【なぜ仮面ライダー同士が殺し合ったのか?】幾多の仮面ライダーを葬った最凶最悪のダークヒーローは誰?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
もうすぐ新年度。麗らかな春の空気を感じる季節となりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のテーマは「最凶最悪」です。
「お前、年度末の忙しさでいよいよおかしくなったか?」と言われそうですが・・・私はいたって大丈夫です。これまで通りの雰囲気で記事をお送りしていますので、ご安心ください。
・・・実は今回、本テーマのもとで是非ご紹介したい・・・とある特撮ヒーロー番組がございます。
その番組とは、『仮面ライダー龍騎(2002)』。
東映制作の国民的特撮ヒーロー番組である「仮面ライダーシリーズ」の1作品であり、『仮面ライダークウガ(2000)』を起点とする平成仮面ライダーシリーズの第3作でした。
そんな『仮面ライダー龍騎(2002)』には13人もの仮面ライダー達が登場しますが、その中でも特に凶悪な個性を放っていたのが、仮面ライダー王蛇でした。
なんとこの王蛇、連続殺人犯が変身する悪の仮面ライダーでした。そのインパクトは絶大で、本作に登場する他の仮面ライダーを何人も殺害していったほか、作品視聴者から番組にクレームの嵐が寄せられる事態まで発生させた、正に「最凶最悪」の仮面ライダーだったのです。
そんな冷酷な王蛇ですが、以降の仮面ライダーシリーズに登場する悪の仮面ライダーに先鞭をつけた、いわば時代の先駆者的な存在でもあります。『仮面ライダー龍騎』放送終了から20年以上経過した現在も、非常に高い人気を誇るカリスマ性を有しており、後の仮面ライダーシリーズにおいて何度も復活した名悪役。
そこで今回は、そんな最凶最悪のライダーである「仮面ライダー王蛇」の魅力について、焦点を当てていきたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【少しおさらい♪仮面ライダーシリーズの歴史】お約束からの脱却!新ヒーロー像を確立した平成仮面ライダーシリーズの魅力とは?
さて、ここからは仮面ライダー王蛇のお話に入る前に・・・少しだけ、仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになります。
時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』であり、本作で試みられたのが、仮面ライダーシリーズにおける「既成概念の破壊」でした。
つまり「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」、「奇声を放つ戦闘員の集団と、それを率いる悪の怪人」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた概念、いわば「お約束」を破壊し、平成という時代に適合した新たな仮面ライダーを創造しようとしていたのです。
その結果、『仮面ライダークウガ(2000)』は、主人公(五代雄介)が古代遺跡から発掘されたアークル(変身ベルト)を身に宿して変身する仮面ライダークウガが、警察組織と共に、古代の封印から解かれた戦闘民族(グロンギ怪人)相手に「みんなの笑顔を守る」ために戦う物語が描かれました。
これまでの仮面ライダーシリーズの既成概念を破壊する、全く新しい世界観で好評を得た『仮面ライダークウガ(2000)』に続き、シリーズのバトンは次回作『仮面ライダーアギト(2001)』へと継承されました。本作では4人の仮面ライダーが登場し、それぞれが己の信念のために「闇の力」が送り込む怪人と戦う物語が展開されました。『アギト(2001)』に登場する4人の仮面ライダー達も改造人間ではなく、超常的な力から仮面ライダーとなった存在のほか、なんと警視庁の人間が怪人と戦うために強化服を装着し、仮面ライダーとして戦闘に参加する姿も描写されました。
つまり、もはや「仮面ライダー=改造人間」ではなく、特別な力のない一般人でも何かしらの必要な手続き(ベルトの入手、アーマーの装着等)を踏めば、誰でも仮面ライダーになり得る可能性が『クウガ(2000)』、『アギト(2001)』を通じて描かれており、この「誰でも仮面ライダーになれる」展開は、平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』において、大いに飛躍することになります。
【戦わなければ生き残れない!】13人の仮面ライダー達のバトルロワイヤル!連続殺人犯が変身する仮面ライダー王蛇はどんなライダー?
