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「視察団は信頼できない」が71% 韓国の福島原発処理水視察を巡る韓国メディアの論調と世論調査結果

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
福島原発処理水海洋放流に反対する韓国・巨済島の島民(JPニュース提供)

 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を検証する韓国政府の視察団が6日間の視察を終え、5月26日に帰国した。

 韓国政府は視察団の検証結果とIAEA(国際原子力機関)の最終調査結果を待って、放流の賛否を表明するものと思われるが、国際基準による検証、即ちIAEA(国際原子力機関)によって安全性が科学的に確認されれば、容認する方向だ。

 この問題での尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の最大課題は国民をいかに説得するかにある。長引けば、来年4月の総選挙(国会議員選挙)に影響を及ぼしかねないだけに尹政権は今後、「安心・安全キャンペーン」を展開し、放流に反対している野党や市民団体の動きを封じ込め、年内までに早期終結させる考えのようだ。

 世論調査をみると、現状では韓国の国民の多くは放流に反対しており、韓国視察団の調査にも懐疑的である。最新の世論調査結果を2件挙げてみる。

 1件は 社会・公共調査機関の「エムフレイン・パブリック」と統計を専門とする調査会社「Kスタート」、それに世論調査会社「コリアリサーチ」と「韓国リサーチ」の4社が合同で全国の成人男女約1千人を対象に22~24日にかけて行った世論調査結果(5月25日発表)である。

 ずばり、韓国政府の視察団派遣については53%が「役立たない」と回答し、「役に立つ」の40%を上回る結果となった。

 もう1件は、経済専門マルチメディアである「ニューストマト」が世論調査専門機関の「メディアトマト」に委託し、5月22~24日にかけて全国成人男女約1千人を対象に行った世論調査(26日 発表)で、以下の2点について質していた。

 ▲視察団は信頼できるか

 「信頼できる」・・・・・・34.2%

  (「とても信頼できる」12.2%「ある程度信頼できる」22・0%)

 「信頼できない」・・・・・71.7%

  (「全く信頼できない」44.4%「およそ信頼できない」17.3%)

 ▲汚染水が放流した場合の水産物の消費について

 「消費を減らす」・・・・・64.2%

 「変わらない」・・・・・・26.2%

 「消費を増やす」・・・・・・4.8%

 この調査では60代を除く全世代で調査団を「信頼できない」とする回答が多かった。特に20代と40代では70%に達していた。保守地盤の慶尚道でも半数以上が「信頼できない」と回答していた。

 この2件の世論調査の他にも環境団体「環境運動連合」などが世論調査を実施していたが、当然のごとく処理水の海洋放流には85.4%が反対の意思を表明していた。政府にとっては厳しい結果となっている。

 では、メディは調査団の視察をどのように受け止めたのか、3紙が社説で取り上げていたので、それぞれの主張を見てみる。

 「韓国日報」の社説の見出しは「帰国した日本汚染水視察団、国民の不安に透明性をもって答よ」となっているが、内容はどちらかと言うと、政府寄りである。

 「視察団は不信を解消するためにも視察結果を迅速に説明する必要性がある。遅れれば遅れるほど『怪談』だけが量産され、国民の不安は大きくなる。政治圏も『汚染水を飲んでみろ』など反日を扇動するような政争にとどまっている場合ではない。視察団が汚染水海洋投棄に免罪符を与えてはならないが、政治圏が国民の不信を政治的に利用するならば逆風を避けられないであろう。日本も汚染水放流は30年間継続してきた問題であるがゆえに国際基準とは別途に隣接国である韓国の立場が重要であることを認識すべきである。日本が水産物輸入の解除に言及することは国内の批判世論だけを刺激するだけだ」

 経済紙「韓国経済」は視察団の派遣を全面的に支持しており、放流に反対している野党に対しては「福島汚染水で恐怖を助長する野党 国民は馬鹿ではない」の見出しでも明らかなように厳しい論調となっている。

 「多核種除去設備(ALPS)を通した汚染水は海に放流されれば、トリチウムの濃度が自然の状態と同じか、むしろましになるだけでなく、体内には入っても10日すれば排出されるので安全であるというのが大方の専門家の意見だ。加えて、汚染水が海流に乗って太平洋を回って我が国の海域に来るまでは4~5年かかるので安全には何の問題もない。従って、日本の説明どおりALPSと処理過程に異常がないのか確認することが重要なのに野党は無条件『信じられない』と『怪談』の類のような話を広めている。政府は福島水産物は国民の安全と憂慮が解消されるまでは絶対に輸入しないと何度も明らかにしている。汚染水放流はIAEAの検証結果と我が視察団の点検結果をみてから論じるのが順序である。狂牛病事態やTHAAD(週末高高度防衛ミサイル)怪談のような同じようなやり方で(国民を)騙せると思ったら大きな勘違いである。国民は馬鹿ではない」

 もう1紙は「京郷新聞」だが、同紙は政府に批判的な論調で知られており、今回も「見学に終わった汚染水視察 水産物輸入再開の名分を与えてはならない」との見出しを掲げ、以下のように政府の姿勢を追及していた。

 「与党(国民の力)は視察団が出発する前から汚染水放流を巡る合理的憂慮を『怪談』と批判していた。政府与党のこうした態度が視察団の調査結果と発表に影響を及ぼすのではと憂慮している。視察団団長は『データー分析には時間がかかる』と述べている。IAEAが放流を承認し、韓国はその後に発表することで責任を回避しようとしているとの話もある。そうなれば、2013年から維持してきた福島周辺8県の水産物輸入全面禁止を維持するのは難しくなる。結論が出る前から日本の政府関係者は『輸入制限解除もお願いしたい』と言っている。視察団の訪問が汚染水放流に対する免罪符を与えるだけでなく、水産物輸入再開のための要式行為になるのではと疑わざるを得ない。尹政権は今回の視察で汚染水問題を終わらせてはならないし、国民の憂慮を払拭するため追加措置を取る必要がある。国民の健康と安全を守る点では与野党はない。不必要な攻防を控え、科学的態度で解決策を探すべきだ」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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