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危険ドラッグ問題を解決するもうひとつの方法

橘玲作家

脱法ハーブによる暴走運転が社会問題になったことで、「危険ドラッグ」に名前が変わりました。厚生労働省は、アンケート調査などをもとに、危険ドラッグの使用者を40万人と推定しています。

危険ドラッグはなぜこれほど蔓延するのでしょうか。

私的行為に刑罰を課すのは国家による暴力の行使なので、法治国家ではその要件が法によって厳しく定められています(罪刑法定主義)。ところが技術の進歩によって、化学構造の一部を変えることで、麻薬と同様の効果を持ちながら法では規制されないドラッグをつくることが可能になりました。

危険ドラッグで逮捕された業者は、住宅街にプレハブ小屋を借り、主婦などを雇って、中国から輸入した原料に植物片を混ぜて「ハーブ」として販売していました。原料の入手元さえ確保できればかんたんに製造でき、「飛ぶように売れて金銭感覚がおかしくなる」ほど儲かったそうです。

ドラッグが裏社会の大きなビジネスになるのは、国家が違法とすることで、まともな業者が市場から排除されるからです。その結果、刑務所に行くことを恐れない一部のひとたちが市場を占拠し、法外な利益を手にすることになります。

生命にかかわるような毒物をきびしく規制するのは当然ですが、すべてのドラッグを禁止すればいいというわけではありません。ドラッグを合法化して法の管理の下に置けば、利潤を求めて多くの企業が参入し、非合法な業者をすべて淘汰してしまうでしょう。そのうえドラッグの製造・販売から得る利益に課税できるのですから一石二鳥です。

これはべつに荒唐無稽なことをいっているのではありません。アルコールは意識の変容を起こす典型的なドラッグで、イスラム圏では禁止されていますが、日本を含む先進諸国は合法化しています。その結果、毎年のように飲酒運転の悲惨な事故が起きますが、これは社会的コストとして許容されているのです。

大麻はオランダで合法化されており、ヨーロッパ諸国でも個人使用には罰則を科さないところが大半です。アメリカでは医療用大麻の合法化が進んでいるほか、2012年の住民投票でワシントン州とコロラド州で大麻の私的使用が合法化されました。連邦法では大麻を禁止していますが、ニューヨークタイムズは、法律を撤廃して各州の判断に任せるべきだとの社説を掲げています。「大麻はアルコールやタバコより中毒・依存症の健康被害が少ない」というのがその理由です。

日本では危険ドラッグが大麻の代替品として使用されています。若者に広がる薬物のなかには、シンナーのように脳に損傷を与えるものもあります。合法化で大麻が安価に提供されるようになれば、これらのドラッグの使用は大きく減るでしょう。

大麻禁止の根拠は、「覚醒剤などハードドラッグの入口になる」というものです。今後、アメリカやヨーロッパで大麻が解禁されていけば、こうした主張が正しいかどうか、科学的(統計学的)に検証できるでしょう。

日本では、なにか問題が起こると、すぐに国家による規制を強化しようとします。ときには別の発想をしてみてはどうでしょうか。

『週刊プレイボーイ』2014年8月11日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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