14歳「隠れ韓流ファン」が人民裁判で問われた罪と罰
北朝鮮の恵山(ヘサン)市で今月3日、大規模な住民暴露会が開かれ、14歳の中学生を含む17人が吊るし上げられたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。彼らが問われた罪は、韓流ドラマや映画をこっそり視聴し、映像ソフトを流布したというものだ。北朝鮮当局はこれまで、拷問などの手段も動員しながら韓流の拡散を取り締まってきた。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
最近でこそ、そのような極端な手段を用いることは減っているとされるが、依然として韓流を目の敵にしていることがわかる。
住民暴露会は、いわゆる「人民裁判」の一種だ。役場の前や学校の運動場に舞台を設置。当局の意に沿わない言動を見せた人々をそこに上がらせ、他の住民たちに糾弾するよう強要するのだ。ほかに住民総会と呼ばれるものもあり、こちらは終了後に司法機関が容疑者を逮捕する。
住民暴露会は、逮捕するほどでもない軽微な「過ち」を対象としたものだされていたが、今回は様相が異なり、17人は保安署(警察署)に連行されたもようだ。「地元の住民たちは、6カ月から2年の労働鍛練刑(懲役)に処せられるものと見ている」と情報筋は語る。
住民暴露会は、金日成・正日時代にも同様のことが行われていたが、金正恩時代に入り頻度が増加。小学生から老人まで、あらゆる人々が糾弾の対象にされるようになったという。
恵山では、2年前にも大規模な住民総会が行われ、薬物使用の容疑者4人と賭博容疑者4人、売春の容疑者1人の計9人が吊るし上げられた。いずれも、金正恩氏が神経を尖らせているとされる違法行為の容疑者たちである。
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北朝鮮ではかつて、金正恩氏の祖父である金日成主席が、政敵を掃滅することに血道を上げた。ソ連派や延安派などのライバルたちを、党の公式会議の場で「反党反革命分子」「宗派分子」と決めつけて排撃。治安機関に一族郎党を逮捕させ、文字通り社会から消し去った。
その息子の金正日総書記が権力を実質的に継承した1980年代までには、彼の政敵となり得る勢力はいなくなっていた。それに替わり、当局の警戒対象となったのが国民の「心」だ。東欧社会主義圏で起きた政変の影響が、国内に及ぶことを恐れたのだ。それを食い止めるため、彼は秘密警察などを使って国民の思想を絶えず「点検」し、動揺や反抗心のうかがえる者は政治犯収容所に送るなどした。
住民総会や住民暴露会などの手段を用いる金正恩氏のスタイルは、父の路線を踏襲したものと言える。しかし、その強硬な姿勢にも関わらず、当局の旗色は良くない。いくら取り締まっても、韓流の拡散と視聴は止まらないからだ。
(参考記事:北朝鮮の少年少女が恐れる「少年院送り」…それでも止められない遊びとは)
人間の「心」を統制するのは、それほど難しいことなのだ。金正恩氏もいいかげん、その辺の真理に気づいた方が身のためだろう。