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熟練のテイクオフ!ハリルホジッチと新たな日本代表、ロシアへ向けて――

川端康生フリーライター

7ゴールで2連勝

これ以上ないほどの発進となった。

ハリルホジッチ監督と日本代表である。

チュニジア、ウズベキスタンに連勝。2試合で奪った得点は「7」、失ったのは勝敗が決した後の「1」のみ。

最高の結果で新体制のスタートを飾った。

結果だけではない。ゲームの中身にも見応えがあった。

初陣となったチュニジア戦。キックオフから川又が相手ボールを猛然と追いかけた。

そして攻撃。奪ったボールを、縦へ、相手ゴールへ向かって進める。

激しく速いサッカー。立ち上がりの数分間で、新たな指揮官のスタイルは明確に示された。

縦に速く、球際が激しいからスリリング。スタンドは当然、沸き上がった。その上、ゴールラッシュである。

ファンの心を鷲づかみにするお披露目シリーズでもあった。

「縦の意識」と「ハイテンポ」

もちろん「スタイル」がそのまま「ゴール」と「勝利」にすんなり結びついたわけではない。

チュニジア戦では、立ち上がりのラッシュをかけた時間帯には得点を奪えなかった。

ダイレクトプレーの意識が強すぎたのか、ゲームのテンポが上がり過ぎ、むしろ単発な攻撃を繰り返すようになっていった。

ゴールが生まれたのは、後半になって本田、香川、岡崎らが投入され、これまでの日本代表が得意としてきた細かなパス交換でリズムを整え直してからだ。

いわば「縦」の“さじ加減”――その調整ができる選手たちによって、もたらされたゴールと勝利だった。

それまでは(立ち上がりを除けば)互角の展開だったと言っていい。

一方、この「立ち上がり」に青山のミドルシュートで先制点を奪えたウズベキスタン戦では、リードを奪った後は中盤に守備ブロックを敷き、カウンターを狙う戦い方に切り換わったように見えた。

ピッチには「チュニジア戦の後半のメンバー」がいたから、その変化が「選手たちの資質」によるものなのか、「指揮官の指示」によるものなのかはわからないが、そんな落ち着いた戦い方の中から、カウンターで追加点を重ねていった。

このゲームでも初戦同様、互角、あるいは相手に優位に立たれる時間帯もあったが、それでも先制点を奪い、きっちり追加点を決めて突き放した試合運びは理想的。

文句のつけようのない完勝だった。

「観察」と「勝利」を両立

選手交代も見事だった。

GKを除くフィールドプレーヤー27人を全員起用。「多くの選手を観察したい」という狙いを実行しつつ、「必ず勝つ」というノルマも果たした。

「観察」に関して言えば、ピッチに送り出した選手たちは個性を発揮し、伸び伸びとプレーしていた。それぞれのストロング、ウィーク両面を新監督は把握できたはずだ。

もちろん試合だけでなく、トレーニング、食事などの日常でも選手を十分に観察していたことは想像に難くない。

短いセッションではあったが、ハリルホジッチ監督にとっては日本人選手を知り、チームを掌握する手応えをつかめたファーストコンタクトだったに違いない。

そんなふうに全選手を起用しながら、同時に「必勝」のための采配も振るった。

ウズベキスタン戦後半で、今野に代えて水本を投入した場面。システムを変更するのか(3バック?)、他の選手を動かすのか(アギーレ時代なら森重を上げる?)、多くの目が注がれたあのシーンで、なんと水本をそのままボランチに配置。折しも2トップで圧力を強めてきたウズベキスタンの攻撃を、CBと水本で封じて、カウンターへの布石としたのだ。

それが、その後のゴールラッシュに結びついたことは言うまでもない。

水本のボランチ起用が、彼の資質を見抜いてのものなのか、単純にベンチメンバーの顔触れによるものなのかは現時点では判断が難しいが、選手(水本)の特徴をつかんでいたからこそできた起用だったことは確か。

いずれにしても「観察」と「勝利」を両立させた采配は見事なものだった。

卓越した人心掌握、熟練のチーム操縦

それにしてもハリルホジッチ監督。ここまでの仕事ぶりはパーフェクトである。

就任会見、選手発表会見での発言や振る舞いも完ぺき。試合後の記者会見の言動もやはり完ぺき。

フランス語なので、どうしても「トルシエ」を思い起こしてしまいがちだが、そのコメントは鋭く自己主張も強いが、決して選手や協会やメディアを貶めることはないし、自らの手柄を誇ることもない。

言うべきことは言うが、リスペクトを欠かさず、協調性も漂わせる、そんな物腰は日本人にとっても受け容れやすいものだ。少なくともトルシエのようにアレルギー反応を起こすような類ではない。

来日からわずか2週間。

しかも急きょオファーを受け、急きょ就任が決まったにもかかわらず、「日本人選手」はもちろん、日本サッカーについても十分すぎるほど理解している(ここで言う日本サッカーとは、「日本協会」であり、「日本メディア」であり、「日本サポーター」という意味である)。

そして、コミュニケーターとして、ネゴシエーターとして、そしてもちろんトレーナーとしての卓越したスキルを生かして、チームを掌握し、協会やメディアの信任を獲得し、ファンの共感も得て、最高のスタートを切ることに成功したのである。

その背景に、異国・異文化での仕事を円滑に進めるための知見と経験があることは言うまでもない。

振り返ってみれば、メンバー発表で「遠藤」に言及した時点で、すでに見事だった。

長年、日本代表の常連として実力・人気を誇ってきた彼を外すのは、あらゆる意味で容易ではなかった。しかし同時に、ロシア・ワールドカップを見据えれば、どこかで必要な決断ではあった。

それをハリルホジッチは、新外国人監督ならではのクールさで断行するのではなく、言葉を尽くすことで(選外にしたにもかかわらず、わざわざ敬意と賞賛を口にすることで)、極めてすんなりの実現してしまったのだ。

しかも、この2試合で披露された新たなサッカーに遠藤がマッチするかと言えば……。

自らのスタイルに「合わない中心選手」の外し方として、これほど見事な手腕はめったにお目にかかれない。

一切の波風を立てず、それも来日直後の外国人監督が、である。

熟練のパイロットに操縦桿を握られて、新たな日本代表のロシアへの旅が始まった。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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