「恋です!ヤンキー君と白杖ガール」放送 意外と知らない、視覚障害の人を守る白杖とは
連続ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール」が10月6日水曜日22時~日本テレビ系列で放送が始まります。ちなみに、白杖は(はくじょう)と読みます。これは視覚障害の人が持っている白い杖の事です。
現役眼科医であり、ドラマの医療監修もしたことがあるので白杖を持っている方の特徴やドラマでの表現についてお伝えできればと思います。
「白杖=失明」ではなく見えている人も多い
白杖を持っている方を見ると両目完全に失明して光を失っている。そう思ってしまいます。けれども右目視力0.02左目視力0.04というように両目全く見えないわけではない人が白杖を使っているケースも多いのです。私の患者さんで白杖を使っている人をみると、完全に両目失明している人の方が稀です。このドラマの主人公赤座ユキコもそうです。「色がうっすらわかる」「ぼやっとはみえる」というように見えています。
多少はみえているし、さらに白杖をつかって前を確認しながら歩いている。となれば、白杖さえあればどんどんわかって歩ける。と思いがちです。けれどもそうではありません。そもそも白杖は使うのが難しい。視覚障害を持っている方の中で白杖を使いこなせる人の方が少ないのです。ドラマの主人公赤座ユキコのようにお子さんの頃から弱視で見えない方の場合は比較的適応力があるので使いこなせる人もいます。しかし、40代で失明された方、ましてや70代で失明された方が白杖の使い方を習得するのはかなりの努力を要します。そういう意味で点字ブロックはかなり頼りになる存在ですがどこにでもあるわけではない。ぼやっと見える視覚をうまく使いながら歩行することになり危険です。毎日新聞・日本盲人会連合の視覚障害者の鉄道駅に関するアンケート調査によれば視覚障害の方の31.5%がホーム転落をしてしまったという経験があったという事です。これは怖い事です。そのための点字ブロックやホームドアの設置も大切です。一方視覚障害者が落ちそうな所を歩いている時あなたが声がけをしていただくという事も命を救う事になります。
どうやって言ったらいいの?と思うかもしれませんがまさに落ちそうな時は「白い杖の人止まって危ない!」と叫んでいただければと。後は手を取って止めるという事も一つの方法です。(ただし普通に歩いている時急に手を取るのはびっくりさせるので通常の介助ではお勧めしないです)困っていそうな人がいたら「なにかお困りですか?」と声をかければ事故を防げます。
文字を読むのも練習が必要です。よく視覚障害者の方は点字があるから大丈夫。と思われるかもしれませんが点字が読める視覚障害者の方の方が少数派です。あなたも来月失明したと想像した時「点字で読もう」とはならないと思います。そのため文字の大きくした書籍なども販売されています。今はスマホのアプリなどを使って拡大してみている患者さんもいます。
このように視覚障害の方が使う道具は白杖だけではなく専門のルーペ、拡大して文字を読むための拡大読書器、ボタンを押して時間を教えてくれる時計など様々な便利な道具があります。あまり知られていないので、もしご家族や知り合いで見にくく生活に困っている人がいる場合はそのことを教えてあげるのは喜ばれるかもしれません。これらの道具は視覚障害者認定を受けることである程度安く購入することができます。視覚障害として認定されているのは厚生労働省の身体障害児・者等実態調査では約31万人程度と言われています。では視覚障害者にはどのぐらいの視力でなるのでしょうか?
片目失明しても、視力0.01でも白杖はもらえない
外来で「私は両目視力0.02だから視覚障害になりますか?」と聞かれることがあります。一般的に視力とは裸眼視力の事をさしますが医学的な視力は矯正視力、しっかりメガネを合わせた視力を対象としています。なので裸眼視力がどんなに悪くても矯正視力がでるのであれば視覚障害者とはなりません。
失明したら視覚障害者になるだろうと思われる方もいます。例えば不幸にも片目失明するとなるとさすがに視覚障害者として認定されそうですがそうでもありません。もう片方の視力が0.7以上でているような状態であれば認定されないのです。例えば「良いほうの目の視力が0.3~0.6でもう片方が0.02以下」ぐらいが一つの基準になっています。
視覚障害者の認定は主にこの「矯正視力」と「視野」で決まります。(細かい条件はありますが)例えば視覚障害が最も重い1級でというように決まっています。視野の場合は細かい計算をして等級を算出します。基準などはホームページでよく紹介されているので参考にしていただければと思います。
視覚障害を演じることの難しさ
以前私は「盲目のヨシノリ先生」というドラマで医療監修を担当しました。そのドラマでは両目問題なく見えていた先生が、網膜剥離という病気で両目が見えなくなる過程とその中での人間ドラマを描いたドラマです。視覚障害の役柄というと一般的には「両目失明」した役柄を想像してしまいます。だから「簡単そうだ」と思われがちです。けれども両目失明はしていなくてそれなりに見えているという状況は役者さん泣かせの状況だという事に気づきました。
例えば私が本をあなたに渡すとします。それを受け取るあなたが視覚障害の役柄だとどう演じるでしょうか?ついやりがちなのが空中をスカっと手を動かしてしまうという行為です。これは両目失明していて見えない人ならありうるわけですがある程度見えている場合はあまりおきない現象です。
しかし実際は「多少見えている」わけなのでぼんやりここら辺かなというのはわかります。単行本の場所は何となくわかるが遠近感や具体的に細かくはわからないという事なのでスカッとはならずちょっとズレて時間はかかるがしっかり受け取れるという感じが実際の患者さんの反応です。
そういう意味で赤座ユキコ役の杉咲花さんはかなり苦労されているのかなと感じます。そういう視点ももってドラマを見ていただけるとより楽しめるかなと思います。また現在緑内障・黄斑変性・網膜色素変性など何らかの目の病気を抱えている人の家族にとっては相手を知るという意味ではよいドラマだと思います。病を抱えている当人にとってはまっすぐ見れる人とそうでもない人がいると思うので可能な範囲でと思います。もし将来見れるようになった時にドラマでもマンガでも見ていただければこういう事があるのかと知れるきっかけになる内容と思います。
今回は『ヤンキー君と白杖ガール』(KADOKAWA)というマンガを原作としています。そこからドラマ化されていますが恋愛が絡みながら視覚障害という題材を取り扱ってくれている非常に珍しい作品です。このような作品を描いてくださったうおやまさん(@uoyamangamanga)には感謝です。
こういうドラマは素晴らしいからぜひ見ていただければと思います。こういう風に視覚障害に社会が注目すると実はいい事があります。それは視覚障害の人がいることを世の中が知れる。すると、会社やお店を視覚障害の人に便利なようにレイアウトを考えてくれる人ができる、点字ブロックに自転車を置く人が減る、また積極的に視覚障害に携わろうと新薬開発のみならず便利なデバイスの開発も進むという事があります。例えば現在視野が悪い人向けに残っている視野に画像を投影してみるような道具というのも開発が進んでいます。今後の未来の道具の開発もこうやって社会の風潮が高まることで進んでいくと信じています。10月10日は目の愛護デーです。医療従事者はもちろんの事、多くの人がシェアいただき視覚障害について知る機会をつくれればと思います。
とはいえ何よりまずはドラマを一緒に楽しんでいただければと思います。