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豪州相手に大きな勝利。森保ジャパンのターニングポイントになるか

川端康生フリーライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

勝利は合理的な結果

 展開的には「薄氷の勝利」に見えないこともなかったが、内容的には「2対1」は合理的なリザルトだろう。

 立ち上がりから主体的にゲームを進めたのは日本だった。

 この試合で採用した3枚の中盤が攻守両面で奏功。相手にスペースを与えず、パスコースも潰し、しかも田中と守田がサイドをカバーすることで、酒井、長友が高い位置にポジションをとることができた。

 しかも遠藤も含めた3人は前への意欲が旺盛で、アタックに厚みと流動性ももたらす。

 そんな立ち位置で先手を取り、展開もスムーズな状況で、伊東と南野の個性も生きた。

 開始直後に伊東が相手DFを置き去りにしたシーンに象徴されるように、相手はミスマッチに苦しみ(スピードだけでなく、キレがまったく違った)、日本は主導権を握って気持ちよくゲームを進めることできた。

 8分の先制点も、オーストラリア側から見れば後手の連続。長友から南野に通された時点でフリー。慌てて南野に寄せたが、取り切れず、今度は逆サイドに空きスペース。南野のキックが足に当たり、ボールの方向がわずかに変わった不運はあったとはいえ、完全に崩されていた。

 攻めている日本目線で言えば、南野がライン間にうまくポジションをとり、受けてターンしてドリブル、併せてDFが寄せてきたところで、止まって(溜めて)逆サイドを見たら広大なスペースが空いていた。という注文通りの形。

 もちろん南野と田中の戦術眼とスキルの高さがあるからこそ。その意味でも日本のストロングポイントが発揮されたゴールであり、それが発揮できる状況が作れていたということだ(田中のファーストタッチは本当に素晴らしかった!)。

 その後、試合はやや膠着(したかのようにも見えたが)、これも日本がコントロールしていたと思う。

 前からプレスをかけるか、リトリートするか。

 先制したことで後者を選択することが増えたからだ。

 それでも攻め手がないオーストラリアが詰まったところを、ハーフライン付近で引っかけて何度か効果的なショートカウンターを繰り出していた。リードしている側としてセオリー通りの戦いぶりを日本は見せていた。

説明不能な何かも…

 大きなピンチは2度。前半終了間際と後半69分の失点シーンだ(むしろ前半の方が決定的だった)。

 どちらも日本の左サイドを走られた。長友の裏、守田がカバーするはずのエリア。前半はシュートがポストに当たって助かったが、後半は(はじめPK判定)FKを決められ失点した。

 似たような形でピンチを招いたことは反省材料だろう。失点シーンに関して言えば、疲れも出る時間帯で、すでに間延びしかけていて、プレスもかかっていなかった。

 最終ラインも押し上げられていないそんな状況で、守田は敵陣まで進出し、長友が振り切られ……。

 リードしていたことを思えば、もう少しリスクマネジメントの意識が欲しかった。

 これで1対1。残りは約20分。あそこでアーノルド監督は「引き分けでもいい」と考えたのではないか。

 オーストラリアからみれば劣勢のゲームだった。それを見事なフリーキックで追いつけた。そもそもアウェイ。おまけに、すでに3勝も挙げている。

勝ち点「1」でも十分。そう判断するのが妥当なシチュエーションだった。

 その後の選手交代もそんなふうに見えた。

 一方、日本は「絶対に負けられない戦い」だった。

 ここまで1勝2敗。とはいえ、最終予選10試合のうち、まだ3試合しか終わっていないのだから、実は「崖っぷち」ではない(しかも「加茂解任」の時とは出場枠が違い、2位以内で出場権、3位でもプレーオフ)。

 でも「森保解任」はトレンドワードになり、悲観的で批判的な世論が沸騰している。引き分けでは許されそうもない……それがこの試合を迎える時点でのムードだった。

 監督や選手たちにかかるプレッシャーは相当だっただろう。

 最後、勝ち越せたのはそんな世論へのリバウンドだったと思う。

個人のスキル、チームの戦術、監督の采配など、勝敗を分ける要素はいくつかあるが、そんな合理的に説明できることとは別の何か。それも逆風下だからこそ発生する説明不能なエネルギー。そんな何かも作用するのがサッカーだ。

 吉田からのロングボール、浅野のファーストタッチ、左足シュート……。

 スコアラーが浅野であれ、南野であれ、相手DFであれ、そんなことはどうでもいい。とにかく、勝ちたい。この試合、何が何でも勝ちたい。

 浅野の左足から放たれたシュートが、GKの手を弾き、宙に浮かんでいるコンマ何秒の間、ボールの行方を決めたのはそんな何かだった気がする。

 そしてボールはマウスに転がり込み、日本は2対1で勝利した。

冷静と情熱の間で

 これで2勝2敗になった。

 僕自身はサウジに負けたときにも、さほど(というか、まったく)絶望感も悲壮感もなかった。

 この最終予選は(有体に言ってしまえば)日本とオーストラリアとサウジの3チームの争い。つまり、このうち2チームが出場権をつかみ、3番目になったところがプレーオフに回る。そういう戦いなのだ。

 言い換えれば、この3チームが互いに「勝ったり」「負けたり」「引き分けたり」するのは戦前から予想されていたことだった。

 だから、日本がアウェイでサウジに負けたのも、ホームでオーストラリアに勝ったのも想定の範囲内。慌てたり、大喜びしたりするほどのことではない。

 無論、オマーンに(しかもホームで)負けたことは想定外だったが、オーストラリアやサウジだって、この先取りこぼすこともある。少なくとも致命的な失態ではまだない。

 とにかく、10試合を終えたときに上位2チーム(か3番目)にいるかどうか。最終予選とはそんな戦いなのだ。

 もちろん一喜一憂するのはサッカーの楽しみだし、ファンの権利でもあるが、だからと言って絶望感を募らせることはないし、乱暴な言葉を投げつけるのは安直すぎる(だから監督を代えなくていいというわけではない。それはまた別の話)。

 いずれにしても、この勝利で潮目が変わりそうな気もする。

 世論も少しは落ち着くだろうし、サポーターたちは冷静さを、選手や監督は自信を取り戻すはずだ。

 そして何より――逆風が強ければ強いほど組織は団結し、外部からの批判に晒されれば晒されるほど絆は固くなり、その末に勝利をつかめば、それはさらに……。

 森保ジャパンのターニングポイントになるかもしれない。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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