あなたも騙されている、ネットに翻弄される人々
今年はじめ、ツイッターで「明治大学がスイスフラン高騰による為替取引で144億円の損失を出した」というデマが流れ、それがさらにインターネットのまとめサイトなどのブログ等に掲載され、明治大学自体がすぐに「事実でない」という発表を行いました。ある投資関係の掲示板での無責任ないたずらのような投稿が発端で、投稿者自身、「冗談のつもりで投稿した、こんなに大きな話題になると思わなかった」と反省の書き込みが投稿されています。多くの人が真実であると信じたことによって広く拡散した一例です。まったくありそうもない話題であれば急に広まる事はないのです。十人のうち数人でも疑問に思えるような投稿であれば、拡散させないばかりか、ニュースソース(投稿元)を確かめて、真偽も確認し、逆に「デマではないか」との投稿があり、拡散する事はほとんどないのです。しかし、今回のようにほとんどの人が騙される場合があるのです。それはそのデマが真実であるように裏付ける事実がある場合です。今回の件では、私立大学の株式投資等での資産運用が話題になっていた事実が背景にありました。
同じ頃に、「群馬県のJR高崎駅構内の店舗で刃物を持った男が無差別に切り掛かり、一人が心肺停止、さらに店舗に立てこもっている模様」というデマが流れました。これは伝言ゲームのように、内容がどんどん大きくなってしまった典型的な例です。最初は駅に救急車両や警察車両が多数集結しているという投稿が投げられました。「何が起こっている?」という多数の問い合わせとともに、高崎駅の周辺にいるという人たちが様々な書き込みを行い、「殺人事件が発生したようだ」とか「犯人が立てこもっている」、さらに「一人が心肺停止のようだ」という内容に膨れ上がったのです。男が駅の近くの飲食店で単独自殺を図ったことが事実であり、まとめサイトが早々にできるなどして、結果的に多くの人が騙される事になりました。
これらのように、事実でない情報が結果的に広まって、多くの人が騙され、混乱に結びつく事になるのです。しかし、騙される側に問題がある場合もあります。正確には記事を投稿した側には騙す意図がない場合です。いわゆる実際の事件や事案をパロディやジョークとして掲載しているサイトです。例えば、最近の食品での異物混入事件を題材にして、「酢豚にパイナップルが入っていた」という内容が、さも事件であるようにブログ等のサイトに書かれたことがありました。地方によってはパイナップルが酢豚に入ることもあれば、まったく入る事に想像が付かない地方もあるのです。想像も付かない地方の一部で、現実に異物として捉えられ、異物混入事件と思い込んでしまった人も少なくなかったようです。
インターネットに流れている情報は少なくともすべて事実というわけではありません。知人や友達が引用しているからといって事実とは限りません。自分で真偽を判断することが必要です。そのためにも、記事については、ニュースソースを確認し、日頃から判断する能力を養わなければならないのです。
本記事は、ZAQ森井教授のインターネットセキュリティ講座「第48回 ネットに騙される人々」を加筆修正したものである。