「金正恩の犬野郎のせいで人民が餓死」落書き容疑者に凄惨な拷問
「此頃都ニハヤル物」で始まる二条河原の落書は、日本史上最も有名な落書と言えよう。建武元年(1334年)8月のものとされ、当時の政治や社会を批判する内容だ。当時の落書は必ずしも壁などに書かれたものではなく、怪文書のような形で出される場合もあり、江戸時代に最も流行した。また、戦前期には反戦や天皇制批判などの落書が取り締まりの対象となった。
今でも落書きは軽犯罪法違反だが、その内容の是非が問われることはない。しかし、北朝鮮では、内容の方が大問題になる。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、恵山(ヘサン)に住む40代男性は一昨年9月、人民班(町内会)の警備哨所(検問所)に、国家を批判する内容の落書きをした容疑で逮捕された。
北朝鮮では当時、首都・平壌でマンションの外壁に「金正恩の犬野郎、人民がお前のせいで餓死している」と書かれているのが見つかったのに続き、全国各地で同種の落書きが相次いで発見され大騒ぎになっていた。
北朝鮮でこうした「落書き事件」は珍しくないが、犯人が捕まったという話はあまり聞かない。捜査に当たる保衛部(秘密警察)は、犯人を追跡するのと同時に、こうした社会不安が起きている事実を隠蔽しなければならないという矛盾した立場に置かれ、大々的な公開捜査ができないからだ。
しかし、このときは違った。恵山市保衛部は、約19万に及ぶ恵山市民全員の筆跡調査を行い、当該の落書きと照らし合わせた。その結果、この男性が容疑者として浮上したという。恵山での落書きの内容は詳らかにされていないが、平壌と同水準の刺激的なものだったのだろう。
両江道保衛局に勾留された男性は、取り調べで容疑を強く否認したものの、すぐに濡れ衣を晴らす証拠がなかった。監視カメラが設置されていたらすぐに容疑者がわかるものだが、電力不足の深刻な北朝鮮では、作動していないことが多い。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
男性は結局、一昨年12月中旬に平壌の国家保衛省に身柄を移された。このことから、単なる政府批判ではなく、金正恩総書記を批判する内容だったことがうかがえる。彼はありとあらゆる拷問を加えられたが、昨年8月に容疑なしとされ釈放されたという。
情報筋は「ここ(北朝鮮)では、筆跡が似ているという理由だけで、無実の人を捕まえて死ぬほど拷問を加える。濡れ衣だと認められただけでも幸いと考えるべき」と話している。