前章で述べた過程を得て、平成仮面ライダーシリーズは第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』の放送を迎えることになります。
『仮面ライダー龍騎(2002)』は2002年から2003年にかけて、全50話とテレビスペシャルが放送されました。本作の物語は、13人の仮面ライダー達が己の願いを叶えるために殺し合い、最後のひとりになった者が願いを叶えることが出来るという、仮面ライダー同士のバトルロワイヤルが描かれました。
「今までみたいな仮面ライダーと怪人が戦う話じゃないんだね?」
と指摘されますと・・・物語の重きはそこではありません。もちろん仮面ライダーが怪人(本作ではミラーモンスターと呼称)と戦う描写はあります。しかし最後の一人になるまで仮面ライダー同士が戦い、己の願いを叶えることにスポットが当てられた、いわば「戦わなければ生き残れない」ライダー達の物語が展開されました。
本作に登場する怪人達(ミラーモンスター)も人を襲い仮面ライダーに倒されるだけでなく、仮面ライダーに力を与えてくれる存在としても描かれており、モンスターと「契約」をすることで、仮面ライダーはモンスターの力を使うことが出来るという独特な試みも行なわれました。
そんな『仮面ライダー龍騎(2002)』は、13人の仮面ライダーが登場する物語。よってひとり一人個性豊かな仮面ライダーが登場しました。
意識不明状態の恋人を助けるために戦う仮面ライダーナイト、悪徳刑事が変身した仮面ライダーシザース、不治の病のため「永遠の命」を求めて弁護士が変身した仮面ライダーゾルダ、情緒不安定な性格で「英雄」になりたい承認欲求に取り憑かれた仮面ライダータイガ等、従来の仮面ライダーシリーズのような世界の平和ではなく、己の「願い」のために仮面ライダー達は壮絶なバトルを繰り広げます。
そんな中、主人公の仮面ライダー龍騎は「ミラーモンスター(怪物)から人を守る」ために仮面ライダーとなり、仮面ライダー同士の戦いを止めるために奮闘します。そんな彼の思いとは裏腹に、血みどろの戦いを求める者がいました。
それが、本記事の主人公である仮面ライダー王蛇でした。
王蛇に変身するのが、連続殺人犯の浅倉威。「イライラしたから」という単純な動機で殺人を繰り返し、自分の家族でさえ手にかけた凶悪犯。関東拘置所の中で、ライダーバトルの主催者(神崎士郎)に対して仮面ライダーになることに同意して脱獄、彼の願いは「戦いを続けること」でした。
この王蛇ですが、そのファイトスタイルは極めて野獣的。戦う対象を見つけては襲撃をかけ、たとえ逃がしても蛇のごとく対象をしつこく付け狙い、戦闘を繰り返すという強かさも有した極めて危険な存在でした。自らを無罪に出来なかった弁護士(仮面ライダーゾルダ)を逆恨みして付け狙った上、自分を逮捕した悪徳刑事(仮面ライダーシザース)を爆殺、さらに敵の攻撃から他のライダー(仮面ライダーガイ)を盾にして爆死させる等の凶行に及び、テレビシリーズ全50話と特番を含めて、13人中4人の仮面ライダーを殺害していました。そんな戦いそのものに喜びを見出している彼は、戦いを止めようとする仮面ライダー龍騎を敵視しています。
変身者である浅倉威は普段は浮浪者のような生活をしており、廃屋を転々とし、トカゲを丸焼きにして食べたり生卵を食したりして飢えを凌ぎ、ムール貝を殻ごと食したり、さらには泥を食べていたことを示唆させるような仰天発言も飛び出す等、私生活や食生活も極めて野獣的。変身前だろうが変身後だろうが「イライラ」を動機に人を襲い暴行や殺害に及んでいました。当然ながらそんな浅倉に対して恨みを持つ者も登場し、姉を浅倉に殺された女性が仮面ライダーファムとなり、姉を蘇生させるためにライダー同士の殺し合いに参戦する等、新たな憎しみさえ生み出してしまったのです。
さらに浅倉(王蛇)は変身途中の主人公(仮面ライダー龍騎)を背後から鉄パイプで襲いかかるといった、「変身の途中で邪魔をしてはいけない」というヒーロー番組の「お約束」をぶち壊す行為にも出る等、作品視聴者に強烈なインパクトを残していたのです。
