Yahoo!ニュース

「在日朝鮮人女性ら数人を公開処刑」北朝鮮、風紀びん乱の"罪"で

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

韓国の北朝鮮向けのラジオ局・自由北韓放送は2011年9月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)で起きた事件について報じた。

同放送によれば、元在日朝鮮人の帰国者と思われる女性が数人、逮捕された。その容疑は、自宅で集まって「ある行為」を行っていたというものだった。つまり、レズビアンだったということだ。裁判にかけられた彼女らは、「日本で知った腐った病気の資本主義思想に染まり、風紀紊乱行為を行った」として、公開処刑されてしまったという。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

「北朝鮮のようにするのか」

ロシアの最高裁判所は昨年11月、LGBT(性的マイノリティ)の権利を訴える国際的な市民運動を「過激派」と見なし、活動を禁ずる判断を下した。それに先立つ2022年12月、LGBTに関する情報の拡散、宣伝、デモなどを禁ずる「同性愛宣伝禁止法」が成立した。

LGBTの人権活動や国際団体との協力はもちろん、バーの利用、営業なども禁じられた。そればかりか、今年2月には、ロシア中部のニジニー・ノヴゴロドで、虹色のイヤリングを付けていただけの女性が逮捕される事件も起きている。

そんな流れに抗う人もいる。

アレクサンドル・ヒンシテイン下院議員は先月27日、Gazeta.ru紙とのインタビューで、次のように述べた。

「外見に関する限り、北朝鮮のように男性のヘアスタイルを公認するようなことをすべきではない。大の大人が唇に色を塗り、爪を伸ばしたいと思えば、誰もそれを禁じることはできない」

極端な抑圧的国家、パターナリズムの例として挙げられがちな北朝鮮だが、韓国風のヘアスタイルを取り締まったりしている。しかし、そんな北朝鮮には、特定の性的指向を抑圧する法律は存在しないのだ。

性的マイノリティへの人権侵害を全く行っていないはずなのに、抑圧の象徴にされるとは理不尽だ。そう思う向きもいるかもしれないが、それは正確でない。

法による支配が徹底せず、権力者の「お気持ち」次第で、国民のクビが飛ぶのが北朝鮮だ。性的マイノリティは、資本主義文化に染まった不純分子、異色分子として、社会から抹殺されている。

北朝鮮の咸鏡北道出身の脱北者、キム・ドンナムさんは、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューでこのように答えている。

「誰かが男性が好きだと言えば、精神がおかしくなった人扱いされます。北朝鮮ではそのような人は49号対象者と言われます」

この49号とは、精神病院の閉鎖病棟を指す。大抵は山奥にあり、生きて退院できる人は1割に過ぎないと言われている。

なお、ヨーロッパのニュース専門テレビ局・ユーロニュースは、匿名の情報筋の話として、米国の極右とロシア正教会が共同で、反LGBTアクティビストへの資金提供を強化していると報じた。また、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)は、スラップ訴訟やフェイクニュースの拡散、ヨーロッパの人権機関への要員潜入などを行っている。

同様の流れはアフリカでも広がっている。ガーナ議会は2月28日、「性的人権と家族の価値に関する法律」を成立させた。同国には、英国植民地時代から同性愛を違法とする刑法が存在したが、今回の法律は処罰の対象をより拡大し、人権活動に携わった者は、最高で5年の懲役刑に処されるというものとなった。

Intelのグローバル規制部門ヴァイス・プレジデントを務めるグレッグ・スレーター氏と、その妻のシャロン・スレーター氏が創設したキリスト教系団体、ファミリー・ウォッチ・インターナショナルが、これらの法案の作成に関わっていたとCNNや英ガーディアンが報じている。

キリスト教を極度に嫌い、信者を処刑している北朝鮮と、米国キリスト教系極右団体は、性的マイノリティのイシューにおいては、同じゴールを目指していると言っても過言ではだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事