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男でも女でもないワタシ「自分の力で社会は変えられる」22歳、ホンネの音楽

中村真夕映画監督・ジャーナリスト

Karen(山口佳恋)さん(22歳)は、Xジェンダーのシンガーソングライター。「Xジェンダー」とは、男性か女性、どちらか一方に限定しない性別の立場を取る人たちを指す。「Non-binary Gender(ノンバイナリージェンダー)」ともいわれる。「周りの人に言えない思いを唯一表現できる手段が、曲を書くことだった」。Karenさんは、Xジェンダーであることを公表し、音楽活動をしたいという。背景にある高校時代の出来事と今の思いとは。

【「2人の子どもが恋に落ちているだけなのに」】

「中学校か、高校の初めの頃だったか、『佳恋ってトイレ行かないよね』と友達に言われました。トイレに行くたびに自分の中でモヤモヤがあった。女と男という区別が当たり前で、どちらかを選ばなければいけないと考えていました」

Karenさんは、二人姉妹の次女として東京に生まれた。父の仕事の都合で小学校にあがるまでイギリスで過ごし、その後、日本の小中学校に通う。子どもの頃からスカートを履くのが嫌だった。中学校の時、自分が女の子を好きなことに気づく。

幼い頃から音楽が好きで、独学でギターを学び、曲を書き始めた。「周りの人に言えない思いを唯一表現できる手段が、曲を書くことだった」とKarenさんは語る。

15歳で初めて書いた曲が「Hideaway」だ。

『People say staying in love is hard
人は愛し続けることは難しいと言う
But it’s harder when they don’t know what we are, are
みんなが私たちが何なのかを知らないとき、それはもっと難しい
Sneaking round people sneaking round town, sneaking round all the people that don’t understand what we are
いつも理解してくれない人の周りや街でこそこそしないといけない
Just two kids falling in love
2人の子どもが恋に落ちているだけなのに』

中一の時に初めて好きな人ができた。同じクラスの女の子だ。仲良しで思いも伝えたが、その時、彼女には恋人がいて、つきあうことはできなかった。せつない思いを誰に相談することもできず、そんな気持ちを歌にした。初恋の女性との許されない恋。別れないといけないなら、2人で隠れ家に逃げ出そうと歌った。

「当時、自分はトランスジェンダーなのかなと思っていたんです。子どもの頃から男の洋服が好きでしたし、自分は男になりたいのかと思った。でも、そうではないという気持ちが強くなっていった」

好きになるのはいつも女性。女としての意識はないからレズビアンではない。でも男になりたいわけでもないから、トランスジェンダーでもない。「自分はいったい何なのか?」。調べていくうちに、悩んだ末、一番しっくりきたのが「ノンバイナリージェンダー」だった。

「男でもない女でもない私。それが自分だ」とはっきり分かった。自覚することで、自分に自信が持てるようになった。

【自分の力で社会は変えられる】

高校で、女子はスカートの制服を着なければならなかった。

「スカートの制服を着ている時は、いつもの自分とは違うという感じでした。男性の制服と女性の制服、自分で選んでいいんじゃないか。友達が署名活動を提案してくれ、『私たちは選択制がいいと思います』とたくさんの人にメールを送りました」

選択制は実現した。 周りの友人たちにも自分がゲイ であることを伝えることができた。卒業後も母校の制服は選択制で、授業でもLGBTQについて教えるようになっている。

「自分の力で社会が変えられるんだと初めて手応えを感じた」

高校卒業後は、アメリカの名門音楽大学・バークリーに進学した。

「日本にいる時は、アメリカは自由の国だから、アメリカに移住して自由に生きたいと思っていた。実際に行ってみると、差別があった」

黒人が白人警官によって不当な扱いを受けて、射殺される事件が多発していた。ジェンダーの差別だけでなく、あらゆる差別をなくしたいと思い、Black Lives Matterの活動にも参加し始めた。

差別に反対する発信を続けるなか、「自分のホーム(故郷)でやっていない。日本でこそ、こういうことが必要なんじゃないか」と思い始める。そして、1年ほど前にアメリカの大学を休学し、日本に帰国。音楽活動をしながら、Black Lives Matterにも関わり、資料を日本語に翻訳したりしている。

友人のミュージシャンたちとコラボして、Instagramで曲を発表し、ファンも増えた。Karenさんが18歳の時に出会ったシンガーソングライターの田中桜さん(27歳)とは、何度もコラボしてきた。桜さんはこう言う。

「Karenは、他の人が目を背けようとしている問題に向き合って、それを社会に発信していこうという、強い意志と行動力がある。誰にでも真似できることじゃない」

現在、Karenさんはデモのレコーディングをしたり、地道に配信ライブを行ったりしている。代表曲「Hideaway」を聞いて、自分もゲイ だがカムアウトできずに悩んでいる人たちから、勇気づけられたとメッセージをもらった。

「自分が声をあげることで、勇気づけられる人たちがいる。だから自分のアイデンティーを明確にしてデビューしたい。いろんな人に知ってもらって、社会が優しくなればいいなと思っています」

クレジット

プロデューサー:井手まりこ
編集:永野ヘンリ(NOMAD)
撮影協力:ワールドアパート有限会社

映画監督・ジャーナリスト

ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。2006年、高良健吾の映画デビュー作「ハリヨの夏」で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。2011年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画「孤独なツバメたち〜デカセギの子どもに生まれて〜」を監督。2014年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」を監督。2015年モントリオール世界映画祭に招待され、全国公開される。右翼活動家・鈴木邦男を追ったドキュメンタリー映画が来年劇場公開予定。

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