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Intelの社長交代にみるハイテク企業経営者の日米の違い

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 Intelの新CEOがPat Gelsinger氏(図1)に決まった。同氏は元々Intelに30年以上在籍しCTO(最高技術責任者)を務めていた。半導体のプロセス技術に熟知したテクノロジーの最高責任者であり、創業者のRobert Noyceやムーアの法則で有名なGordon Moore氏、ビジネス書籍「パラノイアだけが生き残る」を記したAndy Grove氏などから、技術と経営を学んでいた。Intel退社後EMC、そしてVMwareに入社、2012年からその仮想化ソフトウエア会社のCEOを務めていた。これまでIntelのCEOだったBob Swan氏は2月15日に退任する。

図1 Intelの新CEOに決まったPat Gelsinger氏  出典:Intel Corp.
図1 Intelの新CEOに決まったPat Gelsinger氏 出典:Intel Corp.

 2020年のIntelは、第2四半期までは比較的順調に成長していたが、第3四半期は前年同期比10%減という残念な結果に終わった。Intelの株価は少しずつだが落ちて行き、2020年の4~5月ごろからAMDに大きく引き離される結果になった。すでにその兆候が少しずつ表れていた。その前の第2四半期の決算発表で、7nmプロセスの立上りの延期を発表した。TSMCが7nmプロセスサービスですでに大きな利益を手にしていたことと対照的だった。第3四半期の決算報告では、IntelがCPUの製造を自社工場ではなく、他のファウンドリに依頼することも選択肢にあると述べた。もはやIntelには未来がないとまでも言われた。

 Intelは、7nmプロセスの遅れに対してプロセス開発のマネージャーをガラリと変えた。しかし、Intelの株価低迷は止まらず、CEOのBob Swan氏に対する風当たりはますます強くなった。シリコンバレーの論客で、元Cypress Semiconductorの創業者兼CEOだったT.J.Rogers氏は、米国のニュース番組専門チャンネルのCNBC放送の12月31日におけるインタビューで、IntelのCEOを代えなければIntelは危ないと警告していた(参考資料1)。同氏は、Intelのようなハイテク企業では、Ph.D(博士)などの資格を持つ、もっとテクノロジーを熟知した人間をCEOにすべきだ、と主張していた。T.J.はかつてスタンフォード大学の博士課程で10年に一人の逸材と言われた人物だ。Intelに株価で大きく差を付けられたAMDのCEOはPh.Dを持つLisa Sue氏(図2)であり、彼女はIEEE Robert Noyce賞も2020年に受賞している。

図2 AMD CEOのLisa Sue氏 出典:CES2021の基調講演からプリントスクリーンで撮影
図2 AMD CEOのLisa Sue氏 出典:CES2021の基調講演からプリントスクリーンで撮影

 このほど退任するBob Swan氏は、その前のCEOであったBrian Krzanich氏が社内の従業員と関係を持った、ということが社内規定に触れるとして退任した2018年6月に、CEOとなった元CFO(最高財務責任者)であった。Intelに入社する前もずっと財務畑を歩んできた人間である。テクノロジーには詳しくないため、ワンポイントリリーフだと見られていた。ところが2年余りCEOの地位にいたものの、テクノロジーに疎いため将来の絵を自分で描くことができなかった。

 Intelのプロセスは、TSMCやSamsungよりも微細なプロセスを使っていたと言われてきた。例えば、Intelの16nmプロセスはTSMCの10nmプロセスと同程度といわれており、TSMCの7nmはIntelの10nmプロセスよりも少し大きい程度だった。しかし、一般投資家やアナリストにはそういった技術の詳細は通用しない。容赦なくIntelのプロセスは遅れている、と言われていた。

 だが、TSMCの微細化のスピードは極めて速い。1月14日に発表したTSMCの第4四半期決算報告会では、第4四半期の売上額の20%が7nmプロセスの一つ先の5nmプロセスをすでに占めていた(図3)。第3四半期では10%程度しかなかったのにもかかわらずだ。第2四半期には5nmプロセスは影も形もなかった。Intelがプロセス技術でもたついている間に、TSMCはあっという間にその先を走り、大きく差を広げていたのである。

図3 TSMCの売上額はすでに5nmプロセスが20%も占める 出典:TSMC
図3 TSMCの売上額はすでに5nmプロセスが20%も占める 出典:TSMC

 Intelでは、テクノロジーに付いていけない経営トップはもはや用済みなのだ。米国のソフトウエアベースの計測器メーカーでありLabVIEWで有名なNational Instruments社でも、2017年からCEOとなった財務出身のAlex Davern氏は、2020年2月にアプリケーションエンジニアの経験を持つEric Starloff氏に代わった。Davern氏がCEOに任命される前は、創業者のJames Truchard博士が1976年以来、2016年12月まで40年間、CEOを務めていた。

 日本ではハイテク企業であってもテクノロジーに疎い人間がトップを務める例が実に多いが、これこそが、日本が遅れている要因の一つかもしれない。半導体やITのようなスピードが求められる産業では、常にテクノロジートレンドに気を配っていなければハイテク世界から置いていかれる。こういったテクノロジートレンドを先読みできない経営トップがいる限り、日本の成長は遅れるであろう。

参考資料

1.米国ニュス専門チャネルCNBC(2020/12/30)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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