「世界の平和を守る仮面ライダー」ではなく、自らの欲望のためにライダー同士の殺し合いを展開した『仮面ライダー龍騎(2002)』には、もともと賛否両論の声もありました。しかも仮面ライダー王蛇(浅倉威)というキャラクターに対しては、視聴者からクレームの嵐も発生していたそうです。
しかしそんな浅倉も単に暴力的な「ヤバい奴」だけではなく、(本人のためでないとはいえ)少女を救出したり、他の仮面ライダー達との多数決で「主人公(仮面ライダー龍騎)が馬鹿だと思う人」に他のライダー達と一緒に手を上げたりと、計画的かつコミカルなキャラクター性も併せ持っていました(少女と浅倉に焦点が当てられた第31話と32話放送以降、浅倉へのクレームは一切なくなったという逸話が残されているのだとか)。
しかしそんな浅倉も最期の時がやってきました。『仮面ライダー龍騎』最終回において、決着を望んでいた北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)との戦いが、北岡の死亡によって終止符を打つことができない怒りに震え、浅倉を待ち受けていた機動隊に鉄パイプ1本で挑むも、一斉射撃を受けて死亡するという壮絶な終焉を迎えます。
最後に生き残った仮面ライダーは、仮面ライダーナイトでした。主人公(龍騎)は生身の状態でミラーモンスターの襲撃から子どもを庇い、吐血して死亡。ナイトは恋人を助けたいという願いを叶えます。
恋人(恵理)が目覚めた傍らには、既にこと切れた秋山蓮(仮面ライダーナイト)の姿があったのでしたー。
「以上が、原因不明の失踪事件の真相であり、仮面ライダーと名乗る人間達の戦いの真実である。この戦いに・・・正義はない。そこにあるのは、純粋な願いだけである。その是非を問えるものは・・・?」
「13人の仮面ライダー同士のバトルロワイヤルを描く」という、平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』における試みは、賛否両論を呼びつつも大成功し、女性ファンの支持拡大にも大きな影響を及ぼしました。
平成仮面ライダーシリーズはその後も、第20作『仮面ライダージオウ(2019)』までシリーズのバトンを繋いでいくことになります。
その後、時代が令和へと移行すると「令和仮面ライダー」シリーズとして、仮面ライダーシリーズは現在までに至ります。後輩仮面ライダー達の活躍の中で、『仮面ライダー龍騎(2002)』に登場したライダー達は幾度も再登場を果たしており、その中には浅倉威(仮面ライダー王蛇)の姿もありました。
死んだはずの浅倉威ですが、彼は何度も蘇り、最新の仮面ライダー達の物語を大きくかき回しますが、新たな仮面ライダー達の活躍によって最悪の事態は防がれていきました。
そして現在、浅倉威は令和の世に復活します。彼は強い仮面ライダーの存在を知り、新たな戦いへと身を投じていくことになります。新たな力を得た浅倉威(仮面ライダー王蛇)が、これからどのような活躍を見せていくのかー。
私も作品を楽しみにしている一ファンとして、見届けていきたいと思います。
新たな浅倉威(仮面ライダー王蛇)の物語は、動画配信サービス「東映特撮ファンクラブ(外部リンク)」内の『仮面ライダーアウトサイダーズ』にて視聴することができます。物語はまだ途中ですが、歴代の仮面ライダーを巻き込んだ怒濤の展開が続く豪華内容。正にオードブルにお料理を楽しんでいるような感覚で作品を楽しむことが出来るのでお勧めです。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.3 仮面ライダー龍騎』、講談社
・鈴木康成、『語れ!仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ
・鈴木康成、『語れ!平成仮面ライダー【永久保存版】』、KKベストセラーズ