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新ルール下で混沌とする米ゴルフ界、今こそ「ゴルフの精神」を見つめ直すべし

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
新ルールに対する批判を続けていたJ・トーマス。ついにUSGAから応酬された!?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 プロゴルファーとしての強さと上手さのみならず、スタイリッシュな服装と茶目っ気たっぷりな人柄も手伝い、かつての米国ゴルフ界で最大人気を誇っていたペイン・スチュワート(故人)は、当時、「最もルールに精通している選手」とも言われていた。

 だが、そんなスチュワートは、いや、「そんなスチュワートだったからこそ」なのだろう。1998年の全米オープンの優勝争いの真っ只中でルール委員からスロープレーの警告を“耳打ち”された瞬間、彼はそれを無言で重く受け止め、動揺し、勝利を逃した。

 

 ゴルフにおいてルールは絶対で、ルール委員の言葉や裁定も絶対だった。だから選手は何も言えないし、何も言わないし、解釈に対して反論することはあっても、声を荒げて批判することは、まずなかった。

 それは昔の話?その通り、まさに90年代の昔の話である。現代は、ゴルフ界に限らず、どんなフィールドにおいても、意見があれば、誰もが声を大にできる主張の時代だ。

 米ゴルフ界でも、たくさんの声が飛び交い続けている。そして、今年になって次々に上がっている声の多くは、昔の時代には「絶対」だったゴルフルールへの批判だ。

【カッコよくあってほしい】

 今年1月から新しいゴルフルールが施行され、すぐさまキャディのラインアップに関するルール違反問題が米欧両ツアーで起こったことは、すでにお伝えたした通りである。

https://news.yahoo.co.jp/byline/funakoshisonoko/20190203-00113492/

 新ルールが定めたこの新たな規定は、欧米両ツアーに騒動を巻き起こし、これに関してはルールをつかさどるUSGA(全米ゴルフ協会)とR&A(ロイヤル&エインシャント・ゴルフクラブ・オブ・セント・アンドリュース)から解釈と適用の仕方を若干修正する声明が出されたことで収束していった。

 だが、今度は欧州ツアーで勝利を挙げたブライソン・デシャンボー(米)や米ツアーで勝利したJB・ホームズ(米)が、せっかく優勝したにも関わらず、他選手たちから「スロープレーがひどすぎる」と激しく批判された。とりわけ、温厚だと思われていたブルックス・ケプカ(米)やアダム・スコット(豪)が怒声に近い声を上げたことは、周囲にとっても、ファンにとっても、驚きだった。

 3月に入ると、アメリカの国民的人気を誇るリッキー・ファウラーが新ルール批判の先頭に立つ形になった。

 メキシコ選手権の際、新ルールに従って膝の高さからボールをドロップ(ニー・ドロップ)すべきところを、従来のルール通り、肩の高さからドロップし、1罰打を科せられたファウラーは、翌週のホンダクラシック初日、わざと膝を折り曲げ、不格好な姿勢でドロップして見せ、その奇妙な場面の動画は「正しいドロップ方法」と銘打たれてSNS上に出回った。

「アスリートは子供たちの憧れとしてカッコよくあるべき。選手を格好悪く見せるニー・ドロップに変えた新ルールはおかしい」

 ケプカやジャスティン・トーマス(米)らも「新ルールはひどいルールだ」と声を大にした。

 同じくホンダクラシックの初日、アレックス・チェイカというドイツ出身の選手は、新ルールで禁じられたサイズのグリーンブック(グリーンを読むためのアンチョコ的なブック)を使用していると指摘され、ラウンド途中で失格になった。

 同3日目には、米国人選手のアダム・シェンクが2日目のラウンド中にキャディがラインアップしていたと指摘され、前日のスコアに2罰打が加えられた。

 2011年のマスターズ・チャンプ、南アのチャール・シュワーツェルは、スロープレーの警告や計測の仕方を巡り、乗用カート上のルール委員に詰め寄って、怒声を浴びせた。ケプカやスコット同様、やはり穏やかな人柄で知られていたシュワーツェルが、怖い形相で声を荒げていた姿は、少なくとも「カッコいいアスリート」ではなかった。

【手本であってほしい】

 複雑で難解だった従来のゴルフルールを改良し、「シンプルに、わかりやすくする」こと、そして「スロープレーを改善、撲滅する」ことが、新ルールへ変更する本来の目的だった。

 しかし、新ルールが施行されてからのゴルフ界は混沌としている。それは、新しいモノゴトの始まりに付きまとう「生みの苦しみ」なのかもしれない。施行直後の混乱や騒動は、ある程度は不可避なのかもしれない。高額賞金や高いポイントがかかっているのだから、選手たちが上げる声の激しさは、現実の厳しさの反映なのだと思う。

 だが、彼らが今、上げている声からは、ゴルフルールやルール委員に対するリスペクトのようなものが伝わってきていない。その現状を、どこか物悲しく感じているのは私だけではないはずだ。

 新ルールの改善すべき点を指摘することは必要であり、そのための意見を主張することは悪いわけではない。だが、その指摘の仕方、声の上げ方の中にも、ルールやルール委員に対するリスペクトは維持すべきであろう。

 「この点をこう改善したらいいのでは?」という提案なら、前進が期待できる。しかし、現状のように、ルール違反が起こるたびに「ひどい」「バカげている」と一方的に批判するだけでは、騒動は広がるばかりだ。わざと不格好な仕草でドロップして見せたファウラーの行為は、少なくとも子供たちへの手本にはなりえない。

 新ルールに対する批判を最も激しくツイートしていたトーマスに対し、しびれを切らしたUSGAは、ついに反撃に出た。

「ジャスティン、話し合いが必要です。アナタはこれまで私たちが提案したミーティングをすべてキャンセルしましたが、今、再びこうして呼びかけています。私たちは昨年も、今年の最初の5試合の会場でも待機していました。アナタは米ツアーにおいて7年間、話し合いのテーブルに着くことができたはずですし、今もそのチャンスはある。ご連絡ください」

 声を荒げず、理路整然と反撃に出たUSGAの姿勢は、誰が見てもトーマスより一枚も二枚も上手だった。

 ルールを重んじ、自分で自分を律するのがゴルフの精神である。そして、常に相手をリスペクトする姿勢がゴルファーには必要である。その根本が揺るいでしまわないよう、誰もが自分自身を見つめ直すべきではないだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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