<写真報告>これは奴隷労働ではないのか? 2 「言うこと聞かぬ者は強制労働」という金正恩氏の政策
承前)農場で強制労働させられている「職場離脱者」について書き進めたい。彼らは、国家によって決められた職場を無断で離れた罰として、協同農場で重労働を強いられている。北朝鮮北部地域のある協同農場の近くに住む複数の取材協力者が伝えてきた。この6月の話である。
前回の記事:<写真報告>これは奴隷制ではないのか? 「農村支援」という名の強制労働
◆「職場離脱者狩り」
今、北朝鮮では「200日戦闘」と農村支援が同時に行われている。
北朝鮮における「○○日戦闘」とは、重要な政治行事の前後に行われる短期集中の増産運動のことで、目標の超過達成、早期達成を企業所間、職場間で競わせる扇動カンパニア(政治闘争)だ。幹部たちはノルマ達成のために職場に泊まり込み、労働者も超過勤務が当たり前になる。街中には「○○日戦闘の最前線へ」などのスローガンが溢れる。
去る5月に36年ぶりに開催された労働党大会に合わせて「70日戦闘」が行われた。全国の職場では毎日出勤チェックが行われ、「職場離脱者狩り」といった様相を呈していた。
参考記事:<北朝鮮内部>「70日戦闘」の実態 職場離脱者に強制労働 銀行貯金を強要
「(出勤しても)やる仕事もないのに、『70日戦闘』期間中は、保安員(警察官)たちが毎日のように家々を回っては『無職者』と『無断欠勤者』を見つけ出して『労働鍛練隊』に送っていた」
と、北部地域に住む取材協力者は振り返る(※無職者は職場の籍自体を無くした者)。
そして、「70日戦闘」が終ったのも束の間、6月に入ってすぐ始まったのが「200日戦闘」だ。息つく間もなく、「職場離脱者狩り」は続いており、拘束された人々が農村に連行されて行っている。
参考記事:<写真報告>平壌でも農作業、道路工事、クズ鉄集めなどに動員
◆強制動員で衰弱する者が続出
ある協同農場の近くに住む取材協力者は、彼らの悲惨な境遇を次のように伝えてきた。
「協同農場に送られてきた『職場離脱者』たちは、天幕で寝泊まりしながら日中は草刈りなどの農作業をさせられている。彼らの監視は、本来は警察の仕事なのだが、除隊軍人の党員たちにやらせている。軍隊式に中隊、小隊に編成し、1人でも逃走するとその隊全体が罰を受ける仕組みになっているため、逃げる者はほとんどいないようだ。作業の能率を上げるため、小隊別に競争をさせて負けた小隊には追加の作業をさせている」。
互いに牽制、競争させるやり方によって、草刈りなどの重労働の作業がはかどったため、受け入れた協同農場では強制動員を重宝しているという。その「成果」に気を良くした咸鏡北道の行政府は、捕えた「職場離脱者」の農村への動員を拡大させる方針なのだという。胸が痛む話だ。
働かされている「職場離脱者」たちは大丈夫なのだろうか?
「過重労働をさせているため衰弱する者が続出している。また農場近くの地区では物盗りが横行し、農場員たちは『昼は仕事をしてくれるからいいが、夜は怖い』と言っている」
と取材協力者は言う。食事が足りず盗みに走る者が出ているのだ。
今回、詳細を伝えてくれた協力者は、強制動員された「職場離脱者」たちの悲惨を日々目にしている。現地の空気を次のように伝える。
「農場で強制労働させられるぐらいなら死んだほうがましだ。周囲の人間で職場を離脱している者は、恐ろしくて警察に賄賂を渡して取り締まりを避けたり、慌てて企業に籍を作る手続きをしている」
「『職場離脱』を放置すると人民統制が揺らぐ」。金正恩政権はそう考えているのだろう。「言うことを聞かない者は容赦しない」という鉄拳統治が、金正恩政権発足以来の一貫した対処法だ。
隣国で現実に起こっている「奴隷労働」は、政権の政策と制度によって生み出されている。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮内に投入し連絡を知り合っている。
参考記事:<北朝鮮に出現した労働市場と自由労働者 「失業のない国」の正体>
参考記事:<写真報告>肉体労働で日銭を稼ぐ女性たち