「女性が輝く社会」はまず官公庁から
中国の戦国時代、燕(えん)の国の王様から「賢者を部下にするにはどうすればいいか」と問われた郭隗(かくかい)は、「それならまず私に高給を払ってください」といいました。「私のようなつまらない人物を重用したという噂が広まれば、全国から賢者が我も我もと集まってくるでしょう」
これが「隗より始めよ」という諺の由来で、いささか虫がよすぎる気もしますが、「大事を成し遂げるにはまず自分から始めなければならない」という意味で使います。
世界男女平等ランキングで日本が142カ国中104位と最底辺に位置することに衝撃を受けた安倍政権は、「女性が輝く社会」を掲げ、大臣にも積極的に女性を登用しています。女性政治家の人材プールが貧しいなかで無理な人選を行なったために不祥事が続出しましたが、「やらないよりはマシ」との意見ももっともです。隗より始めなければ、女性が活躍できる社会を誰も本気でつくろうとは思わないでしょう。
とはいえ、日本の国会に占める女性議員の割合は8%程度とOECD加盟国ではぶっちぎりの最下位で、全国の地方議会のうち「女性ゼロ」が2割超もあるのですから、道のりは遠いといわざるを得ません。
政治家と並んで隗より始めなければならないのが公務員です。幹部候補の国家公務員を「キャリア」と呼びますが、その女性比率が急上昇して、2015年度採用では34.3%と3人に1人になりました。安倍政権の意向を受けて各省があわてて女性の採用を増やしたためですが、政府はさらに、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を3割に高める目標を掲げています。これは民間企業にも求められていますから、真っ先に隗とならなければならいのは企業を指導する厚生労働省でしょう。
厚労省は唯一、女性の事務次官を出すなど、女性活用では優等生のようですが、組織図を見るかぎり現状は惨憺たる有様です。室長クラス以上のおよそ350人の幹部のうち女性は20数名しかおらず、それも雇用関係など一部の部署に偏っています。また20ある局長・部長クラスのポストで女性は1人だけで、このままではあと5年で管理職3割などとうてい無理でしょう。
民間企業に政府が目標を課す以上、官公庁の女性活用はノルマとすべきです。厚労省の場合、あと5年で女性管理職を80人増やさなくてはならないのですから、1年あたり最低16名の女性を室長以上に任命する必要があります。どんなことをしてでもこのノルマを達成するよう厳命すれば、子どものいる女性職員が昇進をためらう深夜の“超長時間サービス残業”などの悪弊は抜本的に改められるでしょう。これならブラック企業を堂々と指導・監督できるようになります。
「政府は問題を解決できない。政府こそが問題なのだ」と宣言したレーガン政権は、非効率な行政組織にメスを入れ、公務員の大量解雇に踏み切りました。これを見た民間企業も争って人員整理を行なうようになり、アメリカの硬直した雇用慣行は大きく変わりました。
官公庁がまず隗より始めれば、国辱的なまでに男女が不平等な日本の社会・組織にも変化が生まれるにちがいありません。
『週刊プレイボーイ』2015年6月15日発売号
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