北朝鮮から届いた新年報告 評判下がり続ける金正恩氏 庶民は「新年辞」にも辛辣
年が明けて、北朝鮮に住む取材パートナーたちから新年の報告が続々届いている。「幸多き年になりますように」と、互いに新年の挨拶を交わしたのだが、皆さんの気分はあまり冴えないようだった。
元旦は休みだったが、農村では早くも3日から「堆肥づくり戦闘」に動員されている。また恒例の金正恩氏の年頭演説=「新年辞」の学習も始まった。北朝鮮の正月は、憂鬱な一年の始まりでもあるのだ。
新年辞では前年の総括と新年の展望が述べられるのだが、意味ある内容は少ない。自画自賛の「画期的成果」と欲張り過ぎの目標をずらり
と並べ立てるのがならいだ。今年の新年辞の項目をざっと列記しよう。
・朝鮮労働党第7回大会が成功。
・核強国、軍事強国になった。
・経済生産は順調であった。
・大陸間弾道ロケット試験発射準備が最終段階に入った。
・自力で5カ年経済戦略の目標を達成しなければならない。
異例だったのが、金正恩氏による「反省の弁」的一節があったことだが、これについては後述する。
1月4日と5日、北部の咸鏡北道に住む取材協力者A氏(男、労働党員)と、両江道に住むB氏(女、労働者)から、新年辞について聞くことができた。
――金正恩氏の新年辞演説をテレビで見ましたか?
A氏 そもそも電気がまともに来てないのでテレビが映りません。元旦の新年辞も見ていません。3日から出勤で、職場で朝から新年辞の学習会があって、新年辞を貫徹する決起大会をしました。農村では堆肥生産に動員されています。
――新年辞について住民の反応は?
A氏 毎年やっているけれど、何もよくなったことなんてないから、皆、関心ないですよ。「金正恩が弾道ミサイルを完成させると言っているが、それを作って何かの役に立つのかさっぱりわからん」と言ってる人がいましたね。
新年辞の学習が終わった後、職場の人たちは「お正月だというのに、何も(人民に)与えるものがないから、金正恩の新年辞は気持ちだけだ」と言って笑っていました(中身がないの意)。でも、言葉に気を付けないと監視対象になるので、知り合い同士で囁いて笑うだけです。
(参考記事:金正恩氏に厳しい評価続々 「祖父の真似ばかり」「若造」「デブ」呼ばわりも)
さて、今年の新年辞には、珍しく「目玉」があった。金正恩氏が演説の後半で自己批判めいた発言をしたのだ。朝鮮中央通信から引用しよう。
北朝鮮には「領導者無謬の原則」がある。金正日氏-金正恩氏は、あらゆるメディアで一度も批判されたことがない。間違いを犯すことは「ありえない」からだ。失策の責任は常に他の幹部に向けられ、場合によっては粛清されることもある。
(参考記事:金正恩に逆らった張成沢 写真に現れていた粛清の理由)
金正恩氏の自己批判めいた発言は、どう受け取られたのだろうか?
A氏 その発言のため、幹部たちは党委員会に「自己批判書を書いて出せ」と言われていました。 何を間違って、何がうまくできたか、今年はどうするつもりか決意も書かされたということです。(金正恩氏は)『今年は一層頑張ります』と言っていたけれど、それはつまり(人民を)もっと締め上げるということなんです。何もしてくれなくていい。統制だけ緩めてくれればいい。今は、皆が商行為で生計を立てていますから、統制が緩くなれば少しは楽に商売できますから。
また、新年辞には「自力自強」で経済を発展させるというスローガンがあった。外国に頼らず、自前の資源とエネルギー、技術で産業振興を図るというわけだ。
A氏 「自力自強」なんて言うけれど、商売人たちが国の経済を守っているのにね。上の奴らは働きもせず口ばかりで生きている。市場に座って商売しているおばさんたちが朝鮮の経済を支えているんですよ。上の奴らが、いったい何を実現したというのでしょう? 市場がなくなれば(経済は)ひっくり返ってしまうのに。
別の取材パートナーB氏の言葉も紹介しよう。彼女も停電のためにテレビで新年辞放送は見ていなかった。
B氏 停電ということもあったけれど、新年辞なんて面白くもないのに、映画じゃあるまいし誰が見たいですか? (自己批判的な発言があったので)幹部たちは自己批判書と決意文を書かされていました。
(参考記事:<北朝鮮内部報告>電力事情急悪化で鉄道麻痺 動かぬ列車内で死者発生とも(写真3枚))
付記
1月8日は金正恩氏の誕生日だ。北朝鮮政権は、いまだに金正恩氏の生年を公表していない。韓国政府は1984年生まれだと推察している。すると33歳だ。B氏によれば、誕生日に金正恩氏への「忠誠の集まり」が機関ごとに開催されることになったという。とすると、公的な誕生日行事は初めてのことであり、金正恩個人崇拝が本格化する可能性がある。