日銀が追加緩和できないジレンマ
6月12日、13日に開かれる日銀の金融政策決定会合では、現状の金融政策の維持を決定すると予想されている。ECBは6月5日の政策理事会で追加緩和パッケージを発表した。6月17日、18日のFOMCでは毎月の米国とMBSの購入額を450億ドルから350億ドルに減額することを決定すると予想される。しかし、日銀は動かないというか動けない。
日銀の追加緩和については特に株式市場や為替市場にその期待はあり、7月の追加緩和観測も強かったが、どうやらその観測は10月あたりに後退した。しかし、10月の追加緩和観測も可能性としては極めて低いと見ている。そもそも日銀は追加緩和を行うことが出来ない状態にあるとも言える。
むろん、追加緩和をやろうと思えばやれるであろうが、それによって日銀の金融政策に対するイメージが大きく変化することが予想され、2013年4月の異次元緩和の異次元が通常次元に戻される可能性がある。
仮に10月に追加緩和を行うとすれば何が理由になろうか。一番に想定されるのは、2%の物価目標の道筋に変化をきたした場合となる。日銀の異次元緩和の異次元なところは、とにかく物価を上げることが最重要であり、極論すれば雇用を含めての景気回復などは二の次となる。物価さえ上がれば、すべてうまく行くとの考え方がリフレと呼ばれるものの発想の根幹にある。
その物価については、いまのところ市場の予想に反し、日銀の期待通りの動きをしている。4月のコアCPIは消費増税の影響を除いて前年比プラス1.5%となっている。異次元緩和から1年経過し、目標まであと0.5%の位置にいる。
福井総裁時代に量的緩和を解除した際には、コアCPIのゼロ近傍が解除条件となっていた。白川総裁時代の2012年2月に物価安定の目途としたのはコアCPIの1%であった。そこを何なくクリアーしている。異次元緩和は予想以上に物価を上昇させた、と結果から見れば見て取れる。ユーロ圏の物価などから見ても優等生的な位置にいる。
今後は円安による影響も剥落し、物価の上昇は抑えられようが、1%台での推移が続く限りは、物価目標に届く届かないと言う議論はさておき、2%にさせるためとの理由で日銀が追加緩和に動くことは考えづらい。
ほかの要因としては消費増税の影響による景気後退、急激な円高や株安などの要因も考えられる。消費増税による景気減速についてはハードデータも出てきているが、いまのところ思っていたほどの落ち込みではないと見て良いのではなかろうか。また、新たな金融ショックなどによる円高・株安の可能性もむろんゼロではないが、いまはその気配はない。
仮に景気の減速や円高・株安で日銀が追加緩和に追い込まれたとして、何ができるのか。技術的にはさらなる国債の買入も可能性としてはある。国債買入を含めての時間軸の延長などもある。国債以外の資産買入の増額等も可能性としてはあるが、いずれにしてもインパクトのあるものは出せない。
すでに現在の日銀は金融政策を小出しにして市場心理を中心に微調整を行うという政策をいったん放棄している。しかし、インパクトのある政策は何度も繰り出せない。そのジレンマはあるものの、これまで外部環境の好転がそのジレンマを覆い隠している。
以上のような理由から、よほどのことが発生しない限り、日銀は金融政策を動かすことは考えづらい。物価が現状水準を維持している限り、政策変更は考えづらいのである。