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グッドルーザーとは180度異なる姿をさらした敗者ブライソン・デシャンボーの恥ずべき行為

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
今年6月に米ツアー2勝目を挙げたばかり。有望ゆえに情けない(写真/舩越園子)

 勝負の世界、プロゴルフの世界は勝ってナンボだが、その一方で、潔く勝者を讃える「グッドルーザー」は、敗者でありながら、ときとして勝者以上に美しく輝くこともある。

 しかし、残念ながら米国人選手のブライソン・デシャンボーは、そんなグッドルーザーとは180度異なる残念な姿を欧州でさらし、眺めていた人々を嘆かせてしまった。

 ドイツのハンブルグで開催された欧州ツアーのポルシェ・ヨーロピアン・オープン(7月26日~29日)に出場したデシャンボーは、最終日を首位タイで迎え、勝利を狙える絶好のチャンスに付けていた。しかし、最終日はまるで振るわず「78」を叩いて、結果は12位タイ。

 問題は、そんなデシャンボーのプレーそのものでも、スコアでも、順位でもない。

 ともに最終組を回った英国人選手のリチャード・マックエボイが72ホール目で6メートルのバーディーパットを見事に沈め、39歳にして初優勝を遂げた直後。

 喜びを噛み締めながら握手を求めて右手を差し出してきたマックエボイを、デシャンボーは無視。祝福の言葉もかけず、歩き去った。マックエボイは一瞬、「えっ?」と驚いた表情を見せたが、大きな拍手と歓声を送ってくれていた観衆にそのまま笑顔で応え続けた。

 だが、その様子を目撃していたギャラリーやテレビ視聴者からはSNS上で批判の声が次々に上がり始めた。批判というより、嘆きの声。たとえば、こんな具合だ。

「デシャンボーは、よほど悔しかったんだろう。だが、あの行為に品位は皆無だ!」

「今ごろデシャンボーは恥ずかしく感じているに違いない。72ホール目の彼のリアクションは恐ろしかった。プロとしての品位はゼロだ」

「いろんなスタイルを見せるデシャンボーだが、この行動は決して受け入れられない」

【「変わり者」と「苦労人」】

 欧州から発信されたこのニュースを耳にして、米国のゴルフファンやメディアも次々にSNS上で嘆き始めた。

「デシャンボーの行動は、米国人として恥ずかしい」

「批判する気にもならない。目を覆いたくなるような情けない行為」

 ちなみに、24歳のデシャンボーは全米アマチュア選手権など数々のアマチュア・タイトルを獲得し、将来を嘱望されながら2016年に米ツアーにデビューしたスター選手だ。

 2017年に早々に初優勝。そして今年は帝王ジャック・ニクラスの大会と呼ばれるメモリアル・トーナメントでも華々しく勝利を挙げ、さらなる活躍が期待されている実力派と言える。

 一般ファンからのツイートにもあるように「いろいろなスタイル」を見せることが、デシャンボーの特徴。「アイアンクラブはすべて同じ長さのほうが効率的」などと独自の物理化学的見解を口にし、それを本当に実行に移す風変りな、いやユニークな選手。

 米メディアは彼を描写する際、「Mad scientist(狂った科学者)」という枕詞を使うことが多いが、彼の際立つ個性が好きだというファンも大勢いる。実際、独自の手法で成績を出しているのだから、それなりの理屈も通っているのだろう。ある意味、彼は天才的と言えるのかもしれない。

 が、そんなユニークな試みの良し悪しはさておき、今季はルールに関する問題でその名が挙がり続けている。

 春先には、手にしていたパターがルール違反ではないか、パットの際の構え方や打ち方がルール違反ではないかと取り沙汰され、その2つはデシャンボー自身が変更し、騒ぎは収まった。

 だが、6月には試合中にコンパスを取り出して使用。米ツアーのルール委員から問われると、「ピン位置を正確に知るためにコンパスはとても便利だ。船員や水兵さんも使っている。僕もずっと前(2年前)から使っている」と言ってのけ、周囲を驚かせた。

 数週間後、ピン位置を知るためのコンパス使用はルール違反であるとの正式な見解がUSGA(全米ゴルフ協会)から発表され、これにはデシャンボーも従っていた。

 だが、勝者を讃えることをしなかった敗者デシャンボーの恥ずべきマナー違反に対しては、USGAや米ツアーやルール委員ではなく、ゴルフファンが批判と嘆きの声を上げた。

 せっかくの勝利に水をさされた形になった優勝者のマックエボイは、これまで12回も欧州ツアーのQスクール(予選会)を受け、それでも諦めずにプロゴルフの世界にしがみついてきた文字通りの苦労人。

 全英オープンが開催された先週は、同週開催のいわゆる「裏大会」にあたる欧州チャレンジツアーに出場し、そこで優勝したばかり。その勢いと自信を抱き、一軍の欧州ツアーにやってきて、今大会に挑み、そして2001年のプロ転向以来、初めてチャンピオンになった。

 そんなマックエボイの歩みを知る欧州のゴルフファンが「よく頑張ったね」と惜しみない拍手と祝福を送っていたその真っ只中、マックエボイの勝利と奮闘を讃えることもせず、握手もせずに歩き去っていったデシャンボー。

 プロゴルファーとして、最も恥ずべき行為。そう言われて、デシャンボーに返す言葉は、果たして、あるのだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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