銅価格の高騰で5円硬貨の材料時価が5円に迫る。円安が進むようだと素材価値が円の価値を上回る可能性も
ウクライナ危機と円安によって円建て銅価格の高騰に拍車がかかり、一時、5円玉の材料の時価がその額面の84%になった(22日付日本経済新聞)。
アジア時間3月7日の午前の時間外取引で、ロシア産原油の禁輸観測などから銅の国際価格の指標となるロンドン金属取引所(LME)の銅3か月物が一時1トン1万835ドルまで値上がりし、過去最高値を更新した。
世界的に電気自動車や送配電の電線などの需要が伸びているところに、ロシアによるウクライナ侵攻がさらに銅の価格を引き上げることになった。
ロシアは欧州有数の銅生産国であり、世界生産の約4%を占める。米政権がロシア産原油の禁輸を同盟国と検討していると報じられたことで、ロシア産の供給懸念が浮上した。さらにエネルギー価格上昇が製錬コストなどを押し上げるとの不安が広がった。
この銅価格の上昇を受けて、群馬など4県で太陽光発電所などでの銅線ケーブル窃盗事件も発生していた。窃盗の疑いで容疑者4人を摘発し、窃盗事件210件(被害総額約1億882万円)を送検して捜査を終結したと発表した(10日付上毛新聞)。
5円玉は銅と亜鉛の合金である「黄銅」でできている。重さ3.75グラムの60~70%が銅なので、銅は平均して2.44グラム含有されている(22日付日本経済新聞)。
ドル円が130円付近まで上昇し、JX金属が発表する国内相対取引の目安となる銅建値は4月下旬に1トン137万円と過去最高値を更新した。従来の最高値は2021年10月と22年4月の134万円。
これらを5円玉の材料原価に当てはめると銅が3.34円、亜鉛が0.86円となり、額面5円の84%に達した。銅だけで試算すると、足元で1トン123万円まで下げた国内の銅建値が再び67%上昇して同205万円を上回れば額面を超えることになる(22日付日本経済新聞)。
よほどのことがない限りは、銅価格の上昇によって、5円玉の材料の原価が5円を超えることはないようだ。ただし、為替がさらに円安に振れれば、高値を更新していく可能性はありうる。
財務省は「現在製造している貨幣については、素材価値が円の価値を上回った事例はない」としている。ただし、過去にはその危機が存在していた。
銀貨が流通していた戦前、銀の価値が額面を超え、溶かして地金にする「鋳つぶし」の危険が生じた。このため1906年、20銭銀貨と50銭銀貨の銀含有量を減らした。現在の1円玉は戦後の1948年に採用した黄銅の1円玉から材料を切り替えたものだ(22日付日本経済新聞)。
また、貨幣(硬貨)を故意に損傷したり鋳つぶしたりすると、貨幣損傷等取締法により罰せられることにも注意したい。