仏選挙で極右が圧勝。でも英国はジェレミー・コービン労働党が白星
パリの同時テロを受け、フランス地域圏議会選で極右政党の国民戦線(FN)が歴史的勝利を収めたそうだが、英国では、シリアへの空爆拡大が下院で可決された2日後に、「強硬左派」ジェレミー・コービン党首が率いる労働党が白星をあげた。
コービンが労働党首となって最初の補欠選挙となったオールダム・ウエスト・アンド・ロイトンの選挙で、苦戦するという予想を覆して労働党候補者が圧勝したのだ。
空爆拡大の是非を問う下院採決では、60名を超す労働党議員が党首に従わず空爆拡大賛成派に回り、労働党はいよいよ分裂かと取り沙汰されていた。特に、影の外相ヒラリー・ベンが、イラク戦争開戦前夜のトニー・ブレアの演説のコピーのようなアゲアゲ系スピーチで「ファシストと戦うのが英国のトラディション」などとぶち上げて大絶賛されたものだから、「コービン体制は終わる」「ヒラリー・ベンが新党首か」と囁かれ始めていた。
が、そのわずか2日後、オールダム・ウエスト・アンド・ロイトン補欠選で、大方の予想を覆して圧勝した若き労働党議員の肩を抱き、コービンは晴れやかに笑っていた。
どうもコービンには、意外と不死身なところがある。
労働党内のブレア派はこの補欠選では労働党は苦戦すると主張し、候補者はブレア派のシンパだったにも関わらずサポートに力を入れず、その一方で右翼政党UKIPが不気味に支持を伸ばしていると言われていた。が、蓋を開けてみれば労働党の候補が62%の票を獲得し、UKIPの候補者に1万票以上の差を付けて快勝している。
コービンについて最近強く思うのは、メディアや識者や議員たちが語っていることと、地べたの人々が語っていることが極端に剥離しているということだ。
メディアは相変わらず一貫して彼を攻撃(あるいは笑い者に)しているし、労働党御用達ガーディアンでさえ「コービンでは次の総選挙に勝てない」という苛立ちを露わにしたコービン批判記事が多く、一番中立の立場でコービンに有利な記事も掲載しているのは無党派紙インディペンデントという状況だ。
だが、メディア関係者でも国会議員でもない一般の市民は、上のほうが大騒ぎしているほどコービンに失望していないのではないかと思う。一般にコービンの支持者は大学生が多いと言われているが、補欠選前に「オールダムにどれだけ大学生がいるか示してやろうじゃないか」という現地民のツイートがウケていたのを見てもわかるように(左派ライター、オーウェン・ジョーンズがリツイートしていた)、学生だけで62%の票を獲得したとは考えにくい。どうもコービンに関する限り、メディアで伝えられていることとリアルな人々の認識のチグハグさを感じる。
チグハグといえば、右派紙デイリー・メールのベテラン・コラムニストたちがコービン支持に回っているのも面白い。前回のピーター・ヒッチェンズに続き、もう一人の大物保守論客、ピーター・オボーンまで「シリア空爆採決の真の勝者は、キャメロン首相でもヒラリー・ベンでもなく、ジェレミー・コービンだった」と12月5日付のコラムで書いている。
保守派のオボーンは当然ながらコービン支持者たちの暴走の問題や、労働党の内紛にも触れている。
一方、UKIPの党首ナイジェル・ファラージは、補欠選でUKIPが大敗したのは、地元の移民たちが票をブロックしたからだと主張し、「投票に不正があった」「こんな結果はおかし過ぎる」と言いだしていて、この往生際の悪さもすでに伝統芸になっている。例によって白人の労働者階級層の票を狙っていたUKIPは、選挙カーで「ホワイト・クリスマス」をかけて街を回っていたというまるでコメディのような話も報道されていた。
フランスの国民戦線についてはよく知らないが、英国のUKIPに限って言えば、この右翼政党は労働者階級の人々の知性というものをなめ切っていて、それが確実に党の衰退に繋がっている。
とは言え、ほんの1年前や2年前にはこうしたやり方のUKIPが英国政界の脅威と呼ばれるほど躍進し、オールダム地区でも5月の総選挙でUKIPが健闘したからこそ今回の補欠選挙でも「不気味」などと言われていたのだ。
どうやらメディアや識者がラウドに大騒ぎしている間に、ジェレミー・コービンが静かに、そして着実に下側に理性を呼び戻している。