見え始めた”One Sony”の反撃基盤
これらの製品だけで、すべてを判断するのは危険だが、一連の製品発表で新しいソニーの経営陣がやろうとしていることが、まだ完全な形とは言えないものの全体像が見え始めているとは言える。
ストリンガー時代は「Sony United」を掲げ、音楽や映画とソニーのエレクトロニクス製品を統合し、グループ全体の価値を高めていく戦略を打ち出したが、エレクトロニクス部門内の個々の製品分野に関して、具体的な指示やビジョンを示したとは言えず、最終的なシナジーを生み出すことはあまりできなかった。
しかし、今回の「One Sony」コンセプトは、具体的な商品の形やアプリケーション、目標としているビジョンが明確化されている点で大きく異なる。経営陣が実際に販売している商品やサービスに対して、かなり直接的に関わっていることを示しているのだろう。スマートフォン分野にフォーカスを当て、今年のコンシューマ商品・サービス開発を行っていくと経営方針説明会で話していた平井社長の言葉が、かなり具体化してきたという印象だ。ソニーは4K映像技術、ハイレゾオーディオ、それにプレイステーションなども統合し、ソニーが提供できる価値を一つにまとめ上げて行く。
一方、すでに先進国でのスマートフォン需要は一巡し、新興国でも市場の成熟化が一気に進もうとしている時期ではある。やっと反撃体制が整ってきたものの、今から反撃しても利益貢献やブランド力向上につながるのか?という疑問も当然あると思う。
しかし、一方でスマートフォンという、新しい世代の”パーソナルなコンピュータ”が普及・成熟すれば、今度はスマートフォンを基盤とした周辺ビジネスが栄えてくる。QXシリーズなどは、まさにそうした部分を狙うための実験的要素が強い製品だ。
たとえ成熟期に入りつつあるとしても、ここでスマートフォン市場で一定以上の存在感を示すことは重要だ。スマートフォンとつながることで価値を見いだす、新しいアイディアの製品を、ソニーは今後も用意しているようだ。
昨年、同じIFAでソニー幹部にインタビューをしたとき「思い描くシナリオはある。しかし、そのための基盤になる端末のインストールベースがない。サムスンははるか先に行ってしまった。まずはその背中が見えるところまで追いつくこと。そこまで行けば、思い描くシナリオを提案する余地が出てくる」と話していた。
今回のIFAで、One Sony戦略が進捗が明らかになったことで、1月のCESには次の一歩を踏み出せるだろう。まだ来年を気にするには早い時期でも、手応えを口にする時期でもないだろう。しかし、来年以降の復活に向けての足がかりを掴みつつある、とは言えるだろう。